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闇のオークション3

 画面をスライドしてみると複数角度から撮られた写真が見られる。

 最後のページには商品の簡単な説明が書いてあった。


「鑑定の結果……B級の魔石であることが判明しました!」


 視界の人の声は室内にあるスピーカーを通じて聞こえてきていた。

 オークション会場そのものの声は聞こえないけれどざわつきが圭の目にも見てとれた。


「貴重な高等級の魔石です。

 スタートは2000万、入札単位は100万円。


 それではオークション開始です!」


 まさかスタートから2000万という数字に圭は驚く。

 つまり最低でも魔石は2000万の価値があるということになる。


「2100……2200……2400……」


 会場の人々から札が上がって値段が上がっていく。


「B級の魔石……なかなか珍しいわね」


「珍しい……ですか?」


 音が聞こえずとも人々の争いは分かる。

 かなみはおもしろそうにその様子を眺めている。


 圭は魔石の価値がよく分かっていない。

 その時の需要やゲートの出現具合によって魔石の価格も上下するらしく、その上高い等級の魔石の取引価格は公表されてもいない。


 だけど大海ギルドほどになると高い等級の魔石の取引もあってどの程度の珍しさなのか理解をしていた。

 圭はタブレットにも表示されている上がっていく金額にむしろ恐怖すら感じる。


「B級ともなると大体大きなギルドや企業がしっかりと計画を立てて攻略するものよ。

 当然そのモンスターの魔石はそのギルドが確保するものでこのような場所に出てくるものじゃないの。


 ギルドが攻略したものでも大体の場合大きな企業が攻略前に話をつけているのがほとんどよ。

 こうしたところ、どころか一般ですら出回らないわ」


「なるほど」


「そもそも高い等級のゲートの絶対数も少ないもの。

 誰にもバレずに攻略することは不可能に近い。


 どこの誰がどうやって手に入れてこんなところに出したのかしら」


 出したのは自分ですと圭は思うけど口には出さない。


「コール6000万!」


 誰かが値段を叫んだようだ。

 急に金額が跳ね上がった。


「まだ上がるわよ」


「珍しいからですか?」


「それもあるけど今は色々あるのよ。

 本来は魔石なんて一般の人に使い道のないただの石と変わりがないものだった」


 確かに一般人どころか覚醒者だって魔石単体で手にしていても使い道はない。


「だからあまりこうしたところでも売れるものじゃなかったのだけど最近とある噂が広まっているのよ」


「噂?

 魔石に関してですか?」


「そ。

 魔石は不老長寿の薬である、なんてね」


「ふ、不老……長寿」


 魔石は文字通り石だ。

 それがなんで薬になるのか疑問である。


「お金持ちのクソジジイどもの間で流行っている話でね。

 なんでも魔石を砕いて粉末にして1日2回飲むと体の調子が良くなる。


 そしてそれを続けると寿命が伸びるなんて言われているのよ。

 覚醒した人は年を取っても元気で若々しくあることが多いからそんな噂が流れ始めたらしいけど……やってみると本当に効果あるらしいのよ」


 特に等級の高い魔石ほど効果が高いと言われている。

 そのために今落札競争に参加している人もそうした噂のために魔石を競り落とそうとしているお金持ちが多かった。


「最近の研究ではエネルギーである魔力が体にあると若々しさを保ってくれるなんて結果もあるから魔石を飲むことで一時的に魔力を得られて元気になるのかもしれないわね」


「へ、へぇ……色々教えてくださってありがとうございます」


「いいのよ。

 黙って眺めているよりこうして会話しながらの方が楽しいわ」


「コール、1億!」


「ええっ……!」


 とうとう魔石の金額が大台に乗った。

 見るといつの間にか多く上がっていた札もかなり減っていくつかしか残っていない。


 まださらに値段はじんわりと上がっていく。


「コールするわ、2億」


「お、オーシャンさん!?」


 これまで大人しくオークションを眺めていたかなみが急に参加した。

 しかも突然今までの値段の倍となる金額を提示した。


 後ろに控えていたオークションの係員が胸元の無線で連絡を取る。


「コールがありました、2億、2億です!」


 オークション会場がざわつく。

 急な値段の上がり方にみんなさらに入札するのか迷いが生じているようだった。


「買われるんですか?」


「買わないのにイタズラで入札したら一生ここに来られなくなるのよ」


 興味があるようにも見えていなかった。

 なのに急に入札したものだから困惑を隠すことができない。


「興味あったんですか?」


「若さを保てるならね」


 冗談めかしてかなみが答える。


「いやいや……まだまだお若いでしょう」


 それに覚醒者は容姿の劣化が遅い。

 魔石など飲まなくてもかなみなら十分な美しさを保てるはずなのだ。


「……まあ冗談は抜きにして、少し魔石が必要だったなんて思い出したの。

 最近うちのギルドでは塔で採れる植物やモンスターの素材で化粧品やスキンケア商品を開発しようとしていて不老長寿の薬とも言われる魔石も入れてみようと考えていてね」


「でも……あ」


 大海ギルドなら手に入るでしょう?

 そう言いかけて圭は言葉を飲み込んだ。


 誰なのか丸わかりであっても言い出さない以上は秘密にすべきなのだ。

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