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蛇と呼ばれる男、虎と呼ばれる男4

「く……くくくっ……くははははっ!

 そうだな、そうだ!」


「この狂人め……」


「だが鉄鋼竜の心臓は必要だからな。

 爺さん、あんただけは助けてやるよ」


 和輝に話しているようでカイの目がすでに和輝の後ろのカレンたちに向いていることに気がついた。

 どのみち目撃者を生かしておくつもりなどカイにはなかった。


「波瑠ちゃん」


「お、お爺さん?」


「俺がアイツが止める。

 助けを呼びに逃げるんだ」


 この中でも足が速いのは波瑠だ。

 そしてゲートまではそう遠くない。


 隙を作ることが出来ればゲートから抜け出して助けを呼びに行ける可能性がある。


「そういうのはこっそりと伝えるもんだ」


 動き出そうとした和輝より早くカイが動いた。


「あんた丈夫そうだからな」


 圭だったなら反応もできなかった速度だが和輝はなんとか反応できた。

 振りかぶられた拳をガードしようとした。


 しかしカイのヒジで爆発が起きて拳が加速した。

 和輝の頬に当たりながら振り抜かれた拳の威力は凄まじく和輝の大きな体が一回転した。


「爺さん……!」


 回復しつつあったカレンの横を通り過ぎて和輝が飛んでいく。


「あー……加減間違えた?

 まあ死んだらその時はその時か」


 思っていたよりもぶっ飛んでしまった。

 蹴りも入れられたからと少しばかり力を入れすぎたかもしれないとカイは反省する。


「波瑠……逃げるんだ」


「夜滝さん……」


 カイに聞こえないように声をひそめる夜滝は震える手で杖を握り締めた。

 どう考えても倒すことは無理。


 やはりここで1番可能性あるのは波瑠だ。

 波瑠が逃げられて助けを求めて帰ってくるまで命があるともとても思えないが少なくとも波瑠は助かる。


 上手く助けが来れば助かる可能性だってほんの少しはある。


「スキルを足に集中させて最高速度で逃げるんだ」


 夜滝の覚悟。

 波瑠は泣きそうな目をしてうなずくしかなかった。


「ほー?」


 カイの周りに水が渦巻き始めた。

 同時に空中にいくつもの水の玉が浮き上がる。


「ダブルキャスト……やるねぇ」


 同じく水の魔法なので分かりにくいが魔力の流れが違うので違う魔法を同時に使っているのだとカイはすぐさま理解した。


「波瑠!」


「はい!」


 足に魔力を集めて波瑠が走り出す。

 全速力。


 素早く誰かを呼んでくればまだ助かる。


「させないよ!」


 おもむろに波瑠の方に手を伸ばしたカイ。

 夜滝は杖を動かして魔法でカイを攻撃して波瑠の邪魔をさせまいとする。


 水の玉がカイに襲い掛かりながら周りを水が包み込んでいく。


「なっ!」


 捕らえたように見えたのも僅かな間だけ。

 爆発が起きて夜滝の生み出した水が全て消し飛んでしまう。


「もう少し魔力が強かったらな」


「波瑠、避けるんだ!」


「きゃっ!」


『スキル導く者が発動しました。


 闇を払い、守るべきものを守るため眠っていた力が一時的に解放されます』


 バカにするように笑い、波瑠の方に手を向けたカイは背中に衝撃を受けて狙いを逸らした。

 波瑠は後ろで爆発が起きて転ぶ。


「やめろ……!」


「くっ……なんだお前!」


 圭が後ろから抱きつくようにしてカイを羽交締めにする。

 殴られた腹がひどく痛むけれどそれを上回るほどの気力が湧き起こってきていた。


 波瑠が逃げる時間を少しでも稼ぐ。


「放せ!」


「ふっ……!」


 不愉快そうに顔をしかめたカイは自身の体を掴む圭の指を取るとためらいもなく逆の方向に曲げた。

 激痛が頭に響くように走るが歯を食いしばって圭はカイを放さない。


 後ろから掴まれているので力差があっても必死にしがみつかれると振り解くのも簡単ではない。


「早く……助けを。

 キャア!」


 圭の決死のしがみつきもあって波瑠はゲート手前まで来ていた。

 警察か、覚醒者協会か。


 どこに連絡すればいいとすでに頭の中では考え始めていた。

 なので気がつかなかった。


 ゲートから誰かが入ってきたことに。

 まともにぶつかってしまい、波瑠は尻もちをついた。


「むっ……すまないな、お嬢さん」


「え、ええと……」


「そんな怖い顔されたら怯えちゃうでしょ?

 大丈夫?


 私は上杉かなみ。

 今どんな状況か教えてくれる?」


 ゲートから入ってきたのは体つきの良い男性と青い髪が目を引く美人な女性であった。


「た、助けてください!

 急に変な人が!」


 波瑠はかなみにすがりつくように助けを求めた。


「……北条さん」


「見えている」


 もう1人の男性は北条勝利であった。


「男に抱きつかれる趣味はないんだよ!」


 北条の視線の先には圭を振り解いて地面に叩きつけるカイの姿があった。

 北条の体から魔力が溢れ出す。


 黒かった髪がみるみると赤く染まる。


「リウ・カイ!」


 声を出しただけなのに一陣の風が吹き抜ける。


「ありゃー、これはまずいな」


 遊びすぎた。

 ゲート前に立つ北条の姿を見てカイは目を細めた。


「貴様、覚悟しろ!」


 ボコリと地面が陥没するほど強く踏み込んで北条がカイと距離を詰めた。


「お嬢さんは外に。

 私の名前とヒーラーが必要なことを伝えて」


「でも……」


「ここは私たちに任せて」


 北条がカイを殴り飛ばした。

 ガードの上からであったのに威力を殺しきれずに森の奥にカイがぶっ飛ぶ。


「動けるものは早くゲートの方に」

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