ホラーな洞穴 ほーるけーき【WEB】
欅の立て札に、涌或御不動山と達筆っぽく荒々しく書かれている。
「あれ……? こんな所にれんげ畑ってあったっけ……? ん? なんて読むんだろ……? 不動産屋さんなのかな…?」
栗の木のドアに、目付きの悪い黒牛の鋳物のオブジェっぽいものがにょきっと装飾され、鼻先にドアに打ち付ける大きな黒光りする輪っかが付いていた。
「地図ではここなんだけどな……? ぱんぎゅうぽろりんねっくって、看板でてないけどな? ここで聞いてみるかな……? 呼び鈴とかないから、多分この黒牛の鼻先の輪っかを、ドアに打ち付けるんだろうな?」
カンカン! カンカン! カンカン! カン!
「思ってたのと違う音だ!」
あいてるよ! 鬼門の扉から来る奴ぁわけありなんだろ!
えっと……鬼門の扉ってなんだ? ここ入り口じゃなかったのか?
「あっ! えっと! わけありとかじゃありませんから! ちょっとお尋ねしたくて!」
はやく入ってきな! 採用だよ!
「えっと……ちょっとお尋ねしたくて! ぱんぎゅうぽろりんねっくって、スイーツ屋さん探してるんですけど……」
採用だよっていってるだろ! ぼやぼやしてないで入ってきなよ!
「えっと……面接とか言ってませんけど?」
面接に来たんだろ! 違うんならとっとと帰っとくれ!
「えっと……面接に来たんですけど……ここが、ぱんぎゅうぽろりんねっくなんですか?」
きょろきょろ? きょろきょろ?
入るのかい! 入らないのかいはっきりしなよ! うすらぽんきち!
「えっと……うすらぽんきちでは……ないですけど……お邪魔しま~す。」
ギギッ! ギギッ! ギギッ!
「あっ……開かないんですけど……お、重た……う~ん…う~ん……う~ん……」
ギギッ! ギギッ! ギギ……ギギ……ギギ……。
「やっと開いた!」
「早く閉めとくれ! 変なのが入ってくるからさ!」
「すみません! 閉めとくんですか?」
「あんたの親御さんは、開けっ放し派なのかい?」
「そんな派ありませんから?」
「ならとっとと閉めとくとくれ!」
「ですね! 閉めます! 閉めます! う~ん……う~ん……うううううっ……」
ギギギギッ……ギギギギギギッ……バタン!
「駆け落ちかい? 面倒事は御免だよ!」
「ん……? えっと……ホールのアルバイトの募集見てきたんですけど……?」
「でぇ……その娘と壱緒に住み込みかい?」
「えっと……先程からなんでしょうね? 壱人ですけど……」
「はああぁ……面倒臭いね! こっちきな!」
こいこい!
「あっ……はい……」
「あんた! 目閉じてるよ! ほれ!」
でこぴん!
「なっ! 何するんですかいきなり? しょっ……初対面ですよ!」
「そっちの! 名前何て言うんだい」
「す……鈴音です……」
「えっ! だ……誰……」
「鈴音って言ってるでしょ!」
「あの……何故にべったりくっついてるんですか? 離れてもらっても……」
「ずっと壱緒じゃん! 今更何言ってるのよ! 机の下の引き出しの裏にお宝隠してるよね! こんどこっそり出しとこうかな?」
「分かった! 不毛な勘繰りはよそう! マジがかぁ……」
「相部屋でも構わないね!」
「あっ……はい……別々とか無理ですよね?」
じろっ!
「離れられないよおぉ~……」
べったり。
「害は無さそうだし、満足するまでラブラブでいなよ!」
べったり!
「うふふふふ……」
「さあさ! 草木も眠る丑三つ時から仕事だよ! じゃんじゃん洞穴ケーキ運んでもらうからね! しっかり休んどきな!」
べったり!
「お部屋で休んどこよ!」
「えっ……夜中から仕事なんですか?」
「ちゃんと募集要項読んでなかったのかい?」
「あっ! 本当だ! 仮眠とってきます……あっ! すみません……お部屋案内してもらえますか? 面接に来たまんまでした」
「どいつもこいつも根性なしばっかだったからね 直ぐにげっそり青い顔になって居なくなっちまうんだよ! まったくさ! まあ! あんたは顔色も良いし、べったりラブラブみたいだから大丈夫だろ! 鈴音! しっかり掴まえときなな! 来な! 」
弐人同時に。
「はい」
「いこいこ! 可愛いお部屋ならいいけどね」
むぎゅう!
べったり!
ほら~ほら~……ほらほら……ほら~……。