<< 前へ次へ >>  更新
12/621

12:1-9

「これでよし、っと」

 錬金レベルを上げることは決めた。

 が、その前に例のPKとFFの可能性については掲示板に上げるべきだと判断した俺は、掲示板の適当なスレに注意喚起と銘打った書き込みを行った。

 まあ、あの場には俺以外の『巌の開拓者(ノーム)』所属のプレイヤーもいただろうし、彼らの中には俺のよりも早く掲示板に書きこんでいる者も居るだろう。

 だが、この手の情報は一度流しただけでは駄目だのだ。

 二度三度と流し、出来る限り多くのプレイヤーの目に触れてこそ意味があるのである。


「さて、書き込みが終わったところで始めますかね」

 さて、ここからが本題である。

 俺はまず、部屋に置かれている巨大な鍋について調べる。

 鍋の材質や中に入っている風呂場のお湯よりも少し熱いぐらいの液体、その熱源などは一切不明。

 鍋の口は円形で、どうやら深さは1メートル以上、どうにも土間を掘る形で設置されているらしい。

 で、鍋の裏側には櫂のようなものが隠されていたが……これで鍋の中を混ぜたりするという事だろうか?


「ふむ……」

 続けて俺は鍋に手をかざしてみる。

 すると二枚の半透明の画面が俺の目の前に表示される。

 片方は俺のインベントリ及び倉庫ボックスの中身を表示したもので、もう片方は錬金術を行うための画面であるようだった。

 ヘルプ曰く、どうやらまずはアイテムのアイコンをドラッグして、もう一つの画面に移すらしい。


「とりあえず失ってもいいアイテムから使うべきだな」

 俺はそう判断すると普通の樹の枝を二本、インベントリから錬金術の画面へと移す。

 するとインベントリ用の画面が消え、錬金術用の画面だけが表示されるようになる。


「どう加工するか……ねぇ」

 次の操作は鍋に入れた二つの物体をどう組み合わせ、変化させるかについて。

 画面上には融合、変形、付与、抽出と言う四つの操作が並んでいる。

 並んでいるが……俺はそこに違和感を感じる。

 この四つ以外にも操作は存在するのではないかと言う思いを抱く。

 いや、それ以前にアイテムを二つしか入れられないという点に対しておかしさを感じる。

 まあ、もしかしたらここも錬金レベルの上昇に合わせて変化が生じるのかもしれない。

 少なくとも今は気にする事ではないだろう。


「変形でいいか」

 で、操作については変形を選択。

 入れた二つの物質を融合させると共に、その形を大きく変える操作であるらしい。

 変形後の形については……とりあえずは装備の枠を埋めるためにも装飾品の一つである指輪にする事にする。


「と、MPは此処に関わって来るのか」

 画面に俺のMPを消費する旨が表示される。

 どうやら錬金術を行うにはMPを消費する必要があるらしい。

 それはつまり、戦闘ステータスの魔法力が高ければ、それだけ錬金術を多く行えるという事でもある。

 つまり生産に特化するならば魔法力の底上げは……と、考えが逸れてるな。


「これでよし。と」

 画面に手を押し当てると同時に、俺の身体から何かが抜け落ちていくような感覚が生じる。

 抜け落ちる何かに合わせるようにいつの間にか手の周囲に発生していた円状のゲージが貯まっていく。

 そうしてゲージが溜まり切ると、画面に十分な量の魔力が得られたという表示がされる。

 消費したMPの量は……俺の全MPの30%と言う所か。

 結構消費したな。


「さて次は……はあ?」

 俺は次の段階に移行した錬金術の画面を見て思わず首を傾げてしまう。

 と言うのも、画面にはこう書かれていたのだ。


『これから表示される文章を打ちこんでください』


 と。


「タイピングで錬金術ってどういう事なんだ……」

 正直困惑せずにはいられなかった。

 錬金術と文章の入力の間にまるで関連性が見えなかったからである。

 だが、表示されてしまっている以上はやるしかないのだろう。

 俺は新たに出てきた半透明のキーボードを前に身構える。

 で、そうして現れた文章だが……


『coRega saiSy0-nO 1hoda cokoqaLa sUvet Fujimaru』

「……なんだこれ」

 まるで意味不明な文章……いや、文章ではなく記号の羅列だった。

 と言うか(ゼロ)(オー)を混ぜて来るとかまた面倒な真似を……おまけにバックやデリートキーは無効のようだし……悪魔か、悪魔だったな!


「これでよし。と」

 俺は幾つかキーを打ち間違えつつも、文章を打ち終える。

 この謎の文章の打ち込みが出来にも関わってくるとなると少々頭が痛くなりそうだが……味のないカロリーバーから一日でも早く脱出したいと思うのなら、頑張るしかないだろう。


「さてどうなる?」

 さて、俺がそんな事を思っている間にも目の前の画面と錬金術の鍋には明確な変化生じていた。

 画面から白い光の球が幾つも現れて鍋に向かい、鍋に光が入るとその度に鍋の中身が動いたり、温度が上がったり、一瞬だが光や電気のようなものが走る。


「完成か」

 そして全ての光が鍋の中に入り、光が鍋の中に入った収まると、俺の目の前に錬金術の結果を表示するための画面が表示される。

 結果は……成功。

 樹で出来た指輪のアイコンも表示されている。

 なので俺はそのアイコンをタップして、詳細を確認してみる。



△△△△△

プレンウッドリング

レア度:1

種別:装飾品-指輪

耐久度:100/100

特性:プレン(特別な効果を持たない)


極々普通の樹の枝から作られた指輪。

これといった効果はなく、文字通りの装飾品である。

▽▽▽▽▽



「ま、初めてにしては良い出来だと思っておくか」

 俺はプレンウッドリングを自分のインベントリに移し、とりあえずと言う事で装備すると、次は何を作るかを考え始めた。

読もうと思えば読めますが、読まなくても何ら問題はございません。

<< 前へ次へ >>目次  更新