24 ルームメイト
入学までの3日間、マイル達は部屋で話したり、一緒に王都を散策したりして時間を潰した。みんなあまりお金が無いので、お金がかからないことばかりである。
買い物をするにも、お金以外に『部屋が狭い』ということもあり、大したものが買えるわけでもない。せいぜい着替えか消耗品くらいである。
食堂でお腹いっぱい食べられるので、おやつにお金を使うというような贅沢はしない。
4人とも、性格はかなり違うのになぜか結構気が合って、良いルームメイトになれそうであった。
そして、なぜかマイルはレーナに特に気に入られた。マイルが気がつくと、レーナがよく自分の横に立っているのである。
疑問に思うマイルに、メーヴィスがその理由の推測を聞かせてくれた。
「そりゃアレだろう、マイルの身長とむね……、いや、何でもない、忘れてくれ」
「忘れられるかあぁ~!」
メーヴィスの的確な分析結果を聞いて、声を荒げるマイル。
マイルも、ルームメイトの3人とは気を張らずに地を出して話せるようになってきた。
確かに、マイルと一緒にいると、レーナが比較的大きく見える。
十二歳のマイルより大きい自分。身長も胸も。
それは確かに、いつも十二歳前後に見られ体格にコンプレックスがあるらしいレーナにとっては嬉しいことだろう。マイルの側に居たがるのも納得である。
マイルにとっても、十五歳のレーナより少し小さいだけの十二歳の自分、というのは、そう悪いわけではなかった。
メーヴィスは十七歳なので比較の対象外である。
……ここで問題になるのが、ポーリンである。
十四歳で、平均より心持ち低いかな、という程度の身長。勿論、レーナより高い。
そして、平均より明らかに大きく、メーヴィスをも上回るその胸。
「ぐぬぬぬぬ……」
マイルがポーリンの胸を睨み付け、ポーリンが居心地悪そうにもじもじしていると、レーナがお手洗いから戻って来た。
「さ、そろそろ行くわよ!」
そう、今日は、いよいよハンター養成学校の入学式の日であった。
入学式は、ショボかった。
なにせ、入学者の大半は貧乏人。家族が来るわけでもない。
そして勿論、制服などは無い。みんな、自前の服である。
ただ、普段着ではなくハンターとしての装備を身につけているため、一応は新人ハンターらしく見えてはいる。
今期の学生数は、いつもと同じく四十名。
四十人なので、クラスはひとつだけである。
試験的に始められた時のままで規模が小さく、学校と言うより離島の分校か寺子屋レベルであった。
「よく来た! 俺がここの責任者、エルバートだ」
学校長相当の、五十歳くらいの男性が壇上から挨拶した。
とても学校長という雰囲気ではなく、ただの引退したハンターに見える。
「俺は、6歳の時からハンター生活を続け、6年前に引退してここを任されている!」
……そのままであった。
まぁ、総学生数四十名で、学校長もないだろう。
もう、ただの『ハンター養成所』か『ハンター強化合宿所』で良いのではないだろうか。
そう思うマイルであった……。
「ここでは、本来ならばお前達が何年もかかって自分で経験し失敗して学ぶはずの事を、半年間で詰め込んでやる! そして、卒業時にはDクラスかCクラスのハンター資格をくれてやる! それがどういう事か分かるな!」
そう言って、学生達の顔を見回すエルバート。
「そうだ! ここは厳しい! ついて来られない者はすぐに退学だ!
温情で卒業させてやって、数日後に死亡、しかも自分だけならまだしもパーティの仲間を全員道連れにして、なんて話を聞かされたら胸くそが悪いからな! だから、そんな事は絶対にせんぞ! ついて行けないと思ったら、自分から退学を申し出ろ!」
そうは言っても、皆、高い競争率を勝ち抜き、家族の期待を一身に背負って来ているのだ、そう易々と諦められるはずがない。学校から退学を言い渡されない限り、自分から辞める者はいないだろう。
エルバートの挨拶の後、教官の紹介が行われて解散となった。
何しろ、クラスはひとつしかないのだ。細かい事は、後で教室でゆっくり説明すれば良いのだから。
教室で教官を待つ間、学生達はそれぞれ仲良くなった同室の者と話をしていた。
「ま、分かり切った話だわね」
レーナの言葉に、3人は頷いた。
先程の学校長の言葉。あれくらいの事は、ここにいる者は全員承知の上だ。今更言われるまでもない。
しばらく経つと、教室の前方のドアが開けられ、教官がはいってきた。学校長のエルバートである。
「俺が、お前達の主任教官だ。予算不足でな、校長兼主任教官兼剣技と槍術の教官だ。後は、さっき紹介した3人。他にはお前達のメシを作ってくれる調理員と、施設の維持管理要員くらいしかいない。
授業は、実技中心だが、座学もある。薬草の見分け方や魔物の特性��知らなけりゃ、すぐ死ぬぞ。護衛する貴族の扱い方とかも知ってなきゃ、揉め事起こして斬りかかられて、返り討ちにしてお尋ね者だ。ちゃんと勉強するんだぞ」
言葉を飾りもしないぶっちゃけ話だが、それが事実なので仕方ない。
話しながら、エルバートはボードに書き込んでいった。
学生数40 男27 女13
剣士 男13 女3
槍士 男4
弓士等 男4 女2
魔術師 男6 女8
女子A班 5名 魔2剣1弓2
女子B班 4名 魔3剣1
女子C班 4名 魔3剣1
男子1班 5名 魔1剣3弓1
男子2班 5名 魔1剣2弓1槍1
男子3班 5名 魔1剣2弓1槍1
男子4班 4名 魔1剣2槍1
男子5班 4名 魔1剣2槍1
男子6班 4名 魔1剣2弓1
「このクラスの、男女別、職種別の構成と、これから組むパーティ分けだ。A班からC班までは女子、1班から6班までは男子のパーティだ。
見て気付いた者もいるかも知れんが、部屋割りの通りだな。これで卒業まで組んで貰う。
気が合わない者がいても我慢しろ。それも訓練のうちだ。卒業後も、いつも仲良し仲間だけで仕事ができるわけじゃない。
普通は女子だけのパーティは少ないが、ここでは男女間の揉め事などに時間を取られる暇はないし、孕まれたら困るからな。それに、男女で分けた方が教えやすいから、男女は分けて組んでいる。
ここを卒業するまでに話をつけておいて、卒業後に男女混合のパーティを組むのは自由だ。と言うか、大半はそうしているな」
ぶっちゃけ過ぎであった。
その後も、エルバートの説明は続いた。
教室の席は、学生の職種別の理解度が教官に判りやすいようにと職種別に分けてあること。現場では倒れた仲間の武器や敵の武器を奪って使う必要もあるので専門外の武器も訓練すること。将来パーティを組んだ時の連携に役立つし敵のことを知る必要もあるため他の職種との合同実技訓練もあること、等々。
そしてやってくる、恒例の自己紹介タイム。
「どうせ一度に全員は覚えられんだろう。今は、こういう奴らがクラスにいる、ということだけ掴めればいい。
右前からだ。最低、名前と年齢、職種、特技、ランクは入れろ。
言っとくが、それだけで済ますなよ。ちゃんと仲間に自分という人間を紹介しろよ」
エルバートの言葉に、順番に自己紹介が始まった。
ああは言われても、殆どの者は最低限に近い自己紹介しかしなかった。
見ず知らずの者に自分のプライベートなことや特技、弱点等を教えたい者はいない。メーヴィス、レーナ、ポーリンの3人も、寮の自室で行ったような紹介はしなかった。
そして、自己紹介はマイルの番となった。
「マイルです。十二歳、魔術師です。魔術は、特に苦手なものはないです。収納魔法が使えて、剣技も少しできます。ランクはFです」
とたんにざわつく教室。
皆、レーナと違ってマイルが収納魔法持ちでここに来たことにはたいして疑問は抱いていなかった。
いくら収納持ちでも、さすがに十二歳の未経験者をいきなり現場に出すのは危険だと判断した誰かがここで鍛えさせようと考えるのは別におかしな事ではないからである。だからFランクのままにしている、というのは納得できる。
ざわついた理由は別のことであった。
勧誘。
卒業までに話を付けて、うまくパーティに勧誘できれば。
可愛くて素直そうで収納持ちで他の魔法も色々使えて剣も使える。
この娘を狙わなくて、誰を狙うというのだ。
マイルに、再び受難の日々が訪れようとしていた。