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Epilogue

 そして俺は無抵抗の黒竜の首を刈って勲章を貰った。


「勇者カミヤ・サダテル。準一級の高位竜、『漆黒明竜』討伐の功績を讃え、汝に一等勲章を授けよう。よくぞこの国を救ってくれた」


「ああ……」


 王様がいつもとは異なる荘厳たる態度で俺にちっぽけな勲章を手渡してくれる。

 だが、もはや彼のイメージは初めて会った時の泣き顔で固定されており、俺の中のイメージは覆らない。


 作法がわからないので、適当に受け取り光に透かした。

 透明な石を金の鎖で繋がれている形状は俺の知っている勲章とはだいぶ違う。

 何でできているのだろうか、透かしたその石は透明で繊細で美しく、そしてその中には小さな『黒い光』が閉じ込められている。


 左右に整然と並んだ兵士達が、後ろに並ぶ豪奢な衣装の貴族達が強い拍手を送ってくれる。

 俺は、若干居心地が悪かった。だって、無抵抗の竜の首をサクッと取っただけだし、まだ俺は勇者らしいことを何一つやっていない。


 だが、国としてはそんなことどうでもいいようだった。一応王様には事情は説明したのだが、謙遜なされるなとまったく聞いてもらえない。

 彼らの中で俺は、騎士団が刃が立たなかった竜種をたった一人で討伐した英雄(ヒーロー)なのだ。

 こそばゆいが、彼らにとってその方が都合がいいのであれば俺はそれを甘受しよう。


「さて、ここからは私人として話そう」


 前置きを置いて、王様が話し始めた。


 以前から思っていたんだが……この王様……レプト・マダ・ガリオン十五世は馬鹿なんじゃないだろうか。

 王の間には大勢の人が揃っている。

 勲章を授与される前に大臣がこっそり説明してくれたが、大臣を始めとした各種高級官僚各位から、初めてここに来た時にはいなかった各地を治める貴族まで勢揃いだ。


 その中、公の場で、彼は私人として某かを言おうとしているのだ。本人でもないが、何を言われるのか気が気ではない。召喚された時も皆の前で洗脳発言してたし……


 ……まぁ、気にしなくていいんだろうな。所詮、夢幻(ゆめまぼろし)の話なんだからつっこむのも野暮ってものなんだろうな。


 王が相好を崩し、いきなり跪く。


「カミ殿、貴方は私の思った以上の成果を見せてくれた。本当にありがとう。王都は貴方がいなければ――地図から消えていたかもしれない」


「……いや、気静剣を使えば小学生でも倒せただろ」


 逆に言えば、あれがなかったならば俺でも倒せなかっただろう。

 チート武器すぎる。上に乗って首を切り落とす寸前になってもあいつ、身動ぎ一つしなかったんだが。


「小学生? ……いや、気静剣は……気弱な気性で担い手が全く見つからなかった剣なのです」


「後、苛烈でロマンチックな」


「……え?」


 もう気弱な気性が影も形もないんだが……いや、まだ会話をかわすのは苦手みたいだけど。

 まぁ、いいだろ。どちらにしても俺はレビエリが嫌いじゃないのだから。現実だったら勘弁して欲しかったけど。


「どちらにせよ、気静剣を扱えたのも勇者の資質の一つでございましょう」


「俺、何もしてないんだけど……」


「……」


 本心だった。

 選んだのは俺ではなくレビエリで、きっと彼女が選ばなかったら俺はあっさり殺されていたはずだ。

 ここの宝物庫に聖剣を五本……いや、今では六本か。六本も眠らせておくなんて、夢に言うのも何なんだが無能としか言い様がない。


 どうせ何にもならないだろうが、ちょっとした反抗だけさせてもらおうか。


「王様達は聖剣の事を誤解している。あの娘達は皆、善人だよ。だから頭を下げて誠心誠意頼めば、協力してくれるだろう。いや、そうすべきだ」


「……そう、か……考慮しておきます……」


「ああ。考慮しておいてほしい。いくら聖剣とは言え、意志のある少女をあんな宝物庫に閉じ込めておくのは……可哀想だ」


「……」


 そこに理由はあるのかないのか。

 いや、あるんだろう。きっと、俺なんかには全くわからない理由が。

 だから今の俺に言えるのは唯の我儘だけだ。


 王が、気を取り直すように首を左右に振る。

 恐らく彼の中にも葛藤はあったのだろう。それを言葉に出さずに飲み込んでくれた分だけ、王は俺よりも大人なのかもしれない。いや、仮にも一国の王、比べるのも烏滸がましいか。 


「気静剣の力で王都周辺の魔物の気も削がれております。今の内に大規模な討伐隊を組むつもりです。昨今、忌々しい魔族共に塗り替えられていた勢力図も多少は取り返せましょう」


「え? ちょっと待った……王都周辺?」


 俺がレビエリを使ったのは西門付近だけだ。

 どれだけ効果範囲広いんだよ……


 呆然としている俺に、大臣が追い打ちをかける。


「王都の城壁の強力な結界がなければ、都の中も全滅でしたな。いやはや……空に広がるあの光を見た瞬間には『ガーデングルの悪夢』の再来かと、肝が冷えましたぞ。まぁ今回はせいぜいが城の外を守っていた兵士くらいで済みましたが……」


「……ははは……そう、だな……」


 結界?

 ……お、おい、まさかあれ……無差別なのか。


 怯えていたリースグラートの声が脳内に蘇る。必死にちゃんと掴めと言っていたがあれはまさか……


 めちゃくちゃだ……今回は偶然、上手いことはまったみたいだが、そう簡単に使えるものではなさそうだな……

 何より、何も説明せずに躊躇いなくその権能を使ったレビエリが……怖すぎる。


「ともかく、王都周辺はしばらくは大丈夫でしょう。上位竜種が滅ぼされた以上、さしものオルハザードも次の尖兵を送るのは容易ではございますまい」


「そうか」


 本当にそうなのか?

 疑問ではあるが、まぁ大臣がそういうのならそうなのであろう。

 RPG的なお約束というやつだ。


 ……久しぶりに考えたな。RPGとか。


 思えばこの夢を見始めてから一月くらい経っている気がする。

 実際には数時間なんだろうが、いやはや本当に長い夢だ。……これはいつまで続くんだ?


 王様がそこで、表情を引き締める。側にいる大臣の表情もどこか厳しげな表情だ。

 重々しげに口を開く。


「して、カミ殿。カミ殿に一つ、お伝えしたいことがあるのですが……」


「……? ああ」


「カミ殿は……元の世界に戻りたくはありませんか?」


「……ん? 元の世界?」


 おやおや、なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。

 元の世界。元の世界と来たもんだ。

 恐らく元の世界っていうのは、現実世界の事なのだろう。夢の中でまさかそんな事を問われる日が来るとは……


 俺は少しだけ考えて答えた。


「いや、別に」


 大臣が箱を持ってくる。見覚えのある箱だ。

 蓋を開けると、そこにはここに召喚された際に入っていたオーブではなく、バスケットボール程の大きさの黒い球が入っていた。


「カミ殿が倒した漆黒明竜の龍玉――魔力の塊です。この力があれば、莫大な魔力を使う送還術を使用し、カミ殿を元の世界に戻すこともできましょう。こちらとしてはずっと勇者として戦っていただきたいのですが……カミ殿は嫌がる事もなく自ら魔王を倒すと宣言してくれた。王都周辺の安全も確保してくれた。カミ殿がもし仮に帰りたいと言うのならば――お送りいたしましょう。これは自分勝手にカミ殿を召喚してしまった私達のせめてもの誠意で……礼だと思って頂きたいのです」


「魔王はどうなるんだ?」


「また……別の勇者を召喚しましょう。それくらいの時間は稼げるはずです。さすがにカミ殿程の英雄はそうそう呼び出せないかと思われますが……」


 おい、それでいいのか?


 王様と大臣の表情を見るが、冗談を言っている雰囲気でもない。


 ふむ……


「それで、如何致しましょうか?」


「いや、別に」


 目覚まし、かけてるしな。

 八時に掛けていたはずなので時が来れば目が覚めるはずだ。

 もし仮にそれに気付かなかったとしても、昼前になれば親が強制的に起こしてくれる。


 ならばもう少し夢を見ていても大丈夫だろう。


「……まぁ、じっくりお考えください。といっても、時間はあまりございませぬ。本体である漆黒明竜が死んだ今、この龍玉からは魔力が抜けつつある。持ったとしても明日の夜までがせいぜいです。一晩冷静に考えて――もし明日までならば、カミ殿を送還することができます。次に送還可能になるのは……この竜と同クラスの竜かそれに相当する魔力を持つ怪物を倒した時になりましょう。何十年かかるか……あるいは、一生帰れない可能性もあります」


 数十年の夢か……長いなぁ。

 王様と大臣の深刻そうな表情はとても冗談で応えられる雰囲気ではない。


 この夢を見始めてからの事を考えてみた。


 得られない戦闘スキル。

 意味の分からないレアリティ判定。

 少女の形をした聖剣。

 強そうで弱いミノタウロス。

 無駄にやらされたレベル上げ。

 苛烈でロマンチックなレビエリ。

 振っただけで森を爆散させるチート武器(おまけに本人は切れ味向上とか言ってる)

 盾の形をしたえげつない聖剣

 無抵抗の竜の首を刎ねる――俺


 なんか概ねろくでもないな。

 何かある度に変なオチがあって全然気が休まる暇もないが……


 周辺の人々の顔を眺めて首を傾げる。


 まぁ、でもしかし、どうせ起きたって何もせずにゴロゴロしているだけなんだから、もうちょっと付き合ってあげてもいいだろう。

 何より、まだ俺は魔王を倒していないのだから。


 溜息をつく。

 何も考えずではなく、ちゃんと考えた結果、俺は言った。


「いや、別に」


短い期間でしたがお付き合いいただきありがとうございました。


これにて夢幻のソリスト・ウォーカー、完結になります。

如何でしたでしょうか?

少しでも楽しんでいただければ幸いです。


武器の擬人化が大好きで擬人化ものを書こうと思って書いた作品が当作品になります。

プラスで召喚モノを書いたことがなかったので召喚要素をちょびっと。

まぁ割りとテンプレな感じですね。でも書いてて楽しかったです。


一応、設定自体は割りと練っており、作中で明らかにされなかった謎についても設定があります。

五人の聖剣を作った時点であれ? 五章やるの? とか思った方いましたら……やりません、無理でした。

十万字くらいで五人分やろうとして心折れたので一人に焦点を置いて書いています。


他作品が心理描写やら日常会話やら地の文で文字数が止めどなく増えていき、全然ストーリーが進まなかったのでこちらでは割りとあっさり目にしたつもりです。


一応後日談の方があるので、もう一話、投稿予定になります。今しばらくお付き合いくださいませ。

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