飛び始めた小鳥を狙う闇5
さらに圭は魔力数値が相変わらず低い。
直接的に魔法を使わないのなら魔力は基本的に身体能力の強化に使うのが普通でそうしたところでもただと差がある。
だから同じように殴られても圭の方がダメージがある。
「ふん、クソが。
人前でいちゃつきやがって」
「は、はなして!」
地面に転がる圭をよそに忠成は波瑠の腕を掴んだ。
振り払おうとするけれど忠成の方が力が強くて振り払えない。
「うるせぇ!」
「ゔっ!」
忠成は波瑠の腹を殴りつける。
容赦のない攻撃に波瑠はお腹を抱えてへたり込む。
「ただ殺してやろうかと思っていたけど気が変わった。
俺も少しは楽しませてもらわなきゃ割にあわねぇってやつだ」
忠成はニヤリと笑った。
圭と波瑠がラブホテルに入るのを見て、仕事を邪魔された怒りに加えて若い女性と圭がいちゃつくことに醜い嫉妬も覚えていた。
「おら、いくぞ!」
「い、いたいよ!」
忠成は波瑠の髪の毛を掴んで立ち上がらせようとした。
痛みに波瑠が泣きそうな顔をしている。
「やめろ!」
頬を赤く腫らした圭が立ち上がってナイフを抜いて忠成に切りかかる。
大きな武器は目立つから圭もナイフを携帯していた。
「んなもん当たるかよ!」
忠成は圭のナイフを軽くかわすと逆の頬を殴りつける。
魔力等級の2つの差はあまりにも大きかった。
「はは……これからこの女は俺に連れ去られて、お楽しみの後、行方不明になるんだ。
死体はゲートの中、多分一生見つからないだろうな」
倒れる圭の前で忠成はあざ笑う。
「くそっ!」
圭は諦めずに忠成にかかっていく。
「波瑠、逃げろ!
助けを呼んで来るんだ!」
「チッ、はなしやがれ!」
服を掴み抱きつくようにして忠成を行かせまいとする。
目的は波瑠だ。
波瑠が逃げられればチャンスはある。
こうして襲われた以上は覚醒者協会にも警察にも言うことができる。
逃げるべきか、助けるべきか。
このまま逃げれば圭は殺されてしまうかもしれない。
迷いが波瑠の体を動かなくさせる。
「この……はなせ!」
「グフっ!」
忠成は圭の腹に膝を入れると首にナイフを突きつけた。
「おい、逃げんじゃねえぞ!
こいつがどうなってもいいのか!」
刃先が首にめり込んで血が垂れる。
「ま、待って!
分かった……分かったから!」
「ダメだ!
逃げるんだ……」
「お前は黙ってろ!」
「やめて!」
忠成はナイフの柄で圭を殴りつける。
油断していたわけでも、相手を軽く見ていたわけでもないがここまで力に差があるなんて。
情けない。
女の子1人まとも守れないなんて。
せっかく波瑠にも希望が見えて、強くなり始めていたのにこんなところで終わるなんて。
「ふふ、お優しいこった。
そりゃ恋人だもんな。
守りたくもなる……」
圭の額が切れて血が流れる。
「だがなぁ、どの道目撃者は……殺すんだよ!」
「いや、ダメー!」
忠成は圭の首に突き立てていたナイフでそのまま首を切り裂こうとした。
「あっ?」
「ダメだ……こんな風に波瑠を殺させちゃダメなんだ」
より深く首にめり込みそうになったナイフを圭は手で掴んだ。
当然素手なのでナイフの刃が手を切り裂いて血がナイフを伝って流れる。
しかし忠成がナイフを動かそうとしても動かない。
『スキル導く者が発動しました。
闇を払い、守るべきものを守るため眠っていた力が一時的に解放されます』
「なんだ……この」
「波瑠に手出しはさせない!」
圭は振り向きざまに裏拳を忠成の顔にぶち当てた。
先ほどのパンチとはまるで違う威力に忠成はナイフを手放してぶっ飛んでいく。
『村雨圭
レベル10
総合ランクG
筋力F(E)(英雄)
体力F(E)(伝説)
速度F(E)(英雄)
魔力G(F)(一般)
幸運F(D)(神話)
スキル:真実の目、導く者
才能:類い稀な幸運』
勝手に浮かび上がった表示をさっと確認する。
何が起きているのか分からない。
でも表示通りの強さが今の自分にあるなら忠成を倒すことができるかもしれないと圭は思った。
「なんだこいつ……調査ではG級だと」
「うわあああっ!」
圭がナイフを振り上げて地面に倒れる忠成に襲いかかる。
「ぐっ!
こ、こんな力どこから!」
ナイフを振り下ろす手を掴んで防いだ忠成。
圭と忠成の力が拮抗する。
魔力で強化した忠成の力と不思議な現象で筋力ステータスが上がった圭の力はほとんど同じだった。
「ふざけるなよ!」
忠成は圭を蹴り上げて下から脱する。
自分の落としたナイフを探したがその間に圭はすぐに持ち直して忠成に切りかかった。
体力ステータスも上がったので攻撃に対する耐久力も上がっていた。
忠成はナイフを避けようとしたがかわしきれずに頬が浅く切れる。
「G級のくせに!」
素早くナイフを振るう圭だったが忠成は簡単にはかわして圭を殴る。
ナイフを探すのは諦めて素手で圭と戦うことにした。
どっちにしろG級に負けるはずがないとの自負もあった。
圭がナイフを何度振っても忠成には当たらず、忠成の蹴りや拳は確実に圭に当たる。
能力値的には肉薄しているはずなのに差がある。
それは戦闘経験の差、持っている能力を活かすことが出来る経験の差であった。
持てる能力を生かしきれず、なおかつ戦いに関しても忠成の方が手慣れていた。