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81 ワイバーンとの戦い・・・情報収集

 翌朝、宿を引き払った4人は、とある村を目指して出発した。勿論、行き先は明日ワイバーンが現れる予定の村である。乗合馬車などは出ていないため、徒歩で半日かかり、到着は昼過ぎとなる。

 今まで『赤き誓い』の4人は移動には依頼主の馬車に乗ったり乗合馬車を使うことが多かったが、本当は、ハンターが乗合馬車を使うのは贅沢の部類にはいる。荷物が多いとか、怪我人がいるとかの、何らかの事情がない限り、普通は徒歩である。

 歩きながら、4人は討伐依頼についての話をしていた。

「やっぱり、領主様は普通よねぇ……」

「はい、報酬金額も妥当ですし、数組のパーティが全滅して依頼を受ける者がいなくなったあと、王都に依頼を廻すよう自分から言い出したらしいですし……。自分が絡んでいたら、積極的にそんなことはしないですよね」

「ああ。それに、何か企んでいるなら、私達に会おうとするだろう。謀り事をするには、相手の人となりを知ることが大事だからね。推測だけで断言するのは危険だけど、今のところ、不自然なところはないね」

 レーナの言葉を肯定する、ポーリンとメーヴィス。マイルは人の考えや行動が絡むことには疎いので、ふぅん、と聞き流すだけである。

「じゃあ、兵を出して損害を出した、って線が濃厚?」

「そうだね」

「そうですよね……。一方的な被害を受けて、討伐どころか追い払うことも出来ず、これ以上の損害は許容できない、とか……。

 ハンターギルドに依頼すれば、損失は報酬金だけ、『自分がお金を出して、討伐させた』ということで領主としての面目も立ちます。成功報酬だから、何回失敗されても自分の懐はそれ以上は痛みませんし」

 マイルを置いてきぼりにして、3人の話が続く。


「結局、問題は『普通ならとっくに討伐されているはずなのに、どうしてまだ討伐されていないのか』ってことよね。ワイバーンは確かに普通のパーティには厄介な相手だけど、受けたパーティはみんなそれくらいのことは分かっていて、勝算が充分にあるから受けたんでしょ? 領軍も、いくら対人戦闘が専門で魔物相手は経験が少ないとは言え、戦闘のプロだし、事前準備や計画も立てて、アドバイザーのベテランハンターとかも付けてたでしょう、当然。ということは……」

「はいはいはい! ワイバーンの数が多かったか、とっても強かった!」

 ようやく自分にも分かる話になってきたので、ここぞとばかりに割り込むマイル。

「まぁ、そういうことよねぇ……」

 美味しいところで割り込まれたが、ようやく自分にも分かる話になって会話に参加したかったのであろうマイルの気持ちを察して、レーナは軽く流してくれた。さすがリーダー……ではなかった。リーダーはメーヴィスである。時々忘れそうになるが。


「とにかく、敵が手強い、という前提で、慎重に行くわよ。マイルのお話にあった、え~と、そうそう、『命を大事に』ってやつね」

 レーナの言葉に頷く3人。

「……しかし、大丈夫なのかな? みんなの魔法の腕を信じていないわけじゃないが、私はワイバーンを地面に引き摺り落として貰えないと戦力になれないんだけど……」

「大丈夫ですよ! 何とかなりますって!」

 安請け合いするマイルに、何となく不安を感じるメーヴィスであった……。



 目的の村に着いた時には、昼時を大幅に過ぎていた。討伐依頼のことだけでなく、色々と馬鹿話をしながらゆっくり歩いていたら、思ったより時間がかかってしまったのである。

 4人は、今夜は明日に備えて早めに寝るつもりなので、もう、このまま情報収集をすることにした。その後、昼食兼夕食としてがっつり食べて、さっさと寝る予定である。

 4人は、とりあえず宿を取った。宿は村に1軒しかないため、選択肢はない。

 宿の者に夕食は要らないと伝え、食堂か酒場を探して4人はいったん宿を出た。

 ギルドの支部どころか連絡所すらないこんな田舎の村では、情報収集は酒場か村長の家と相場が決まっている。しかし今回は村からの依頼というわけではないし、村長が特別な情報を持っているとも思えない。余計な口出しや頼み事をされるのも面倒なので、とりあえず村長のところに行くのはパスであった。


「……ここね」

 しばらく歩き回っても食堂らしきものが見当たらず、通りがかった村人に聞いたところ、この村には食事も出す飲み屋が1軒あるだけで、ろくに看板も出していないとか……。まぁ、村人の他には馴染みの行商人くらいしか立ち寄らない小村では、看板の必要もないのかも知れない。

 4人が店にはいると、店内には十数名の村人の姿があった。

「「「「え……」」」」

 まさかこんな時間に大勢の客がいるとは思わず、驚きの声をあげたマイル達であったが、驚いたのは村人の方も同様であった。

「……え? ハンター……、だよな、お嬢ちゃんたち……」

「ええ、ワイバーン討伐の依頼を受けた、王都のハンター『赤き誓い』です」

 メーヴィスの返答に、ざわつく村人達。

「い、いや、依頼を受けてくれたことはありがたいが、ちょっと、その……」

 村人達のひとりが、少し困ったような口調で話しかけて、口籠もった。

 それも無理はなかった。この村は、ワイバーンの出現区域の中では最も領都に近い。つまり、今まで討伐依頼を受けたパーティの大半はこの村で迎撃したであろうし、もしかすると領軍もこの村を拠点にしたかも知れない。

 ということは、村人達はその結果も全て知っている、ということであった。

 そこに現れた次の討伐パーティが小娘の4人組だと知れば、落胆、もしくは危惧の念を抱かれるのは仕方あるまい。なので、別にマイル達は気を悪くしたりはしない。

「御心配には及びませんよ。ある程度の事情は知っていますし、我々は強力な攻撃魔法を使える魔術師3名、騎士団長を打ち破れる程の剣士1名のパーティです。必ずやワイバーンを叩き落としてみせます。

 そして皆さんが色々と情報を教えて下されば、更にそれが確実なものとなります!」

 ポーリンの説明を聞いた村人達は、おお、と喜びの声をあげ、次々と情報を提供してくれた。


 まだ日が高いうちから大勢が飲み屋に集まっていたのは、飲食のためではなく、恐らく明日再び飛来するであろうワイバーンに関する話し合いのためであった。そう言われれば、皆のテーブルの上には水差しと木のコップしか置かれていなかった。

 そして村人達の説明によると、やはり以前に討伐依頼を受けたパーティ数組、そして領軍の兵士十数名がそれぞれワイバーンを討伐しようとして、皆、壊滅的な打撃を受けたらしかった。

 ただ、ワイバーンは自分を攻撃する相手には苛烈な反撃を行うものの、そうでない者には特に危害を加えることはなく、その日の獲物と決めた牛や馬、羊等を両脚で掴むと飛び去って行くらしく、村人には死傷者は出ていない、とのことであった。そのため村人達にそれほどの悲壮感はないが、定期的に家畜を持ち去られては生計が成り立たない。村の死活問題であった。

 そこで、明日は「一番歳を取って痩せた牛を目立つところに置いて、被害を局限する」という第1案と、「全ての家畜を守り、ワイバーンを追い返す」という第2案で協議をしていたらしい。

 しかし、第1案だと根本的な解決にはならず、どんどん家畜が減って、最終的には村の存続に拘わる。第2案だと、下手をするとワイバーンの獲物が家畜から人間に切り替わる。どちらにしても、村の将来は暗澹たるものとなることに変わりはない。


「……え? 牛や馬? ワイバーンって、そんなに大きいんですか?」

 驚愕の声をあげるマイル。

 無理もない。鳥類は、空を飛ぶために、極限までその身体を軽量化している。とても自重を超えるような重量物を掴んで飛べるような余剰揚力はない。鳥類ではないにしても、牛を1頭丸々掴んで飛べるなど、どれだけの巨体なのか……。

「何言ってるのよ。養成学校で教わったでしょ、魔物の標準的な大きさは……」

 呆れたようにそう言うレーナに、マイルは反論した。

「いえ、それは覚えていますけど、違う種類だとか……。とにかく、あの大きさで牛や馬が運べるとは思えませんよ! 鳥だって、あまり大きな獲物は……」

「鳥は魔法を使えないじゃない」

「……え?」

「だって、鳥は魔法を使えないでしょ?」

「…………魔法?」

「竜種は、魔法で飛んでるのよ。でないと、まだ翼が大きいワイバーンならばともかく、古竜とかが、あんな身体で、翼だけで飛べるわけがないでしょう? それに、ドラゴンブレスとか、魔法に決まってるでしょ。あれ、一体何だと思っていたのよ?」

 レーナの突っ込みに、マイルは弱々しく答えた。

「……お腹の中に、火炎袋とかの内臓があって…………」

「「「無い無い!」」」

 3人全員に、思い切り否定された。

 後ろの方では、村人達も頷いている。

 前世の父親であれば、「内臓が無いぞう」とか言いそうである。マイルは前世で父親の親父ギャグにかなり汚染されていたが、幸いにも友人がいなかったためにそれが披露される機会はなかった。友人がいなかったことによる利点は、ただその点においてのみであった……。


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