棄てられ令嬢は紙飛行機を強化して幸せを掴む

作者: 砂礫零

なろうラジオ大賞参加作品。千文字短編です。

「どのホウキでもダメだなんて、誰に似たの」


 私を見る母の目は、冷たい。


「お姉様が飛べないせいで、わたくしも()き遅れるわ」


 私を責める妹の目は、悲しい。


「妹のためだ。親子の縁を切る。わかってくれるね?」


 私に別れを告げる父の目は、澄んでいる。


 ―― この国では誰もがホウキで空を飛べるのが当たり前。飛べない者は、ゴミ以下だ。

 私は飛べなかったので、普通に飛べる妹が生まれたとき両親の愛情を失った。なにかと妹の邪魔になる欠陥人間として、憎まれて育った。

 そして妹に縁談がくるようになったとき、ついに捨てられた。

 あとは野垂れ死ぬだけ ――


 ホウキで飛びかう人たちの下、ゴミだらけの道をとぼとぼ歩く。

 誰かが吐いた唾が、私の額にあたった。


「最低だ! 下も見ろ!」


 不意に大声が響き、私は顔を上げた。

 精悍な顔立ちの青年が、私に唾を吐いた男の後ろ姿をにらんでいる。


《風よ》


 青年が呪文を唱えると、男のヅラが風に飛ばされる。慌てた男は、バランスを崩し地面に落ちた。

 青年が私に、ハンカチを差し出す。


「使って」


「ありがとう…… あなたも、飛べないの?」


「いや、飛ばないんだ」


「なぜ?」


「この国の人たちは飛びすぎだ」


 彼は懐から紙を出し、イカのような形に折り始めた。


「ホウキでなくても、軽くて丈夫な材料さえあれば。この 『飛行機』 を作って、風で飛べるんだ」


「軽くて丈夫…… なら、強化魔法は…… いえ、なんでもないわ」


「きみ、強化魔法が使えるの?」


 私がおずおず頷くと、青年は 「ぜひ試してほしい」 と私の手をとった。熱のこもった目。私はつい、うつむいてしまう。


「強化魔法なんて、なんの役にも」 


「物は試し」


「失敗したら」


「協力してくれるだけで嬉しい」


 押し問答の末、私は紙の飛行機に強化魔法をかけることになった。


《強く》


 呪文に従い、飛行機は家ほどにも大きくなる。

 私たちは紙飛行機に乗った。

 魔法の風が翼を持ち上げる。

 空を、飛んでいる……!


「成功だね」


 青年が私に微笑みかけたとき、私は空を彩る虹や星よりも美しい感情がこの胸にあることを知り、思わずうつむいた。


 あれから3年。

 ホウキで飛ぶ重力魔法の使いすぎで崩れた故国の空を、私たちの紙飛行機は今日も多くの人と物資を乗せて飛んでいる。

 私たちが初めて会った道にきたとき。

 彼の目が、まっすぐ私を貫いた。


「結婚しよう」


 あのときと同じ感情は、もう私をうつむかせない。

 返事が紙飛行機に吹く風に散らされないよう、私は声を張り上げた ――

ホウキで空を飛ぶ = 重力魔法

使いすぎでバランスが失われたため、国は物理的に崩壊。

ホウキで空を飛んでいた多くの人が隆起する地面に飲み込まれました。

ヒロイン・ヒーローは紙飛行機で救助にあたり人望を得たそうですが、一方、ヒロインを虐げていた、もとの家族は……