あなたが欲しい3
「もう一度言いますがただの覚醒者ではなくとんでもない才能も秘めているんです」
「も、もしかしてA級、とか……?」
「将来的にはその可能性もあります」
「しょ、将来的?」
「覚醒してすぐは強くはないでしょう。
ですがカレンさんは強くなれるのです」
細かくステータスとかレベルアップとかの説明は面倒なのは省く。
後々仲間になってくれたらちゃんと説明しようと思うけどここでは情報漏洩のリスクもあるしざっくりと話を推し進める。
「そ、そんなの信じられるはずがない!」
悩むような目をしているカレンに対して優斗は否定的であった。
カレンが覚醒者に憧れていることは優斗が1番分かっている。
覚醒者詐欺も未だに横行している世の中で覚醒できますよなんて言葉は相手を騙すための言葉にしか聞こえなかった。
「姉さんを騙してどうするつもりだ!
そんなお金まで用意して……」
「優斗!」
「ね、姉さん……」
「考えてもみな。
わざわざ私を騙すのにこんな大金作ってくる必要なんてないはずだ」
覚醒者になれるからお金を払え、ならともかく騙したいのだとしたら圭がお金を出す理由がない。
それならカレンが欲しいと言った発言も含めてすごい才能がある覚醒者になれるからお金を出すのだと考えた方が筋が通る。
騙したいのに大金を用意して借金を肩代わりするなんて馬鹿げた話はあり得ないだろう。
「……う……でも」
優斗の方もそれは分かっている。
けれどいきなり降って沸いた話を受け入れがたくもある。
「その……」
「なんですか?」
「わ、私が欲しい、てのは体的なことじゃなくて、その、覚醒者として、欲しいってこと?」
顔を赤くしてモジモジとしているカレン。
ここはちゃんと答えなくてはいけないなと圭は思った。
「もちろん覚醒者としてカレンさんに将来性を感じたことは大きいですがここまで仕事ぶりを見て真面目で丁寧だし、弟さんや工房のことを思う優しい人だと思いました。
たとえ才能があってもクズだと助けはしなかったと思います。
カレンさんだから助けたいと思ったんです」
真っ直ぐにカレンの目を見て答えた。
その答えが正解だったのか圭には分からない。
でも正直な気持ちを正直に口にした。
神話級の才能があったとしても人として信用できなきゃ圭は仲間に引き入れるつもりなどない。
でもカレンは良い人だ。
仕事の手際は丁寧であるし弟やお爺さん、工房思いなところもある。
戦うことに関してどうかとは思うけれど仮に戦いに向いていなくても覚醒者となれば良い装備を作ってくれそうだ。
少し答えとしてはカレンの言ってほしいところとはズレていた。
だからこそ圭の人柄が分かる。
本気であることも伝わった。
「……借金ってどうしたらいいのかな」
「姉さん!」
「話……受けてくれるんですか?」
「もうどっち道、借金取りに取られるか、お兄さんに頼るかの選択肢しかないです。
それならお兄さんを信じさせてほしい」
「カレンさん……ありがとうございます」
これで騙されたとしてもどうしようなかったのだ。
圭を信じてみよう。
カレンは不思議と圭なら信じられると思った。
「ぐぅ……ね、姉さんを泣かせたら僕が容赦しないからな」
優斗ももう残された選択肢がないことは理解している。
カレンが圭を信じるならそれに従うしかない。
けれど圭が裏切ったりするのならたとえカレンが止めようとも圭に復讐するぐらいの覚悟は持っていた。
「騙したりするつもりはないから安心して。
お金だって余裕ができたら返して欲しいけどいつまでに返せとか言わないよ」
「逆にそれが怪しいんですよ……」
そこまで良くしてくれる理由が未だに分からぬカレンの覚醒者の才能とやらなのだから優斗は信用しきれない。
「優斗……心配してくれてありがとう」
カレンは優しく優斗の肩に手を乗せる。
「姉さん」
「いざとなったら私が……こ、こう、体で本当に」
「姉さんをそういう対象で見ているんですか?」
「え、俺?」
「僕としてはもうちょっと体の大きな人が……」
「べ、別に良いじゃないか!
お兄さんだって全然良い体してる……あっ、違う!
そういうことじゃ!」
装備の調整の時に体を測定したことを思い出したカレンは変なことを口走って顔を赤くする。
「まあ別に体売ることはないですよ。
それに覚醒者として成長できたらこんなお金あっという間に返せますよ」
「…………村雨さん、もしかして鈍感ですか?」
「ん?
何に対して鈍感だと?」
「いえ、いいんです。
鈍感ならそれで」
優斗は少し安心したような顔をした。
我が姉ながら分かりやすいような態度をしていると思っていたが圭はカレンが圭に好感を持っていることに気がついていない。
むしろ体を差し出そうとまでしているようにすら思えていた。
圭が気づいていないのなら良いのだ。
なんやかんやとややシスコン気味な八重樫優斗青年。
だけどこれに気づかない圭に対して不満も少しあったりするのであった。