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「よいしょっと」

 まあ、シュヴァリエの諸々に毎度反応をしていたら身が保たない。

 と言うわけで、俺は倉庫ボックスに預けるべきアイテムを預けてくると、番茶さんとの会話にも使った本部の畳敷きのエリアに三人で赴く。

 で、俺は胡坐で適当に座る。


「お隣失礼します」

「おう」

 続けてシアが何処で覚えたのだろうかと言う程度には整った動作で正座する。


「よっと」

「ん?」

「え?」

 最後にシュヴァリエが正座したのだが……その動きはとても滑らかな上に美しく、常日頃からそうすることに慣れている者の動きだった。

 背筋もきちんと伸びているし、衣服の乱れも当然ない。

 ぶっちゃけ、服装さえ整えれば、何処かのいい家のお嬢様でも通りそうな感じだった。

 いや、もしかしたら本当に……。


「ん?どうしたの?師匠にシアちゃん」

「いや、何でも」

「何でもありません」

 うん、気にしないでおこう。

 リアル事情にむやみやたらと触れないのはネトゲの基本だ。

 例え、水の入ったコップ一つ持つ動作を採って見ても、この上ない育ちの良さを感じさせる動きをしていようがだ。


「えーと、それでシュヴァリエ。とっておき……だったか?結局アレの正体は何だったんだ?」

 さて、本題である。

 結局シュヴァリエのやったアレは何だったのだろうか?

 非常に気になるところである。


「んー、簡単に言ってしまえば杖の起動文と同じだね」

「杖の起動文と?」

「そうそう、師匠なら知っているはずだけど、杖って使った素材に合わせてランダムに魔法が付くじゃない?僕はアレを剣に付与したんだよ」

「付与……」

 そう言うとシュヴァリエは自分の脇に綺麗に置いた細剣に手を置き、愛おしそうに撫でる。

 それにしても付与か。

 アイテムの性質をもう一つのアイテムに与える錬金術ではあるが……なるほど、言われてみれば杖に込められている魔法もアイテムの性質には変わりないのか。

 これは一本取られたな。

 そして非常に有用な情報だ。


「この情報、掲示板には?」

「僕は挙げてないね。とっておきにしたかったから。でも、誰かしらはもう上げていると思うし、遅かれ早かれ誰かが思いつく考えでもある。今回、トロヘルさんたちの前で見せちゃったし……たぶん、これで一気に広まるんじゃないかな」

「そうか」

 シュヴァリエは何でも無さそうに言っているが……本当にこれは重要な情報だ。

 何かしらのデメリットが存在している可能性はあるが、それ以上に戦略と戦術の幅が大きく広がるのが目に見えている。

 今後の事を考えたら、必須の技術と発想になるのではないだろうか?


「で、師匠。僕からも師匠に聞きたい事があるんだけどいい?」

「決闘の誘い以外ならいいぞ」

「ちー……ちっ」

 上手く出来ていない舌打ちは無視するとしてだ。

 これだけの情報を聞いたならば、それにふさわしいだけの情報を俺も出す必要があるな。


「じゃあ質問、師匠はどうやってレア度:(プレイヤー)(メイド)を作ってるの?」

「どうやってって……」

 ただ、今訊かれた質問のように訊かれても答え辛い質問もある。

 どう答えればいいのか分からないという意味で。


「んー……」

 それでも話せるだけの事は話すべきだと判断して、俺はシュヴァリエに今まで自分がどうやってレア度:PMのアイテムを作っていたかを話す。

 で、話した結果としてだ。


「うーん、やっぱり僕には師匠の真似は無理そうかなぁ……」

「やっぱり以前から無茶ばかりしていたんですね……」

「お前ら……」

 何故かシュヴァリエとシアの二人が微妙に遠い目をしながら、呆れた様子を見せた。

 いやうん、どうしてそんな反応になるし。


「後、師匠の話で一番分からないのはその……繋がり?って奴かな?どうしてそんな物が師匠は見えているの?」

「どうしてって言われてもなぁ……俺にもよく分からん。とりあえず見えるというか感じるというか、何だろうな、第六感的な物が働いているのかもしれない」

「うーん、第六感かぁ……僕そう言うのあまり鋭くないんだよねぇ……」

 アイテムが繋がっているように見える件については本当によく分からないので、説明しろと言われても無理である。

 最初はあのGM(ゲームマスター)が干渉しているのかとも思ったが、それだと俺にしか見えない理由が分からないしな。


「他に聞きたい事はあるか?」

「櫂を回す時の呪文はどうやって考えているの?」

「んー、何となく……か?これも気が付いたら口から出ている感じだし」

「うわぁ、師匠ってば参考にならない」

「悪かったな」

 呪文についても、あまり参考にはならないだろう。

 俺自身何処からあんな文章が湧いて出て来ているのかよく分かっていないし。

 ただ、淀みなく出てくる感じからして、俺の奥底の方から出て来ているのは間違いないんだろうな。


「でもまあ、とりあえず一つ言える事がある」

「言える事?」

 うん、ならこれだけは言っておくべきだな。


「俺はレア度:PMのアイテムを作ろうと思って作ってはいない。これならば作れる。こう言う物を造りたい。そう言う想いの結果として、俺はレア度:PMを作り上げている」

「……」

「ああそうだな、こうして口に出してみれば分かる。俺は作りたいから作っている。たぶんだけど、本当の意味でレア度:PMであるアイテムを作るためにはそう言う考えとか心構えが必要になるんだ」

「考えに心構え……」

「だからこう言ってしまうとアレだが、人目だとか、体面だとか、有利不利だとか、役に立つかどうかだとか、そう言う物はたぶん全部邪魔な物でしかない。欲しいから生み出す。それでいいんだよ。で、足りないものは適当に代用してしまうか、流れに任せてしまえばいい」

「なるほど……」

 俺自身、自分で何を言っているのかはよく分からない。

 だがこの考えはそんなに外れていないとは思う。

 俺自身がそうして俺だけが造り出せるアイテムを生み出しているのだから。


「うん、ちょっと考えてみるよ。師匠」

「助けになれば幸いだ。シュヴァリエ」

「じゃ、またねー」

 シュヴァリエは少し思案した顔で俺たちの近くから去って行く。

 さて、シュヴァリエがレア度:PMを生み出せるかどうかは興味があるが……此処から先は本人の問題だな。

 俺に出来る事は何もない。


「あのマスター」

「どうしたシア?」

「マスターって、もしかしなくても理論完全無視なフィーリング系ですか?」

「……」

 なお、シアの言葉は間違っても否定できない。

 どう考えても俺がやっている事は理論よりは感覚でやっている事だからだ。

 正直、俺自身それはどうなんだと思わなくもないが……分からないものは仕方がないから、諦めてしまおう。

 きっとそれが一番だ。


「とりあえず、俺たちも部屋に戻るぞー」

「あ、否定しないんですね」

「まあ、したくても出来ないからな」

「ですよねー……」

 と言うわけで、若干シアに乾いた笑みを向けられつつ、アイテムの登録を適当にしてくると、俺は自分の部屋に戻るのだった。

理論的にあんなことをされても困ります


08/30文章校正

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