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96 脱出!

すみません、寝ていて、アップロード忘れてました。(^^ゞ

「馬鹿野郎、お前達も捕まったら、情報が伝えられないだろうが!

 また、他のハンターが調査依頼を受けるところからやり直しだ。そんなのを繰り返していたら、いつまで経っても助からないだろう!」


 ごとり


 他の者が話している間に、メーヴィスが身振りで捕らえられている者達を格子から下がらせて、剣を一閃。見事に頑丈そうな木製の格子を切断したのであった。

 おお、と、驚愕と称賛の声が上がり、少し照れ臭そうにはにかむメーヴィス。

 囚われた人々を悪人の住処から救い出す。

 騎士に憧れるメーヴィスにとって、恐らく今は至福の時であろう。


「え……」

 護衛のリーダーも、目を剥いた。

 いくら木製とは言え、女性が軽く振った剣で簡単に切り落とせるような、そんなちゃちな格子ではない。いや、そのはずであった。一応、脱出に備えて格子の強度くらいは確認していたのである。


「……言っておくが、私は、この中では最弱だぞ?」

 護衛パーティのリーダーの視線に気付いたメーヴィスが、空気を読んでか読まずにか、自嘲気味に苦笑しながら呟いた。

「いえ、最弱は私です……」

 ウォーター・カッターで皆の足枷あしかせを切断しながら、ポーリンが口を挟んだ。

 マイルに教わった通り、水流の直径を絞って水圧を高め、更に水流に砂粒を混ぜることにより画期的に威力を増したその切断っぷりを見て、あんぐりと口をあける護衛パーティのリーダー。


「あれこれ言い合っている時間はないわよ! 捕まったら、また、その時に考えればいいでしょ!

 さ、行くわよ!」

 レーナの言葉に頷き、枷が外された足首を少し擦った後で次々と立ち上がるハンター達。

 護衛パーティのリーダーも、仕方なく立ち上がった。


「火を消さないと、戸を開けた時に明かりが漏れるぞ。水魔法で……」

「あ、正面側は開けないから……、でも、まぁ、一応消しておきましょうか」

 リーダーの忠告に従い、マイルはヒョイと手を振って薪の火を消した。水も出さずに、一瞬で。

「え……」

 ひゅん!

 剣を抜いたマイルの腕が眼にも留まらぬ速さで振られ、かちゃり、と収められた。

 そして壁をがしっと掴み、そっと引くマイル。

 そこには、腰を屈めれば大人でも楽々通れる大きさの穴がぽっかりと開いていた。

「「「「…………」」」」


「さ、早く!」

 なぜか動きを止めていたハンター達をメーヴィスが急かし、皆は口をぱくぱくさせながらも、黙って穴から抜け出した。



 先導はマイルである。一番夜目が利き、探知魔法で魔物の存在をいち早く察知でき、そして剣で後続者のために木の枝を払えるからであった。その後ろには、魔法攻撃要員としてレーナ。

 そして殿しんがりはメーヴィス。後方からの攻撃に、物理的に対処するためである。

 ポーリンは、中央で横からの攻撃に備え、また、前方、後方、どちらにもすぐに向かえる態勢であった。

 救い出したハンター達は武器を奪われているため、素手ではまともに戦えない。女性ふたりを含む4人の魔術師がいるが、攻撃魔法が使えるのは男女それぞれひとりずつであるし、今は『赤き誓い』が皆を守る立場であった。


 切り開かれた場所から木立にはいってすぐ、マイルが思いついて各人の背中に「魔法の蓄光物質」を塗った木片を付けたため、皆は自分の足下を見て、時々前の者の背中をちらりと見ればはぐれずについて行けるようになっていた。勿論、敵の気配を感じたら蓄光物質を塗った木片はすぐに外すよう指示してある。

 真っ暗闇では普通の蛍光物質では駄目なので、「蓄光済みの蓄光物質」か「中に発光物質が混ぜられたタイプ」かのどちらかであるが、そこはナノマシンに丸投げしたため、マイルには分からない。地球での初期タイプのような、ラジウム含有で放射線被曝しまくり、というのでさえなければ、特に問題はない。


 そしてある程度獣人達の住処から離れると、皆は休憩を取った。闇夜の逃走は体力、気力を共に激しく消耗するし、疲れては効率が悪くなる。転倒して怪我でもされては大変である。そんなことになれば、却って大幅な速度低下を招いてしまう。

 それに、恐らくまだ脱走には気付かれていないであろう。


 皆が休んでいる間に、マイルは適当な木を選んでは、良さそうな枝を切り落としていた。

 そして充分な数が揃うと、凄い速さでそれらを削っていった。勿論、人目につかない場所で、である。

 マイルは、あっという間に完成させたそれらを抱えて、みんなが休憩している場所へと戻った。


「皆さん、手に合うものを選んで下さい!」

「「「「え……」」」」

 ごろりと投げ出された大量の木剣と木槍を見て、目が点状態のハンター達。

「い、一体どこから……」

「あ、今、作りました」

「「「「…………」」」」

 しばらく黙り込んだ後、黙々と自分の手に合うものを選び始めるハンター達。

 さすが、危険な依頼を受けたハンター達。なかなか順応能力が高いようである。


 木剣や木槍は、いくら木製とは言え、堅くがっしりした木を選んだので、鉄の剣と打ち合っても1合や2合で折れたり切断されたりすることはないであろう。相手がかなりの手練れで、余程良い剣を持っていた場合を除いて。

 それに、木剣や木槍は歩く時の杖代わりにもなるし、木の枝や丈の高い草を払うことにも、魔物や動物を追い払うのにも使える。また、ハンター達は手ぶらでは心細いであろうが、木製とは言え得物を手にしていれば少しは安心できるであろう。

 事実、既にハンター達の表情が先程までよりずっと自信に満ちたものへと変わっていた。


(うむうむ、計画どお…り……)


 ぎぃん!


 マイルを、射るような眼で見詰める、一対の瞳。

 十代半ばの少女。そう、ギルドマスターの娘である。

 一体どうしてそんな眼で睨むのか……。

 自分と同年代や、それ以下の少女達に助けられては、ギルド職員としての面目が潰されると思っているのか? それとも、父親であるギルドマスターの名を汚すことになるとでも?

 少し機嫌を取った方が良いかも。

 そう考えたマイルは、少女に話しかけた。


「あの、私達は、あなたのお父様にあなたのことを頼まれまして……」

「ええええええええぇ~~っっ!」

「「「「しいぃぃぃぃぃ~~っっ!!」」」」

 突然大声を張り上げた少女に、全員が一斉に警告した。

「ご、ごめんなさい……」

 いくらかなり離れたとは言え、大声はまずかった。少女は素直に謝罪した。


「そ、それはともかく、あ、あなた達、と、とうさまに会ったの? ど、どこで、何時いつ!」

 頬を赤らめて、瞳を少しうるうるさせながら食い付く少女。

「え? いえ、どこでも何も、領都のハンターギルドで、娘を頼む、と……」

「え?」

「え?」

「ええ?」


「あの~……」

 その時、後ろから声が掛けられた。

 マイルが振り向くと、学者先生のお弟子さん、と言うか、助手のふわふわ女性が立っていた。

「ギルドマスターの娘は、私なんですけど……」

「「「「え?」」」」

 愕然とする、『赤き誓い』一同。

「嘘よ! あんなゴツいおやじに、こんな娘がいるはずがないわ!」

 レーナ、失礼な女である。

「……よく言われます…………」

 諦めたような、うんざりしたような、微妙な顔をして項垂れる女性。


「え? じゃあ、あなたが学者さんの助手の……」

「違うわよ!」

「え?」

 じゃあ、この子はいったい……。

 混乱するマイル達に、更に後ろから声が掛けられた。

「助手は、私です」

「学者先生? ええっ、じゃあ、じゃあ、まさか……」

「そうよ! 私がクーレレイア博士、あなた達が言うところの、『学者先生』よ!」

 腰に手を当てた少女が、偉そうにふんぞり返っていた。無い胸を張って。


「「「「ドワーフ……」」」」

「エルフよおおおぉ~~!」

「「「「しいぃぃぃぃぃ~~っっ!!」」」」

「ご、ごめんなさい……」

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