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85 ワイバーンとの戦い・・・聞いてないよ!

 メーヴィスは飛んだ。

 空を駆けた。

 そして剣を抜き両手で構え、真っ直ぐにワイバーンへと向かっていった。

「真・神速剣、弐の太刀、天空剣。参る!」



(また来たあぁぁ~!)

 ワイバーンは狼狽えた。

 空を飛べないはずの人間が、再び空を飛んで自分に真っ直ぐ突っ込んできたのだから、それも無理はない。先程の恐怖が脳裏に蘇った。

 だが、今度の個体は、先程魔法攻撃を行った個体ではない。見た目からして、今まで戦いを挑んできた者達のうち、魔法ではなく鉄の棒で殴りかかってくるタイプであろう。それならば大したことはない。翼さえ攻撃されないよう気を付ければ、身体や尻尾はそうそう傷付けられはしないだろう。

 ならば、正面から打ち落とす!

 先程の無様な行為を払拭するため、ワイバーンは真正面からメーヴィスを迎え撃った。


 考えてみれば、多少距離があっても構わない魔法攻撃と違って、剣での攻撃はワイバーンに少し避けられればお終いであった。しかし、マイルはワイバーンが正々堂々と迎え撃つことを予想していたのであろう。……多分。


「でやあぁぁぁぁ!」

 正面から全力で剣を振るメーヴィスの狙いは、ワイバーンの首である。

 しかし、そんなことは百も承知のワイバーンは身体を捻り、強力な尾の一撃を……喰らわそうとしたが、想定よりもメーヴィスの剣速が速い!

 ワイバーンは必死で更に身体を捻り、迫る剣から首を遠ざけた。尾を、尾を早く打ち付けねば!


 ざしゅ!


 一瞬の交錯の後、両者の身体は離れ、遠ざかる。

「「ギィャアアアァァ~~!!」」


 ワイバーンは、迫る尾を見て首を狙うことを諦めたメーヴィスの一撃により自慢の尻尾を傷付けられ、その痛みと驚愕に。

 そしてメーヴィスは、落下を始めた体勢で地面を見て。

 共に、喉も張り裂けんばかりの絶叫をあげた。



「あ……、あ……」

 ワイバーンがふらふらと旋回を続けるだけなので、メーヴィスに上昇気流による軟着陸の魔法を放った後、やる事がなくなったマイルが降下したメーヴィスの様子を見に行くと、草むらで両手と両膝をついたメーヴィスが何やら唸っていた。

「あれ、どこか怪我しました?」

 心配そうにそう尋ねたマイルに、メーヴィスは弱々しく答えた。

「な、何でもない。ただ……、少しだけ、休ませてくれ……」


 そしてしばらくすると、レーナとポーリンが現れた。

 レーナはかなり機嫌が悪そうであったが、なぜかメーヴィスの下半身をじっと見詰めた後、更に不機嫌となり、マイルに近寄った。


 ごつ。

「痛っ!」

 突然、レーナにスタッフで頭を小突かれて、悲鳴をあげるマイル。


 ごつごつ!

「痛い! 痛いですよ! 何するんですか、レーナさん!」


 ごつごつごつごつごつ!

「や、やめ! やめて下さいよおぉっ!」


 ごつごつごつごつごつごつごつごつごつ!

「わ、悪かったです! 私が悪かったですから、もうやめて下さいぃ~っっ!!」

 身体のスペックのせいで本当に痛いわけではないが、レーナの表情と、「痛いような気がする」という幻痛のようなものを感じ、そして普通であればかなり痛いと思われるその躊躇のない攻撃にレーナの怒りの本気度を悟ったマイルは、慌てて謝った。

「マイル、あんた、私がどうして怒っているか、ちゃんと理解してる?」

「勿論ですよ!」

 マイルは慌てて答えた。

「ワイバーンに避けられないよう、もっと正確に、速い速度で発射すべき……、いた、いたたたた!」

 ごつごつごつごつごつごつごつごつごつ!



「「「はぁはぁはぁはぁはぁ……」」」

 なぜか疲れ果てているレーナ、メーヴィス、マイルの3人、そしてポーリンが上空を見上げると、それまでふらふらと旋回していたワイバーンの動きがしっかりしたものとなり、何やら行動に移る気配があった。

「第2戦目、開始ですかね……」

 マイルの呟きに、3人がこくりと頷いた。


 ワイバーンは、受けた傷の予想外の深さに動揺したが、尻尾が斬り落とされたわけでもなく、致命傷にも程遠いその傷程度であれば何の支障もない。放置しておいてもそのうち治る。

 ただ、身体の傷は自然に治っても、傷付いた誇りは自然には治らない。それは、自らの力で修復すべきことであった。そう、敵を倒すことによって。

 今までの敵は、自分が本気を出すまでのことはなかった。

 ほんのお遊び、ほんのからかい程度で相手をしてやっただけであり、全力で、ましてや切り札を使うような野暮なことはしなかった。

 しかし、今。どうやら全力を出すべき相手に巡り会えたようであった。

 ワイバーンは、そのことを少し嬉しく思った。

 さぁ、これからは、お遊びではなく、戦いの時間だ。

 緩降下開始。そして空気を吸い込む。自分が獲物や遊びの対象ではなく『敵』と認めた相手に対しての、本気での攻撃開始であった。


「直接攻撃?」

「貰った!」

 ワイバーンがその鋭い鉤爪や尾、そして歯で直接攻撃を行うと判断した皆、特にメーヴィスは絶好のチャンスとばかりに歯を剥いて笑い、剣を構えた。

 しかし、迫るワイバーンがぱかりと口を開いたのを見て、マイルは蒼くなった。

(……この絵面は、観たことがある! お父さんの書斎にあったアニメの録画ビデオで!)

「避けて!!」

 隣にいたポーリンを抱えて飛びすさるマイルを見て、メーヴィスとレーナが慌てて移動した、その直後。


 ぱぁん!


 空気が震えるような感覚を覚え、そして先程までマイル達が立っていた場所の地面が弾けた。

 その後すぐに身体を引き起こし、上昇に転じるワイバーン。

「なっ! 遠隔攻撃だと?」

「ブレス? でも、目に見えなかったわよ!」

「き、聞いていませんよ、そんな能力があるなんて!」

 メーヴィス、レーナ、ポーリンがそれぞれ驚愕の声を漏らすが、マイルは両腕を組んで、納得したかのように言葉を漏らした。

「やはり……」

「し、知っているのか、マイル!」

 そう問うメーヴィスに、マイルは、ぽつりと呟いた。

「胃の笛の術……」


 そっちか~!!


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