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【AIOライト 2日目 06:05(5/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「朝か……」

 次に目を覚ました時、既に陽は昇っていた。

 俺は味のないカロリーバーと水を腹の中に収めると、メニュー画面を操作して今日の準備を手際よく整える。

 まあ、整えると言ってもビギナズハンドアクスとプレンウッドバックラーの二つを装備し、プレンウッドボックスが一つインベントリに入っている事を確かめるだけなのだが。

 それでもこういう事が簡単に出来るのはゲームの中だからであり、現実での面倒さを考えると嬉しい話である。


「さて、まずは依頼を見てみるか」

「「「おはようございます」」」

 俺は部屋を出ると、まずは受付に行こうとする。

 目的は依頼の確認。

 もしもプレンウッドボックスを対象とした依頼があるならば、売るつもりである。


「えーと……」

 それにしても『巌の開拓者(ノーム)』ヒタイ第24支部はプレイヤーの数も少ないので、こういう時に楽である。

 なにせ今も俺含めてプレイヤーは男三人の女一人で四人しか居ないのだから。


「ああ、あった」

 さて、目的とするプレンウッドボックスを納品する依頼はきちんとあった。

 依頼の内容はプレンウッドボックスの納品で、納品する数は問わず、納品した数×250G(ゴールド)が報酬として支払われるとの事だった。

 ギルドに対して普通にプレンウッドボックスを売った場合の値段が一個120Gなのを考えると、破格と言ってもいいだろう。

 余談だが、材料である普通の丸太は売値50G、買値125Gとあったので、依頼が生きている間はギルドで材料を買って錬金、納品の流れで、お金を減らさずに経験値を稼げるようだった。

 尤も、システム上の事だけだとは思うが、住民からの依頼と言う形である以上、何時までも同じ依頼が残っているとは思えないが。


「納品っと」

「納品ありがとうございます」

 まあ、そんな事はさて置いて、俺は倉庫ボックスからプレンウッドボックスを直接移動させて納品、250Gを得て依頼を完了する。

 このお金は……うん、今日の外での活動前に市場で何か味のする物を買って食べるのに使おう。

 装備品なんて自分で素材を集めて造ればいいんだし。


「ん?」

「……」

 と、此処で俺は不意に誰かの視線を感じ、他のプレイヤーが居る方を向く。

 だが、誰が視線を飛ばしてきたかまでは分からなかった。

 挙動的には俺が振り向くと同時に身体の向きを変えた女性……いや、身長的に少女と言うべきプレイヤーな気がするが、まあ、気にすることではないだろう。

 ウェーブのかかった黒い長髪や細かい挙動が俺の記憶の隅に引っかかりはしても、リアルの知り合いの誰かと偶然近い動きをしているだけの事だろうし。

 と言うか一緒に始めようとしたとかでもなければ、確率的にリアルの友人がこの世界に居るとは思えないしな。


「ま、いいか」

 そんなわけで俺はこの話題について考えるのを止めると、ギルドの外に出るのだった。



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「安いよ安いよ!」

「干し肉だ!いい熟成具合だよ!」

「みずみずしいリンゴ。お兄さん一つどうだい!?」

「よう、大将。仕事の調子はどうだい?」

「首架け橋に素人は近づけさせられぬ」

 さて、今更ではあるが、始まりの街・ヒタイとその周辺の地理について確認しておくとしよう。

 まず掲示板の情報によれば、始まりの街・ヒタイは元々の住民だけでも二十万は確実に居たと言える程に巨大な都市であるそうで、メインの大通りと広場、それに主要な通りぐらいまでは規則正しい配置になっているが、それより先の小広場や小道などは迷路としか表現できない程に入り組んでいるとの事である。

 しかも噂レベルの話ではあるが、地下道まで存在しているとの事で、街の全てを把握しようと思ったらそれだけで数日あるいは数週間は間違いなくかかるとの事だった。

 錬金術師(アルケミスト)ギルドに転移装置が設置されているのにも納得の広さである。


「あー、リンゴってこんなに美味かったんだな……」

「ブツブツブツブツ……」

「どうして……どうして……」

「今日は東の丘陵に行ってみないか?」

「そうだな。そうしよう」

 ヒタイの周辺のマップについてはヒタイの四方に一つずつ用意されている巨大な門から移動する事が出来る。

 で、そのマップについては……


 南には昨日俺も行った森林。

 東には丘陵と天を衝くような高さの山が二つ。

 北には無数の沼と湖が存在する湿地帯。

 西には特徴らしい特徴もない極々普通の草原。


 が、あるとの事だった。

 勿論、昨日一日の範囲で分かった範囲の情報しか掲示板には出ていないので、これらのマップが直接の繋がりを持っているかや、現在の評価が正しいか、これらのマップを越えた先に何があるのか、出現するモンスターに入手できる素材はどうなっているかなどと言った情報は殆ど出て来ていない。


「さて、何処に行くかね……」

 俺は市場にて10Gで売られていた普通のリンゴをかじりながら、今日は何処に行くべきかを考える。

 と言ってもまあ、考えるまでもなく現時点で行くべきでないマップが一つに、昨日既に行ったマップが一つある時点で実質二択なのだが。


「とりあえず西の草原の方が近そうだし、今日はそっちに行ってみますかね」

 そんなわけで俺はヒタイの中を西に向かって移動し始めた。

 既に生じ始めているこの状況(AIOライト)に適応出来たものと出来ないものとの格差に嫌なものを感じつつ。

あ、彼女はヒロインではありません


06/26誤字訂正

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