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闇のオークション2

「でも秘密は秘密、だからね」


 太海ギルドのギルドマスターである上杉かなみは唇に指を当てて圭にウインクしてみせた。

 仮面越しだというのにドキリとしてしまう。


「彼と同じものを1つ」


「かしこまりました」


「オークションは初めて?」


「ええ。

 初めてです」


 初めてどころか最初で最後のオークションかもしれない。

 普通の人ならブラックマーケットのオークションになんて縁はない。


 圭には今後出品する予定も参加して落札する予定もない。


「そう緊張しなくても大丈夫よ。

 ここならあなたを取って食うような人もいない。


 下ならともかく、ね」


 カウンターに腰を預けてかなみはカクテルを傾ける。


「あなた、お名前は?」


「えっと……ジェイです」


 一瞬本名を答えそうになるがすぐに偽名の方を聞いているのだと気がついた。


「ジェイね。

 私はオーシャンよ」


「……隠すつもりありますか?」


 見た目でも分かりやすい。

 それでもまだギリギリ誤魔化せるかもしれないのにオーシャンなどと名乗ればほとんど答え合わせと同じである。


「どうせ隠したところで隠しきれないもの。

 それならわかりやすく伝えて手を出させないようにした方が賢いとは思わない?」


「確かにそうかもしれませんね」


 太海ギルドの上杉かなみだと分かればほとんどの相手は手を出してこない。

 そして正体がバレることも恐れず堂々としていることは周りに対する強い牽制にもなりうる。


「私が誰なのか分かると擦り寄ってくる人もいたり、こんなところなのにサインを欲しがったりする人もいるのにあなたは冷静なのね」


 面倒な話をされなくていい。

 少しだけ嬉しそうにかなみが笑った。


 自慢じゃないけれど何かの関わりを持ちたがる人ははいて捨てるほどいる。

 特に男性だと叶うはずもないくだらない希望の可能性に少しでもかけてくる人が多いこと。


 トライするのは自由だと言うがされる身にもなってほしいものである。


「興味ないわけじゃないですけど俺も自分のことは分かってますから」


 恋人どころか知り合いにだってなるには差が大きすぎる。


『上杉かなみ

 レベル477

 総合ランクB

 筋力B(無才)

 体力C(無才)

 速度B(無才)

 魔力A(一般)

 幸運E(無才)

 スキル:暗き深海の牢獄

 才能:人魚の祈り』


 上杉かなみは巨大ギルドのマスターとしてふさわしくA級覚醒者として知られている。

 当然その能力値は圭も気になるところだった。


 真実の目で能力を見て驚いた。

 これがA級覚醒者というものなのかと。


 圭の能力なんか見てみろ。

 神話級の幸運値ですら未だ劣っているレベルだ。


 気になる点はあるけれどそれでも足元にも及ばない能力なことは間違いない。

 かなみが少し力を入れて殴ろうものなら圭は即座に肉塊と化してしまうことだろう。


 そんなことをしない人だと思うけれど立場も違えば物理的な力も違いすぎるのだ。

 会うのも今回限りなのだろうからお友達になりましょうという気にもならない。


「きっと今日、今だけの関係ですしね」


「1夜限りの関係ってものかしら?」


「ちょっとそれだと違う気が……」


「ふふふ、そんな風にツッコミ入れてもらうのも嬉しいわね」


 1夜限りの関係では少しただれた関係なような印象を受ける。


「もっと他のところで会えたらいい友人になれたかもしれないわね、私たち」


「そうですかね」


 きっと他のところであってもこのような会話をすることはなかったと思う。

 そもそも他のところで会うことなんて有り得ない話なのは置いておいてであるが。


「皆さま大変お待たせしていたしました。

 まもなくオークションが開始となります」


「始まるみたいね」


「そうですね」


「同席しても構わないかしら?」


「えっ?

 構いませんけど……」


 ガラス張りとなっていてオークション会場を見下ろせるテーブル席に移動する。

 バーカウンターにいて気づかなかったがいつの間にかオークション会場の座席には多くの人が座っていた。


 一面黒のクロークを着ているので人数を把握するのは難しいがかなりの人がいる。


「こちらの番号札をお持ちください。

 表の黒い数字が決められた金額のアップ、裏の赤い数字が倍額のアップとなります。


 それよりも大きな金額をコールすることも可能でして、その場合は後ろに控えております者に申し付けください。

 こちら商品の説明など見るのにお使いください」


 圭の前に番号の書かれた札とタブレットが置かれる。

 オークション会場を見下ろすことは出来るけれどステージからはやや遠い。


 出品された商品の写真や説明などを見るために各自にタブレットが渡されるのだ。


「ラッキーナンバー7ね」


 圭の番号は7。

 かなみの番号は8であった。


「皆さまご静粛に」


 オークションの会場のステージ上に1人の男性が出てきた。

 最初に圭の接客をしてくれたスーツの男性店員のように見えた。


「それではオークションを開始させていただきます。

 早速一品目とまいります」


 ステージ傍からカートに乗せられて物が運ばれてくる。

 それは圭が出品した魔石であった。


「オークションの記念すべき最初の品は魔石となります!」


 同時に圭の前に置かれたタブレットにパッと出品された品の情報が表示された。

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