小嶋金融1
「如月六花です。
よろしくお願いします」
「村雨圭です。
わざわざご足労ありがとうございます」
「八重樫カレンです。
よろしくお願いします」
圭としては別にあげるつもりぐらいの感覚でよかったのだけどカレンはそれはダメ、筋は通すべきと借用書も作ることになった。
ついでに借金相手はどうにもヤバそうな奴らなので圭とカレンだけよりも専門家の力を借りるのがいいと判断した。
水野に連絡を取ったのだけど水野も暇人じゃない。
さらには前回のことも上にバレたようで今回は手伝えないと言われてしまった。
そこで水野に別の弁護士を紹介してもらうことになった。
覚醒者弁護士という言葉には2つの意味がある。
1つは覚醒者のための弁護士という意味。
未だに曖昧なところはありながらも近年急速に整備されている覚醒者たちのための法律などを学んで覚醒者のために活動もしている弁護士である。
水野もいわゆるその類である。
もう1つは覚醒者の弁護士という意味。
弁護士にも覚醒者はいる。
覚醒してから弁護士になった人もいれば弁護士としてやっている中で覚醒した人もいる。
覚醒した弁護士で覚醒者のためにやっている人もいるが覚醒した弁護士は仮に相手が覚醒者でも引けを取らずに交渉に臨めることが大きい。
何も荒事ばかりではないけれど覚醒者と一般人では力が違いすぎて、少し感情的になるだけで身体の危険がある。
覚醒者を相手する時にこちらも覚醒者なら安心がある。
そんな時に覚醒者である弁護士が重宝されるのだ。
今回は相手が厄介そうなこともあり、水野は昔お世話になったという覚醒者の弁護士を紹介してくれた。
流石にまた相手に襲われるなんてないだろうと笑っていたらそれフラグですよとは言われたけどそうそう何度も命狙われてたまるかと思う。
ともかく圭と工房でのお金の貸し借りと工房の借金返済のために水野から紹介された弁護士と連絡を取った。
それが如月六花という女性だった。
自身もE級覚醒者であり、弁護士として活躍するかたわらで覚醒者としても時々活動しているらしい。
まずはカレンと圭でお金の貸し借りの書類を交わす。
事前に作ってきてもらっているのでほとんどサインするだけのようなものである。
「確認はしてみましたが書類は真っ当ですね。
……やり方はいささか度を過ぎているようにも思えますがこうした連中が何をしてくるか分からない以上お金を払ってしまえるならその方が早いかもしれません」
カレンたちに払う義務などないと争うことは可能そうであった。
けれどもそれは出来るというだけで勝利の確証はなく、相手の出方によっては非常に辛い日々を送る可能性も大きかった。
もし借金を返してそのまま縁が切れるならその方が安全で早い。
抗戦するだけが手段ではないのだ。
「お兄さん、本当にいいですか?」
「もう借用書も交わしたのに今更どうしようもできないだろ」
借用書まで交わしてお金を貸したのだけれど内容はほとんどあげるのとほとんど変わりがない。
借金取りが持ってきた借用書と比べると雲泥の差である。
「まあ返せる時でもいいし、なんなら踏み倒されたって構わないさ」
どうせこのお金も運良く拾った石で稼いだもの。
失って惜しい気持ちがないかと聞かれると惜しい気持ちもあるが固執まではしない。
弁護士として深く追及しないが如月は圭とカレンの関係がどのようなものなのか疑問を抱いていた。
恋人にしては少し距離がある。
けれどただの知り合いに貸すような金額でもないし親戚のようにも思えない。
ただ圭よりも身長が高く、やや強気な性格に見える顔立ちのカレンが控えめに圭のことをお兄さんと呼ぶのはイイネと思った。
「ではそのまま借金をお返しにいかれるということでいいのですか?」
「そうしましょう」
日をおけば相手が何をしてくるか分からない。
圭とカレンの借金のやり取りなどおまけで本来は借金返済がメインの目的であった。
圭たちはタクシーを呼んで借金取りのところに移動した。
小嶋金融というのが今回カレンの父親が借金をしていたところであった。
ネットで調べたところでは小嶋金融の評判はよろしくない。
けれど他よりも緩い基準で借りられるのでお金を借りにくる人が絶えないのである。
如月が圭やカレンに代わって前に立ち、話を進めてくれる。
お金を返しにきたと告げると奥の部屋に通された。
「どうもどうも。
借金をお返しになりに来られたということで」
スーツを着崩したおじさんが対応に出てきた。
頬に傷跡があって目つきも鋭く強い威圧感を感じる男性であった。
道端で見かけたなら必ず避けて通るような見た目をしている。
「渡部と申します」
一応名刺はもらうけれど家に帰ったらすぐに捨てようと圭は思った。
「借金ですが……実はお伝えした額は利子がついていないものでして、全額返済となりますと利子も含めてとなりますが」
ドカリとソファーに座った渡部は低い声で話し出した。
借金なんか返してもらえれば嬉しいはずなのにあたかも返してほしくないような雰囲気すら感じる口調である。