第30話「嫁がチートだと思ったら、自分も意外とチートになっていた」
「お疲れさま。またねー」
ぬるぬる、ぴたぴた
伯爵たちから遠く離れた、湿地帯のはずれ。
追加報酬の干し肉をもらったスライムたちは、跳ねながら沼地へと戻っていった。
彼らを見送りながら、不意に僕は、気がついた。
「……なんで僕はこんなに働いてるんだ?」
今更だけど。でも、やっぱりおかしい。
だらだら暮らすのが夢だったはずなのに。
クエストこなして強敵と戦って……追いかけられて戦って……。
なにかが間違ってるような気がする。
お金の余裕はできたし、クエストを受ける必要もないし。
冒険者はしばらく休業。
温泉街で、ちょっとだけ、休憩しよう。
そして僕たちは街道を歩き出す。
話すのは、これから向かう町のこと、港町イルガファのこと、そして、お互いのスキルのこと。
歩きながら僕たちは、お互いのスキルを確認することにした。
いざというとき連携が取りやすいように。
僕もセシルもリタも、アイネも、いろんなスキルが増えたから。
まずは僕のスキルから。
ソウマ=ナギ
種族:人間
職業:スキル・ストラクチャー
レベル:2
固有スキル『
自分と、配下の奴隷のスキルの『概念』を入れ替えることで、新たなスキルを作り出すことができる。奴隷の体内にあるスキルと自分のスキルを使って再構築すると、より高等なスキルができやすくなる特性がある。
LV2で、3人同時の再構築ができるようになった。
また、再構築時に魔力の交換ができることを利用して、奴隷に魔力を供給することができる。
これがLV2の能力なのか、もとからあった能力なのかは不明。
LV3で増えた能力についてはあいかわらず不明。
通常スキル
『贈与剣術LV1』(
『剣や刀』で『回復力』を『増やす(10%+LV×10%)』
効果:剣や刀で斬った相手に再生能力を与える。相手本来の治癒能力にプラスされる。増加値はこのスキルのLV×10%+10%(現在の増加値:20%)。
『建築物強打LV1』(R)
部屋の壁や内装に強力なダメージを与える。破壊特性『煉瓦』『木の壁』
『高速分析LV1』(
周囲の状況を素早く分析する。高速化した分だけ、効果範囲は通常の分析よりも減少。
『異世界会話LV5』
異世界の人々と会話することができる。また、文字を読むことも可能。
『超越感覚LV1』(UR:リタ)
『沈黙』することにより、所有者は自分の五感を一時的に遮断することができる。
感覚遮断中は第六感が鋭敏になる。使用できるのは一日一回。
『
スキルを『発動』してから『解放』するまでの間、いくら武器を振っても攻撃力はゼロになる。
『解放』した瞬間、『発動』時から現在までに振った武器の攻撃力が、次の攻撃にプラスされる。
なお、貯めた攻撃力の分だけ攻撃範囲も上昇する。
保管スキル(持ってるけど、インストールしてないスキル)
『建築物強打LV1』『ドブそうじLV1』
これはそのうち誰かにインストールしようかと思ってる。
次はセシルのスキル。
セシルは火炎魔法のレベルが上がってた。
セシル=ファロット
種族:魔族(表向きはダークエルフ)
職業:妹系天然無防備魔法使い。将来がちょっと心配。
レベル:2
固有スキル『魔法適性LV3』
すべての魔法の効果がLV×10%+10%増加する(現在の増加値:40%)
通常スキル
『古代語詠唱LV1』(UR:セシル)
呪文を古い言葉(古代語)で詠唱する。詠唱速度は通常より遅くなり、代わりに威力が大幅に増大する。増加率は200%から800%程度。ただし、魔力の消費もそれに応じて増大する。
『古代語通訳LV3』
古代語の文章を今の言葉に翻訳することができる。
『魔法耐性LV1』
魔法攻撃からのダメージがLV+10%(ボーナス値)減少する(現在の減少値:11%)
ボーナス値はレベルアップに伴い増加。
『魔力探知LV1』
周囲にある魔力を感知することができる。
『鑑定LV2』
対象のアイテムの価値を見抜くことができる。成功確率はLV×10%。
魔法がかかったアイテムの場合、鑑定成功率が『魔法適性』のLV×10%追加される。
『動物共感LV3』
動物と意思を、なんとなく通じ合わせることができる。
特殊魔法『
黒い矢を発射する。攻撃力はゼロだが、対象の敵の体内にある魔力を奪うことができる。
奪った魔力は黒い矢とともに対消滅する(奪った分をセシルがもらえるわけではない)。
ガーディアン、ゴーレム、魔法使いにとっては天敵。
習得魔法
『火炎魔法LV1』:『灯り』『
『火炎魔法LV2』:『
次はリタのスキル。リタは格闘系のレベルが上がった。
リタ=メルフェウス
種族:獣人(表向きは人間だけど最近は耳も尻尾も出しっぱなしだよね)
職業:野生種わんこ系神聖格闘家。
レベル:3
固有スキル『格闘適性LV5』
武器・防具を装備していない場合、素早さが『格闘適性』LV×10%増加する。
ロックスキル
『神聖力掌握LV1』(ロック:摘出不能特性)(UR:リタ)
所有者が持つ『神聖力』を把握し、身体の好きな部位に集中することができる。
その部位の強度が増すため、攻撃力・防御力が強化される。
『神聖格闘』のダメージボーナスが2倍になる。
『神聖加護』が強化される。毒、麻痺の他、呪い、致死系の魔法を無効化。
通常スキル
『神聖格闘LV5』
戦闘中、相手に与えるダメージが『神聖格闘』LV×10%増加する。
相手がアンデッドの場合、ダメージは更に20%増加する。
『神聖力掌握LV1』の効果により、現在ダメージ2倍ボーナス中。
『神聖加護LV4』
戦闘中、相手から受けるダメージが『神聖加護』LV+10%(ボーナス値)減少する。
ボーナス値はレベルアップに伴い増加。
相手がアンデッドの場合、ダメージは更に20%減少する。
毒・麻痺の無効化。
『神聖力掌握LV1』の効果により、現在、呪い・致死系の魔法を無効化。
『歌唱LV4』
とても綺麗な歌が歌えるスキル。かけだし吟遊詩人レベル。
『気配察知LV4』
においや音、気配などで周囲の動きを察知する。
『無刀格闘LV1』(R)
素手の状態で与えるダメージが『無刀格闘』LV×10%増加する。
『
パーティメンバーの反応速度を上昇させる。
身体の動きだけではなく、思考や判断速度までが通常よりも加速する。
ただし、効果はリタが歌っている間と、その後数分のみ。その後は再び歌いはじめなければいけない。
次はアイネのスキル。
こうして見ると家事系の能力が多い。
お金に困ったらアイネを店長にして、屋台をはじめるって手もあるかも。
アイネ=クルネット
種族:人間
職業:ご奉仕系ワーカホリックお姉ちゃんメイド。
レベル:4
通常スキル
『虹色防壁LV6』
物理攻撃および地・水・火・風の属性魔法のダメージを、LV+20%減衰する。
また、物理的な障壁としても使用可能。
『料理LV9』
おいしい料理が作れる。
屋台なら町で評判の人気店。料理店なら一人前のコックとして認められるレベル。
『掃除LV9』
部屋を綺麗に片付けることができる。
イヤミなお姑さんも文句のつけようがないレベル。
『棒術LV2』
ロッドやワンドやホウキを使う際の攻撃力が、LV×10%+10%増加する。
『魔物一掃LV1』(R)
掃除用具で低レベルモンスターを吹き飛ばす。
成功率は30%から50%程度。
ただし、飛ばされる魔物の同意がある場合はその限りではない。
『記憶一掃LV1』(USR:アイネ・レギィ)
ホウキやゾウキンで対象の顔をこすり、気絶させることができる。
気絶後、十数分こすり続けることにより、対象の記憶を結晶体として抜き出すこともできる。
抜き取れる記憶の長さはレベルによって変化する。現在は、時間にして数十分程度。
念のため、レギナブラス改めレギィのスキルも。
魔剣レギィ
種族:異界の魔剣
レベル不明
『
半径数十メートルの範囲にいるスライムを呼び寄せて使役する。
強制的に命令をすることもできるが、なんとなく意思を通じ合わせることもできる。
使役できるスライムの数は、レベルx1体。
仕事のあとに報酬をあげると喜ばれる。
『自己再生LV8』
刃が折れても砕けても、1時間で元の状態に復元する。
痛いことは痛いらしく、折れると悲鳴が聞こえるのでいたたまれない。
……そういえば、確かめておかなきゃいけないことがあった。
「あのさ、レギィ」
『な、なにかな? 主様』
「今のレギィって、探知魔法に引っかかったりしないの?」
『かからない、はず。我はもう、変わってしまったから』
レギィの話をまとめると、こういうことらしい。
過去に魔剣を手にした王たちは、再び魔剣が世に出たときにわかるように、魔力の波動を分析し、記録に残した。それが魔法使いたちに伝わって、探知魔法に使われている。
でも、今のレギィは元のスキルを失ってしまっているし、僕と奴隷契約までしちゃってる。
魔力の波動も変化してしまっているため、探知魔法には引っかからない、っていうことだった。
『だから埋めないで捨てないで連れていって主様!』
ぽん、って音がして、僕の目の前に赤毛の少女レギィが現れた。
いつの間にか髪型がツインテールになってる。
レギィは空中に浮かびながら、僕の手を掴んで抱きしめる。捨てられそうになってる子犬みたいに、涙目で必死に首を振ってる。
『もう心を操ったりしないから。逆に我の心が主様でいっぱいになっちゃってるから、だからお願い。連れてって、捨てないで』
「捨てないってば。お前も僕の仲間なんだからさ」
『……ありがとう、主様』
そしてまた、レギィは姿を消した。
意外と素直だな。
使えるし、斬れるし、今は言うこと聞いてくれているし。
レギィのおかげでスライムと共闘できたんだし。それに『遅延闘技』を使うには、こいつの再生能力は便利で、おかげで僕の戦闘力も──ってあれ?
おかしいな。
チートキャラは奴隷のみんなだけだと思ってたけど、いつの間にか僕もそこそこチートになってないか?
まぁ……いいか。
めざすは働かなくても生きられるスキル。戦闘力はついでだ。
無理をしない。できるだけ問題には近づかない。
それが僕たちのモットーなんだからさ。
メテカルからは離れたし、街道に人の気配はない。
魔物が近づければ、リタの『気配察知』にひっかかるし、低レベルの相手ならアイネの『魔物一掃』で遠くへ飛ばせる。魔剣レギィも再生が終わって、完全な状態。だから、今のところは問題なし。
次の町までは夕方までにはたどりつけそうだ。
ふぅ。
メテカル──と、伯爵一行──から遠く離れて、やっと落ち着いてきた。
それは他のみんなも同じだったみたいで、さっきまで小声で話してたのが、いつの間にか普通の声で話すようになってる。警戒は完全に解いたわけじゃないけど。
それじゃ、旅の安全のためにも、まずは情報収集から。
「とりあえずみんな、知ってたらイルガファまでの情報を教えて。なにか注意した方がいいこととか、危険な場所がどこかとか」
「はい、ナギさま」
「いいわよ、ナギ」
「はい。なぁくん」
「わたくしも多少はわかりますわ。いえ、わたくしは奴隷ではないですけれども!」
4人が同時に声をあげた。
しばらく顔を見合わせてたかと思うと、セシルが指をぴん、と立てて。
「ここで問題です。ナギさまのお背中には、ほくろがいくつあるでしょう?
一番正解に近い方には、ナギさまにイルガファまでの情報をお伝えする権利が与えられます!」
「……あのさ、セシル」
「こ、これもナギさまに正しくお仕えするための、奴隷の義務なんです」
なぜか真剣な顔で、セシルが僕を見つめてる。
「ちゃんとご奉仕するためにも、世界で一番大切なナギさまのことは、
「背中のほくろの数なんか僕自身知らねぇよ」
「はい、じゃあ責任をもってわたしが数えます!」
ひだまりみたいな笑顔で手を挙げるセシル。
なんだかちょうどいい位置だったから、僕はその頭に手を乗せてみた。
絹糸みたいな、きれいな銀色の髪。
褐色の長い耳に触れると、セシルはくすぐったそうに目を閉じた。
「しょうがない、僕のせか──じゃなかった、僕がいた国の平和的勝敗決定法をみんなに教える」
「わーい。やりましたーっ!」
僕が言うと、セシルは小さな身体をめいっぱい反らしてジャンプ。
「ナギさまがふるさとのお話をしてくださるのってひさしぶりですよね?」
あれ? そうだっけ。
確かに、みんなに元の世界のことを話したことってなかったかも。
あんまり思い出したくないことばっかりだったからなぁ。
でも、いつの間にか、あんまり気にならなくなってる。
…………どうしてだろう?
僕は歩きながら、元の世界のどこにでもあった平和的勝敗決定法をみんなに教えた。
こっちの世界にはそういうのはないらしい。
人間、エルフ、魔族、獣人、そのほか色々。
たくさんの種族があるせいで、ルールを統一したこういうものはないんだそうだ。
じゃあ、これは異世界初ってことで。
「と、いうわけで、みなさん準備はいいですか?」
「うん。わかったわよセシルちゃん!」
「了解なの」
「仲間はずれは嫌ですわ。いえ、わたくしは奴隷ではないですけれどっ!」
「……我も、いい?」
「うらみっこなしです。ナギさまが教えてくださった平和的勝敗決定法の勝者には、さっき言ったとおり……せーのっ」
「「「「「(ナギさま)(ナギ)(なぁくん)(ナギさん)(ぬしさま)と、次の町までふたりっきりでお話する権利が与えられます(ってどうしてそんな話になってますの)!」」」」」
ちょっと待った趣旨が変わってる。
「「「「「──じゃーんけーんっ」」」」」
メテカルから、遠く離れた空の下、
しがらみとか、英雄とか使命とか、めんどくさいものを全部置いてきた旅の道。
奴隷少女3人+友だち1人+魔剣は──
異世界初の
第2章、おしまい。
第3章に続きます。
第2章はこれでおしまいです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
第3章は開始まで、ちょっとだけ、お待ちください。
(その前に番外編を更新するかもしれません……)