蛇と呼ばれる男、虎と呼ばれる男3
「おやぁ?
盾ごと破壊してやるつもりだったのに……」
「カレンさん、大丈夫ですか!」
波瑠と夜滝がカレンの下に向かう。
「う……」
かろうじて意識はあった。
耳鳴りがして目がチカチカする。
カレンのメイスを持っていた右の肩は外れ、そして盾を持っていた左の腕は折れていた。
盾を爆破されたにも関わらず強い衝撃があって腕が耐えきれなかった。
カレンは才能で高い再生力を持つ。
死んでいなければ回復はするけれどしばらくは戦いに戻れなさそうである。
「いい盾持っているな。
さすが武器職人」
「……なぜ鉄鋼竜の心臓を探す!」
「武器が欲しくてね」
「武器だと?」
そんなものいくらでも用意のしようがある。
なぜわざわざこんなことまでして鉄鋼竜の心臓を探す必要があるのか。
確かに鉄鋼竜の心臓は武器にするのにも最高の素材かもしれない。
だがカイほどの実力があるならどのような武器でも手に入りそうなものである。
「イリーナが自慢するんだよ。
最近良い武器を手に入れたからってネチネチネチネチと!」
さっきまで笑っていたのに今度は怒りの表情を浮かべる。
「俺の能力はご覧のとおり魔力を爆発させることだ。
武器に魔力を込めても発動させられるんだけどなんせそうすると武器が壊れちまうんだ。
壊れない武器が欲しい。
イリーナのクソ女を見返せるような奴がな!」
カイの力が強すぎて普通の武器はすぐに壊れてしまう。
普段はそれでも全く構わないのであるがある時武器を自慢された。
固定の武器がない事を見下したような態度を取られてカイは激怒した。
そこでカイは良い武器を手に入れて見返してやると誓った。
そんな時に聞いたのが鉄鋼竜の心臓の話であった。
鉄鋼竜の素材で作られた装備品は未だに最高品質の物としてほとんど市場に出回ることがない。
所有者も一流の覚醒者たちでカイでも簡単に手を出せない。
けれど無名の覚醒者が持つ未加工の鉄鋼竜の素材があると聞いては多少のリスクを冒すには十分すぎる価値はあると考えた。
密入国し、顔を変え、そして秀嗣の借金の一部を持っていた小嶋金融を使ってどうにか鉄鋼竜の心臓を引き出そうとした。
せめてどこにあるかぐらい調べてくれればいいと思ったのに全く何も分からなかったので潰した。
「鉄鋼竜の心臓を使った武器!
ちょっとやそっとじゃ壊れないだろうしイリーナだって見返せる!
だから俺に寄越せ!
お前みたいな年寄りなんかよりも俺のような強者が使うべきものだろ!」
「イカれているな」
和輝は本気の目をしているカイを見て顔をしかめた。
人の物であるだとか一切頭になく、まるで鉄鋼竜の心臓を自分の物かのように考えている。
「違う」
「グッ!」
「和輝さん!」
カイは和輝に一瞬で近づくと首を掴んだ。
和輝も年寄りではあるが体はカレンや優斗の祖父よろしく大きい。
しかしそんな和輝をカイは片手で持ち上げる。
「イカれてるのはこの世界だ」
「くっ……放せ……」
覚醒者として力には自信のある和輝であったがカイに対しては全く通じない。
「世界は変わったんだよ。
ゲートと塔が現れてモンスターが世界に溢れた!
この世の中は覚醒者無しではやっていけなくなった。
力こそ正義、強いものが全てを手に入れる世界になったんだよ!
弱いものに権利なんてない。
未だに過去の世界のルールを引きずっている奴らこそ異常なんだよ!」
「放せ!」
和輝の顔が青くなっていく。
とても鉄鋼竜の心臓の在処を聞き出そうとしている様子には見えなくて思わず圭は切りかかった。
「んあ?」
切った。
そう思ったのに剣の手応えは軽くて、視覚と手の感覚の違いが圭の頭を混乱させた。
「遅い、脆い」
次の瞬間カイの拳が圭の腹にめり込んだ。
骨が砕ける音がしてくの字に曲がった圭の体が空中に浮き上がった。
声すら出すことが出来ず圭は地面に倒れた。
「圭!」
「圭さん!」
「ぬんっ!」
圭が作り出した隙をついて和輝が膝をカイの顔面に叩き込んだ。
「ゲホッ!」
「痛いじゃないか、爺さん……」
カイの手から逃れた和輝は咳き込みながら後ろに下がる。
「チッ……大人しく渡していればいいものを……」
「うっ……」
「なにこれ……」
急に空気が重たくなって上から押さえつけられるような感覚に夜滝と波瑠が顔をしかめた。
「何人殺したら差し出す?
1人か? 2人か?
それとも孫をズタズタにされたらか?」
心臓がキューッと締め付けられるような殺気。
何もしていないのに汗が噴き出すような中でも和輝だけが圧力に耐えてカイを睨みつけている。
「ふん……何を言う。
お前さんは血の臭いがすごい……俺たちを生かしておくつもりなどないだろう」
荒れ果てた世界で戦いの日々を過ごしてきた和輝は数多くの人を見てきた。
世界を助けようと奮闘する人がいる一方で混乱した世界の中で自分勝手に振る舞う人もいた。
ひどい犯罪者、人を人とも思わぬ殺人者もいた。
そうした人間には独特の雰囲気がある。
血の臭いと表現すべきか、異常さを感じられるのである。
目の奥に光る狂気を見ればカイが圭たちを見逃して帰してくれるつもりなどないことは分かりきっていた。