飛び始めた小鳥を狙う闇2
なんとかしようと足掻いていた。
良くないことだったのかもしれないけど自分の出来ることで何とか家族を助けたいと思った波瑠の思いが良い結果を引き寄せたのだ。
「これからちゃんとお金も支払われて覚醒者としても強くなって、もっと良くなれば良いな」
「良くなる……さ」
『スキル導く者が発動しました。
闇が小鳥を狙っています』
「なに……?」
真実の目を使ってもいないのに急に目の前に表示が現れた。
けれど表示に映っているのはステータスではなく見たこともないような文言だった。
闇が小鳥を狙っている。
一体何のことなのか圭には理解できなくて歩みが止まる。
「圭さん?
どうしたんですか?」
すごく嫌な予感がした。
「真実の目……」
圭は振り返って真実の目を使う。
意識する対象は広く人。
人に反応して表示が現れるように真実の目を発動させたのである。
暗くて誰もいないように見える夜道で当然反応するわけがないと思った瞬間だった。
『谷田部忠成
レベル394
総合ランクF
筋力F(無才)
体力F(無才)
速度E(無才)
魔力E(無才)
幸運G(無才)
スキル:無し
才能:無し』
ステータスの表示が現れた。
しかし圭の視界に人の姿は見えない。
「落とし物でもしたんですか?」
「い、いや……」
圭はポケットからスマホを取り出した。
何をしているのかと波瑠が画面を覗き込むと地図アプリを開いている。
そのまま少し歩き出す圭に慌ててついていく。
「圭さんおかしいですよ?
何があったんですか?」
いきなり様子のおかしくなった圭に波瑠も不安そうな顔をしている。
圭は何かを探す風を装ってキョロキョロと周りを見回しながらまた真実の目を発動させる。
するとまた同じステータスの表示が現れるが人の姿は見えない。
確信した。
誰かが姿を隠してストーキングしていると。
「波瑠」
「な、なんですか?」
圭は波瑠の手を掴む。
真剣な眼差しに少しドキリとする。
「俺を信じてついてきてくれるか?」
「え、あ、はい」
圭は波瑠の手を引いて歩き始めた。
向かっているのは波瑠の家がある方向じゃない。
波瑠がちゃんとついて来られるぐらいの速さで歩き続ける。
「ここに入るぞ」
「えっ!?
こ、ここここ、ここって」
圭が波瑠を連れてやってきたのは大きな建物であった。
スイートムーンと看板があるそれはラブホテルであった。
波瑠も子供じゃない。
その建物が何をする目的のものであるのか知っているので一瞬にして顔が真っ赤になる。
しかし圭に手を引かれるままに抵抗することもなくラブホテルに入っていく。
「チッ……なんだよ。
急にソワついたと思ったら盛っただけかよ」
ホテルに入っていく圭と波瑠の姿を見つめる人影が1つ。
やたらと目つきの悪い若い男性は大きくため息を吐き出して懐からタバコを取り出して火をつけた。
圭が急に振り返った時には慌てたものだがどうやら様子を見ているとヤリたくなったのだなと忠成は思った。
波瑠はまだ未成年。
そういうところに連れ込むのにもバレれば問題となる。
だから周りを警戒していたのだろうと自分の中で結論付けていた。
家まで送るのに我慢できなくなってホテルに手を引っ張って連れ込むとは大人しそうな顔をしてやるもんだと笑う。
ただ今は都合が悪かった。
「羨ましいな。
学生の彼女とはな。
……ただそれもあとちょっとだ。
せいぜい楽しんでおけばいい」
どれだけ待てば2人が出てくるか分からない。
若い男女がホテルに入ってすぐ出てくるとは到底思えない。
「今日は帰るか。
あの男もぶっ殺してやるか……でも生きてた方が苦しむかもな」
大きくタバコの煙を吐き出して忠成はタバコを地面に落とす。
足でグリグリと踏んでタバコの火を消す。
「何でもいい。
どうせお別れだ」
ーーーーー
波瑠は混乱していた。
まさかの展開、急転直下、青天の霹靂。
圭にこんな甲斐性があっただなんて意外だったし意外と嫌じゃない自分にも驚いている。
白を基調とした部屋は思っていたよりも落ち着いた雰囲気がある。
ただ可愛い下着なんて付けてないとか、一日中外で狩猟したから汗臭いんじゃないかとかパニックである。
「波瑠、落ち着いて聞いてほしい」
そうだよね!と思った。
いきなりそうした行為に及ぶのも若さがあっていいかもしれないけどやっぱり告白が先だよね。
部屋の真ん中で肩を掴まれて波瑠は顔を真っ赤にしたまま背筋をピンと伸ばした。
波瑠が予想する圭の言葉にどう答えるのかはまだ決めてないけどキッパリとノーというつもりもなかった。
「俺たち……狙われてる」
「ええと……いきなりのことだし少し考え……ってえええ!?」
全く予想外の言葉であったが奇しくも波瑠の返事もあながち的外れなものじゃなかった。
谷田部忠成というやつが何者なのかは知らないが姿を隠してストーキングしてきていることといきなり現れた表情の内容を考えるとおそらく波瑠が狙われていると圭は考えた。
相手がどこまで掴んでいるのかは不明だけどこのまま家に帰すのは危険だと思った。
だからスマホでどこか避難できそうな場所がないか探して近くにあったラブホテルにひとまず入ったのであった。
「……何怒ってんだよ?」
「別に……なんでもないです」
とんでもない勘違いだった。
だけどあの状況では仕方のないことだ。
どうせ圭にそんな甲斐性あるわけなかった。
勝手に勘違いしてしまったのは自分なのだけど妙なイラつきを感じずにはいられない波瑠だった。
お知らせ
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回当小説につきまして16話と17話の間に本来ならもう一話入るところ飛ばして公開してしまっていました。
急ぎ話を差し込んでレベルアップ2をレベルアップ3として新しく本来のレベルアップ2を差し込みました。
全く気づきませんでした。
お読みくだされば幸いです。
これからも小説はのんびりと続きますのでお付きあいください。
あとブクマや評価くださればやる気につながります!
いつもありがとうございます。