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【AIOライト 1日目 14:13(満月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「……。うん、第24支部で色々やろう」

 始まりの街・ヒタイの南門近くに存在する『巌の開拓者(ノーム)』第4支部を一時間ほどかけて探し出した俺が最初に抱いた感想がそれだった。


「「「ガヤガヤザワザワ……」」」

 と言うのも、南の森林に最も近い錬金術師ギルドの支部だというのもあってか、とにかく人が多いのである。

 俺の視界に収まっているだけでも100人は間違いなく居るくらいで、会話など分かりやしない。

 で、勿論それだけの人間が入れるだけ建物も大きいし、人目が多いだけあってやる気のないプレイヤーやマナーの悪いプレイヤーと言うのも俺の視界に収まっている範囲ではいない。

 居ないのだが……うん、やっぱり人が多すぎて、人に酔いそうになる。

 早いところ移動してしまおう。


「えーと、これがそうだな」

【ギルドポータル:ゾッタのポータル移動先に『巌の開拓者』ヒタイ第4支部・南の森林前が登録された】

 と言うわけで俺は巨大天秤に触れてギルドポータルを登録。

 メニュー画面のギルドタブから、ギルドポータルと言う項目を選択、その中から第24支部を選んで決定ボタンを押す。


「うおっ……」

 すると途端に周囲の光景が歪み始め、全てがドロドロに溶けたように混ざり合い、足元どころか世界そのものが不安定になるような感覚を俺は覚える。

 そして歪みが収まる頃には……俺は人気が無い『巌の開拓者』ヒタイ第24支部のギルドホールの一角へと移動していた。


「「「お帰りなさいませ」」」

「あ、ああうん」

 何と言うか……凄く奇妙な感覚だった。

 酒をたらふく飲んで酩酊したような、あるいは陸の上なのに船の上にいるような感覚だった。

 転移なんて現実には有り得ない事なので、奇妙な感覚になるぐらいは当然なのかもしれないが。


「さて……と」

 まあいい、転移についてはいずれ慣れるだろう。

 それよりも今はやるべき事がある。


「御用は何でございましょうか?」

 受付の女性の前に立つと、俺の前にこの受付で出来る事を示した半透明の画面が現れる。

 で、現在表示されている項目は三つ。


・アイテムの売買

・錬金術師ギルドに来ている街の住人からの依頼の受注と納品

・私室も兼ねた錬金術用の部屋のレンタル


 である。

 錬金レベルが上がれば他にもやれることが出て来るそうだが……まあ、当分先の話だろう。

 なお、アイテムの売買で買える物は極々基本的な素材に限るとの事。

 で、依頼についてはお金を得られるという点ではアイテムを売るのと同じだが、ギルドにアイテムを売るよりも得られるお金は多く、場合によっては貴重な品が報酬として貰えるとの事だった。

 まあ、こちらについてはその内少しずつこなしていくとしよう。


「部屋のレンタルを」

「了解いたしました。こちらに手を押し当ててくださいませ」

 俺は錬金術師ギルドに登録した時と同じように半透明の画面に手を押し当てる。

 ちなみにレンタルとは言っているが、一番下のランクの部屋については無料である。

 また、全室個室で食も最低限のものは用意されているとの事だった。

 現在所持金0(ゴールド)の初心者にとってはありがたい話である。


「登録完了しました。以後はギルド奥の扉を開けて頂ければ、自動でゾッタ様のお部屋に繋がります」

「分かった」

 無事レンタル完了である。

 と言うわけで、俺は早速自分の部屋に入ってみた。



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「ふうむ……」

 一番下のランクの部屋と言う事で、やはり部屋はそれほど広くはなかった。

 いや、単純な面積でいけば八畳分はあるのだし、一人が寝泊まりする分には十分なのか。

 なのに部屋が狭く感じるのは……その内の半分が既に部屋の備品で埋められているからだろう。


「デカいな」

 まずこの部屋は四畳の土間のエリアと、土間から一段高くなった四畳の畳敷きのエリアとに分かれている。

 で、土間のエリアだが……うち半分を俺の腰ぐらいの高さまで有る巨大な鍋が占めている。

 どうやらこれが錬金術に使う鍋であるらしいのだが……うん、デカい。

 入って来て最初に目に入るのがこれなのだから、部屋が狭く感じるのも当然だろう。


「えーと、これが倉庫か」

 鍋から目を離し、畳敷きのエリアに目をやってみれば、一畳分の大きさの木箱が無造作に置かれていた。

 箱の名称は倉庫ボックス。

 容量無限のインベントリで、この中に入れているアイテムは入れている間一切の変化が起きないという。


「で……これが飯か」

 俺は再び土間の方に目を向ける。

 そこには二つの自動販売機に似た直方体が一畳分のスペースを取って置かれていた。

 で、俺が直方体に近づいて手をかざしてみれば、直ぐに二つのアイテムが出てくる。



△△△△△

カロリーバー(無味)

レア度:1

種別:食料

耐久度:100/100

特性:プレン(特別な効果を持たない)


一つ食べれば満腹度が全回復する不思議な食料。

ただし味はない。

味が欲しければ、錬金レベルを上げる事である。

※部屋外への持ち出しは不可能

▽▽▽▽▽


△△△△△

飲用の水

レア度:1

種別:食料

耐久度:100/100

特性:プレン(特別な効果を持たない)


極々普通の水……と言いたいが、飲んで喉を潤す以外の事が出来ないようになっている。

味は当然ない。

味が欲しければ錬金レベルを上げる事である。

なお、液体である以上持ち運ぶには容器が必須である。

※部屋外への持ち出しは不可能

▽▽▽▽▽



「マジで味がねぇ……」

 俺はカロリーバーを一つ食べてみる。

 満腹度は確かに回復した。

 だが味は……本当に無かった。

 まるで味のなくなったガムを粉状にした後、棒状にまとめたような感じだった。

 これは……キツイ、本当にキツイ。

 毎日となったら確実に心が折れる。


「うん、錬金レベルは早めに上げよう。でないとあらゆるモチベーションが下がりそうだ」

 ちょっと変わったプレイをしたいとか、ゲームを出来るだけ早くクリアしたいとか、そう言う先々の願いはある。

 願いはあるが、まずは基本的な環境を整えよう。

 俺はそう思わずにはいられなかった。

怠け者にやる飯は最低レベルになります

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