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【AIOライト 2日目 08:42(5/6・晴れ) 西の草原】


「此処が西の草原か……」

 西の草原は掲示板の情報通りどこまでも続くように思える平坦な土地に長くても膝下ぐらいの丈の草が綺麗に生え揃い、それらが風でゆっくりとなびいているという、何処か長閑さを感じさせる場所だった。

 勿論、途中途中には目印になりそうな樹や、大きめの岩などが有ったりはするし、草に隠れて見えないだけでモンスターも居る。

 だがそれでもどちらかと言えば平穏で、静かな場所であるように感じた。


「誰かフリーの人居ませんかー!」

「盾持ちさん誰か居ないかー!」

「テメエ!狭いんだよ!あっち行け!」

「んだとこらぁ!!」

「今日は行けるとこまで行き続けるぞ!」

「求む!普通の薬草!こっちはモンスター素材出すよ!」

「……」

 尤も、昨日の南の森林とは比較にならない程に騒がしい大量のプレイヤーが居なければだが。

 いやまあ、普通に考えて情報が無かった昨日はバラバラの方角に行っていたプレイヤーたちが、今日は情報があるという事で初心者……特にPTでの活動を選んだプレイヤーたちでも探索がしやすそうなマップに集合した結果なんだろうけどね。

 パーティ云々を除けば俺もそう言う判断の下にこのマップに来ているわけだし、それは理解できる。

 西の大門のすぐ外に屯して騒ぎ合っている精神は理解できないが。


「とりあえず出来るだけ街から離れた場所で採取と戦闘をするか」

 いずれにしても、昨日の経験から考えてこの場にモンスターが現れる事はない。

 そう判断した俺はマップで方角を確認すると、北西の方角に向けて一人で歩き始めた。



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「ゾッタじゃねえか」

「トロヘルか」

 歩くこと十分ほど。

 喧騒からある程度離れた頃、昨日南の大門で出会ったトロヘルと俺は出会った。

 ただ、装備は少し変わっている。

 具体的に言えば頭と腕に木製の輪を付けており、少し防御力が上がってそうな感じになった。


「こっちに来ていたんだな」

「まあな。南の森林は昨日一日居て、合わないと分かったから場所を変えたのさ」

「なるほど」

 そう言うとトロヘルは背中の大槍を軽く指さす。

 確かにトロヘルの大槍であの森の中は、自由に槍を動かせず少々厳しいかもしれない。


「ちなみに東の丘陵に行こうとは?」

「思ったがそこはノリと勢いで西に決めたな。ああ、北の湿地帯は有り得ない」

「北はな……『巌の開拓者(ノーム)』の掲示板でも止めとけって言われてた」

「そこは『紅蓮蜥蜴の徒(サラマンダー)』でも同意見だったな」

 なお、東の丘陵については西の草原共々選択肢に上がるが、北の湿地帯は論外である。

 なにせ、あくまでも掲示板情報だが、殆どの足場がぬかるんでいて、対策無しでは戦闘どころかマトモな探索も行えないというのだから。

 そんな情報が有ったら……まあ、用事があるか物好きでなければ行かないだろう。


「さてとだ。折角会えたんだしパーティでも組んでみるか?」

「そうだな。折角だし組んでみるか」

「よし、じゃあ、俺の方から送るぞ」

「分かった」

 トロヘルから俺へとパーティ申請が送られてきたので、俺はそれを受注する。

 すると視界の左上隅、俺のバーが表示されている場所の下に、名前の横に王冠のマークが付けられたトロヘルの名前とバーが表示される。

 どうやら王冠のマークでトロヘルがリーダーである事を示しているらしい。


「採取アイテムやモンスターの剥ぎ取りについてはどうする?」

「採取については詮索なしの取ったもん勝ちの恨みっこなし。勿論剥ぎ取りについても、剥ぎ取ったアイテムについては詮索なしの取ったもん勝ち。ただし、回収は戦闘が終わってからにする事。後でモメるのは御免だしな」

「了解。それなら何の問題もない」

 アイテムについてはお互いに詮索なしとなった。

 まあ、昨日のPKの一件を考えたら、これが一番だろう。

 リアルラックのあるなしについてはステータスではどうしようもない部分だしな。


「じゃ、とりあえずモンスターが現れる辺りまでは移動しますかね。ゾッタがどれくらい戦えるかも知りたいしな」

「そうだな。俺もトロヘルがどの程度戦えるかは知っておきたい」

 と言うわけでパーティを組んだ俺とトロヘルの二人は、北西の方角に向かって移動を再開しようとした。


「ん?」

「お?」

 その時だった。

 俺たちの前の草むらが僅かに揺れ始める。


「ゾッタ」

「分かってる」

 トロヘルが槍を両手でもって構え、俺も左手の盾を前に出しつつ右手に持った斧を何時でも振れるように構える。

 そして、F(フレンドリー)F(ファイア)を防ぐために少しずつ左右に位置をずらし、存分に武器を振り回せるように距離を空ける。


「出て来るぞ」

「ガァ……」

 やがて草むらを掻き分けてそれ……プレントータスLv.1と表示された体高1m程の亀がゆっくりと現れる。

 ノンアクティブの敵の証拠である緑色のマーカーを付けながら。

 相変わらずの何処に潜んでいたんだと言いたくなるようなサイズ無視で。


「ああん?」

「どうしたんだトロヘル?」

 目の前のプレントータスに対してトロヘルが妙な声を上げる。

 一体どうしたというのだろうか?


「いや、俺は昨日、南の森林でコイツに会っているんだ。だがあの時は最初からアクティブだったぞ?」

「個体か場所の差じゃないか?」

「なのか?」

 どうやらトロヘルは昨日プレントータスと戦った事があるらしい。

 が、昨日はアクティブ……積極的にプレイヤーを襲って来たのに、今日はノンアクティブ……こちらから仕掛けなければ襲って来ないモンスターになっているのか。

 確かに妙ではあるな。


「まあいい、マーカーが付いているって事は攻撃していいって事だしな。遠慮なく倒させてもらおう」

「分かった。初撃は頼んでいいか?」

「言われなくとも。さ、甲羅と口に注意して戦うぞ」

「了解」

 妙ではあるが、今は倒す事に集中するべきだろう。

 そう判断して、俺とトロヘルはプレントータスに襲い掛かった。

アクティブ→ノンアクの理由はきちんとございます。

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