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「とりあえず、座らせてくれ。俺もだいぶ混乱している感じなんだ」
「分かった。そうしよう」
「お、俺も混ざっていいか?」
「俺もだ」
「あー、そうだな。この話は全員で把握しておいた方がいいだろ。じゃあ、お互いの自己紹介からな」
「分かった」
俺と男性が話を始めようとすると、他に二人男性が話に混ざってこようとする。
周囲に他のプレイヤーが居ない事と、二人の距離が何となく遠い感じからして、この二人も俺や目の前の男性のように今日はソロだった組のようだ。
「えーと、俺は『
俺たちは門の直ぐ脇で車座になると、俺から順に自己紹介を始める。
「『
何が起きたのかを説明してくれる俺よりも身長が頭一つ分ほど大きい男性はトロヘルと言う名前らしい。
容姿は黒髪に赤い目で、筋骨隆々、脇にはトロヘルよりも更に頭一つ分ほど長い大槍が置かれている。
何となくだが、この場では一番年上な気がする。
「『
後から来た二人の内の片方、橙頭に緑色の目の男性の名前はマンダリン。
腰に刀を帯びているので、それが武器なのだろう。
たぶんだが、高校生ぐらいな気がする。
「『
もう一人の男性は白い髪に茶色の目で、名前はクリームブラン。
背中に盾を背負っているが……ああそう言えば、武器の初期選択に何故か盾もあったか。
つまり、武器としても使えるのだろう。
年齢はたぶん俺と同じくらい。
「さてと、トロヘル……さん?」
「トロヘルでいい。ゲームだしな。敬語もいらないぞ」
「じゃあトロヘル。何が有ったのか教えてくれ」
「分かった」
そうして、一通りの自己紹介が終わったところでトロヘルが先程ここで何が有ったのかを教えてくれる。
で、トロヘルの話によればだ。
まずあの場には、中立NPCに殺されたプレイヤー以外にも、もう五人ほどのプレイヤーが居たらしい。
つまり殺されたプレイヤーは六人でパーティを組んでいたのだった。
それで、具体的な内容については不明だが、六人の中の二人がアイテムの分配をめぐって言い争いを始めたそうだ。
そうして言い争いをしている間に中立NPCに殺された方のプレイヤーが徐々にヒートアップしていき……
「アイツは突然腰の曲剣を抜いたのさ。そして、言い争っていた相手をメッタ切りにした。相手のHPバーが底を突くまでな。突然すぎて遠巻きに見ていた連中も、他の四人も対応なんて出来ずに、ただ呆然としているしかなかった」
「マジか……」
「おいおい……」
「……」
PK……プレイヤーキルを行った。
決闘のように両者合意の上ではなく、一方的に、感情のままに殺したとの事だった。
そして、それはつまり、今この場でその気になればPKを行う事が可能である事を示していた。
「それでまあ、後はだいたいお前たちも見ていた通りだな。中立NPCが出て来て、PKをしたプレイヤーを一方的に葬り去った。凄かったぜ。俺の目にはあのNPCが持っていた槍の動きが見えなかった」
尤も、PK行為……それに恐らくは中立NPCへの攻撃行為は相当のリスクを伴うようだが。
いや、そんなリスクは大した問題じゃないか。
何かしらのメリットが欲しくてPKをするならばともかく、衝動的に殺したいと思ったのであれば。
「しかし怖い話だな。決闘とかそう言う両者合意の下の戦いでやるんじゃなくて、一方的にPKを仕掛ける事が出来るのか」
「つか、ゲームが進んだら洒落にならねえって。どんな凶悪なアイテムが出てくるか分かったものじゃねえんだし」
「それに連中はパーティを組んでいたんだろ。なのにPKが出来たって事はFF……フレンドリーファイアもあるって事か」
「ああ、そう言う事になる。正直かなりヤバい情報だと俺は思うぞ」
それよりも問題はパーティ内でのPKが可能と言う点から見えてくるFFの可能性だ。
FFのある無しは、パーティでの戦闘難易度に大きく関わって来る事になる。
ゲームが進めば進むほどに。
「こりゃあ、今日中にギルドの掲示板を使って拡散しておいた方がいいな」
「そうだな。俺も『真理の探究者』の掲示板に書き込んでおく」
「ん?掲示板?」
「ギルドタブにあるだろ」
「えーと、ああ、有った」
マンダリンとクリームブランの言葉に俺は首を傾げ、トロヘルの言葉でメニュー画面のギルドタブを呼び出してみる。
すると確かに掲示板の項目が有った。
「って、ああ、よく見たら、各ギルドごとに掲示板も独立してんのか。面倒くさい仕様になってんな」
「その内ギルド対抗戦とかやらせる気なんじゃないか?」
「ああ、それなら独立してないといけないか」
「うわ、あのGMなら普通にありそうだ」
なお、掲示板の項目については明らかに四人それぞれでデザインが異なっていた。
『巌の開拓者』である俺の掲示板は和風で、『紅蓮蜥蜴の徒』のトロヘルのは中華風、『真理の探究者』のマンダリンのは普通のインターネットのブラウザと言う感じで、『氷河魚の末裔』のクリームブランのはヨーロッパな感じになっていた。
恐らくだが、
「こほん、まあ、あれだな。いずれにしても今後を考えたら信頼できる仲間を作るべきだな」
「そうだな。仲間に後ろから撃たれるのは御免だ」
「激しく同意」
「俺なんて盾だから現状最前線確定だしな……」
話を戻そう。
結論として、このゲーム『AIOライト』はPKもFFも存在する。
故に仲間を作るならば、信頼できる仲間を作らなければならない。
それがこの場に居る四人に共通した感情だった。
「とりあえず、こうして集まったのも何かの縁だ。フレンド登録だけでもしておこう」
「だな」
「分かった」
「喜んでさせてもらうよ」
なので俺たちは互いにフレンド登録を行う事にした。
役に立つかどうかは分からないが、少なくとも一時の感情で人を殺すようなプレイヤーよりは信頼できそうだと思いつつ。
別のギルドの掲示板が見られるわけがありません
06/22誤字訂正