小嶋金融2
もちろんこちらだって馬鹿じゃない。
弁護士に依頼する前から利子のことは頭にあった。
如月に依頼したらちゃんとそこらへんも考えてくれていた。
利子分足りないから返済できませんなんてことないようにしている。
来る途中で銀行に寄って返済もして来ている。
小嶋金融まで来たのは確実に返済したと認めさせるため。
銀行から返済までしてしっかりと証拠は残っていて誤魔化しようなどないが念には念を入れる。
「た、ただいまお調べいたしますので少々お待ちいただけますでしょうか」
やや顔をひきつらせて渡部が部屋を出ていった。
「借金を利子まで含めて返すというのに高圧的な態度……いかにも怪しさがありますね」
コワモテだけじゃなく相手を威圧しようという意思を感じる。
確実だからと乗り込んでくることにしたがやはり直接ではなく如月を仲介してやり取りした方がよかったかもしれないと思った。
ただこうした輩はいきなりに弱くて狙い通りに話を押し切って進められた。
悪巧みも短時間では考えられないだろう。
確認するだけにしては長い時間が経って渡部が戻って来た。
その顔に笑顔はない。
お金がちゃんと完済されたなら嬉しくて然るべきなのに。
「確認が取れました……」
「では返済の証明書と借用書をお願いします。
住所は八重樫カレンさんの現住所に」
さっさと話を進める。
「クソッ!」
全てを話し終えて部屋を出た。
その瞬間に何かがひっくり返るような大きな音と怒号が聞こえて来た。
八重樫工房に関して何かを企んでいた。
そのことは間違いないが相手も違法スレスレではあるが一応は真っ当に金貸しをしている以上できることに制限がある。
真っ当ではない裏がありそうだけれどひとまず借金を返すことには成功した。
「アイツらについて調べろ!」
「男の方はともかく、弁護士の方はまずいんじゃないですか?
それにもう借金返されてしまっていますし……」
「うるせぇ!」
若い社員が暴れる渡部をなだめようとしているが渡部は血走った目を座っていたイスを投げつけた。
何とかかわされたイスは壁に激突して無惨にも壊れてしまう。
「あれが必要なんだ……じゃなきゃ俺たちは終わりだ」
「ですが本当に持っているんですかね?」
「知らん……だがそれにしても持ってるかどうかも引き出すまで後少しだったのに」
「もうこの際正直に話して取引でも持ちかけたら……」
「ここまできてそんな手使えるかよ!」
そんなこと言うのならば最初から穏便な手を出しておけばよかったのにと若い社員は思う。
「もう時間もない……荒っぽい手でもやらなきゃいけない。
人を集めろ」
ーーーーー
「話は聞かせてもらった……色々と聞きたいことはあるがまずは感謝を伝えよう。
ありがとう、村雨圭さん」
「いえ、お元気そうで何よりです」
圭は和輝のお見舞いに来ていた。
もうすぐ退院できるらしいけれどカレンや優斗から話を聞いて圭にどうしても会いたいと和輝が希望したのである。
なので勝手に話を進めてしまった謝罪も兼ねて圭は和輝のお見舞いをすることにしたのである。
工房にいる時は険しい顔をしていることが多かった。
しかしそれは和輝本来の姿ではなく、借金や疲労が重なってのことだった。
穏やかに笑う和輝は優しい顔をしていてこちらが本来の姿である。
病院に入院することにはなったがそのおかげでゆっくりと休めた。
さらにはカレンから借金について解決したことを聞いた。
別の人から借りたことも聞いているので不安はあったけれど常に不安そうにしていたカレンを見れば悪い人に捕まったのではないと分かった。
実際圭に会ってみても借金取りたちから感じたような悪意は感じられなかった。
「カレンも覚醒者になれるんだって?」
「はい、それは保証します」
強くなれるかどうかはまだまだ不明なところが大きいが覚醒できることはまず間違いない。
「……うちのカレンはどうだい?
身内の色眼鏡だが美人に成長したと思うんだがね……」
「爺さん!」
お見舞いにはカレンも同席していた。
「面倒見はいいし料理もできる。
ちょっとガサツなところはあるが一途で旦那のことを立ててくれるぞ」
「や、やめてよ!」
急な話題転換にカレンの顔が真っ赤になる。
どうにも圭の話をしている時のカレンの顔色が普段と違うことに和輝も気づいていた。
優斗にも聞いてみたが不満そうな顔をしている割に圭について悪くは言わなかった。
これまであまり浮いた話のなかったカレンに春がきたというのなら和輝は喜んで応援するつもりもある。
覚醒者としての才能を見込んでなどというがそれだけでお金を出すには大きなリスクも伴う。
最低でもカレンのことはよく思っていることは分かりきっている。
お金をポンと出してくれる甲斐性もある。
会ってみて、話してみても良い人であることは長年生きてきた経験からも感じられた。
ニコニコとカレンを勧められて圭も困惑する。
娘はやらんという頑固親父タイプに見えたのに全然違っていた。
「それにしてもあんなこと起きるだなんてね……」
カレンは深いため息をついた。