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小嶋金融4

「だから覚醒者は引退して、別の道として覚醒者を支援できないかと考えたんだ。

 それが装備作りの道だった」


「それで……狙われるものってのはなんだよ?」


「後日そいつが謝りにきてな。

 自分を庇ったばかりにケガをさせてすまないと。


 それでゲートで得られたボスのドロップ品を置いていったのさ。

 売って生活の足しにしてくれってな」


「そんなことが……」


 見ていても和輝が足に不自由を抱えているように見えなかった。

 実際日常生活においては不自由なこともない。


 けれど激しい運動などになると足がうまく動かなくなるので覚醒者は続けられなかったのである。


「そんなもの売れるはずがない。

 だからもっとうまく覚醒者の装備を作れるようになったらそれでなんか作って返そうと思ってたんだけど、未だにそれを加工する勇気が出なくてな」


 あまりにも良い素材。

 失敗して無駄になどできない。


 それをどう、何に加工するのか方向性も定まらなくて和輝は手をつけられないでいた。


「今は銀行の貸金庫に入れてある。

 いくら探しても出てきやしないし、俺に取っては俺のものの意識もないから借金の返済に当てようだなんて考えたこともなかった」


 和輝は渋い表情を浮かべる。

 そう考えると辻褄はあう。


 どこかで和輝が高価なモンスターの素材を持っていることを知ってそれを借金のカタとして奪おうとした。

 なのだがいくら強請っても和輝はモンスターの素材を売ったり差し出したりもせず、借金は返されてしまった。


 だからその素材を盗み出すために泥棒を送り込んできた。

 真相の確認のしようもないが一応の筋道は立つ話になる。


「確かにそれなら小嶋金融が固執していたのも納得はできますね。

 ちなみにどんな素材なんですか?」


「鉄鋼竜の心臓だ」


「てっ……」


「まだ幼竜だった。

 それでも今世界にあるモンスター素材の中ではトップクラスの素材となるだろうな」


 鉄鋼竜とは全身が金属のような鱗で覆われた竜であり、最初期のゲートブレイクの時にカナダの南部に成体の鉄鋼竜が現れて甚大な被害をもたらして姿を消した。

 日本でも20年ほど前に鉄鋼竜ゲートが現れて今でも時々話題に上がることがある。


 圭も当然鉄鋼竜ゲートのことは知っている。


「鉄鋼竜ゲートっていうと大和ギルドのギルドマスター北条勝利が大きく名を上げたっていう……」


「うむ、アイツもデカい男になったものだ」


「えっ?」


「さっきから言っているのが勝利のことだ」


「マジかよ、爺さん?」


「まじだ」


 太海ギルドと並ぶ日本の5大ギルドの1つである大和ギルドはA級覚醒者の北条勝利をギルドマスターとし、さらにはもう1人A級覚醒者も抱える大きなギルドである。


「すげー人じゃん……」


 次々と出てくる驚きの話に理解が追いつかない。


「なんで言ってくれなかったんだ?」


「ん?

 知らんかったか?


 お前さんが毎年楽しみにしてるハム、あれは勝利から送られてきているお歳暮だぞ」


「えっ!?」


「カレンが気に入っていると言ったら律儀に毎年贈って来よる」


「爺さん宛のお歳暮の名前なんか一々確認しないよ……」


 まさか今でも繋がりがあったなんて。

 知らず知らずのうちに北条にお世話になっていてまたまた驚いたカレンであった。


「俺に何かあったら勝利を頼らせるつもりだった。

 ……あやつなら金もある。


 悪いようにはしないだろうと思っていた。

 その必要はなかったみたいだがな」


 和輝は優しい目で圭を見た。


「ともかく工房を狙っていた小嶋金融は無くなったんだけど黒幕……がいるのかな」


 和輝が抱える素材のことを一介の金融業者が知り、奪おうと考えるのもまたおかしな話である。

 誰かが小嶋金融を脅して奪わせようとした。


 そして失敗したから酷い事件が起きた。

 辻褄は合ってしまう。


「分からん。

 そもそもアレのことを俺はどこかに言った覚えはないからな。


 何十年も前の話、今更どうして……」


「分からないですね」


 みんなでため息をつく。

 小嶋金融もなくなったしまったので誰かに聞くこともできない。


「少なくとも八重樫さんがご退院なされるまではカレンさんと優斗さんはホテルに泊まっていただいた方がいいと思っています」


「すまないがもう少し頼らせてくれるか?」


「もちろんです」


「なんならカレンは村雨さんの家に連れてっても」


「じーさん!」


「はははっ、満更でもないくせに」


「うるさい!」


「すいませーん、病室ではもうちょっとお静かに願います」

 

「な、うぅ、すいません……」


 少し声を荒らげすぎた。

 看護士に注意されてカレンがしゅんとする。


「まあ互いが望むなら俺は止めない。

 ……ただし孫娘を泣かせたら恩人といえど容赦はしないからな」


 最後に声を低くする和輝。

 これまで過酷な戦いを経てきた静かな圧力を感じて圭は引きつったように曖昧に笑うしかなかった。

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