レッツレベルアップ3
ただ毒を出すだけなら圭よりも魔力が上な夜滝や小橋でも構わない。
しかし毒出しも圭がやることに意味がある。
「毒を触らないように気をつけたまえよ?」
「は、はい!」
波瑠が毒を塗った矢をクロスボウにセットする。
体勢を低くしてビッグラットからバレないギリギリの距離まで近づく。
狙いは完全でなくてもいい毒を打ち込むことが目的なので当たりさえすればいいのだ。
波瑠がクロスボウを構えて緊張したように息を吐き出す。
手前のビッグラットに狙いを定めて息を止めてクロスボウがブレないようにする。
覚悟を決めてトリガーを引く。
勢いよく矢が飛びだして真っ直ぐにビッグラットに向かっていく。
「よしっ!」
矢がビッグラットに突き刺さってビッグラットが悲鳴を上げる。
すぐに逃げる準備もしていたけれどビッグラットは走って逃げてしまった。
低級のモンスターで臆病な性格なビッグラットはいきなり襲撃されたので逃げるという選択肢を取ったのだろう。
このような逃げやすさもネズミ系があまり狩猟の対象として好まれない要因でもある。
「……逃げてしまいましたね」
圭たちとしては逃げてくれた方がありがたいのだけど圭たちの事情を知らない小橋は残念そうに呟いた。
小橋が聞いている方の事情からすれば危険が及ばない程度に戦いたかった。
「まあ次を探そうか」
時間もクロスボウの矢もたくさんある。
夜滝はのんびりと双眼鏡でまたビッグラットを探し始めた。
その後もビッグラットを見つけてはクロスボウで撃つのだけどどの個体も逃げてしまう。
「数が増えてくると好戦的になるみたいなんですがまだそこまで増えてないみたいですね」
ネズミ系のモンスターは周りに仲間が多いほど強気に出てくる。
しかし今は肉食系のモンスターが減ったばかりでネズミ系のモンスターも増え始めたぐらいの段階にある。
まだまだ消極的であまり接近しない遠距離からの奇襲を仕掛けるとすぐに逃げてしまう。
小橋は若干不満そうであるが圭たちはリスクを冒さずそのままクロスボウでビッグラットを射ることを続けた。
「こんなことに付き合わせて悪いねぇ」
「いえ……まあ、なかなか面白いですよ」
「小橋さんならビッグラットも近づいてサササッと倒せますか?」
「あのぐらいなら問題はないですね」
一度車に戻って持ってきていた昼食を食べる。
小橋は今のところただついてきているだけになっている。
暇といえば暇であるが自分が出なきゃならないような危険がことがないのが1番である。
波瑠に覚醒者の道を諦めさせるという目的は達せられなさそうではあるが死んだら元も子もないので仕方ない側面はどうしてもある。
「……圭、どうだい?」
波瑠が小橋に質問している間に夜滝がコソッと圭に話しかける。
どう、とは圭や波瑠がレベルアップしたかを訪ねている。
「ちょっと待って。
確認してみるから」
圭は真実の目を使って自分のステータスを確認する。
『村雨圭
レベル10
総合ランクG
筋力F(F)(英雄)
体力F(F+)(伝説)
速度F(F)(英雄)
魔力G(一般)
幸運F(神話)
スキル:真実の目、導く者
才能:類い稀な幸運』
「おっ……!」
思わず声が出る。
「その様子なら強くなったみたいだね?」
「うん」
レベルアップしている。
ステータスが上がって総合ランクも1つ上がっている。
総合ランクGということは世の中一般にはF級になるということだ。
さらに未覚醒だったスキルまで覚醒している。
これが確かめたかったことの1つである。
以前のブレイキングゲートの時に波瑠はモンスターは倒していない。
だけどレベルアップして覚醒した。
そこで倒すだけじゃなく共闘すれば経験値のようなものが分けられるのではないかと考えたのだ。
あの時波瑠は圭を助けようと毒棒君をモンスターに刺した。
そのことをきっかけにして波瑠もモンスターを倒すことに貢献したからレベルアップしたのだと推測を立てた。
そのために圭が必死になって毒出しをした。
圭が出した毒を使って波瑠がクロスボウでモンスターは射て、そのうちに毒で倒れた時にどうなるのかを確認するためでもあった。
どこかで波瑠がクロスボウを当てたモンスターが倒れた。
そして予想通りに圭にもモンスターを倒した貢献値が入ったみたいでレベルアップしていた。
つまりこれでパーティーでの狩りや強い人にレベリングを手伝ってもらうことも可能そうであることが分かったのだ。
お昼を食べた後ももう少し狩猟を続けた。
圭が毒役、波瑠がクロスボウの役割だけじゃなくて波瑠や夜滝が魔力を込めて毒を出し、圭や夜滝がクロスボウでビッグラットを射たりした。
一度クロスボウが刺さって気が動転したビッグラットが圭たちの方に向かってくる事件はあったけれど小橋の助けもあってケガすることもなかった。
「残念ながら戦利品は少ないですね」
戦ったビッグラットはほとんど逃げていってしまった。
どこかで毒で倒れているのだろうけどわざわざ探し出して回収もできない。
なので狩猟としての成果はほとんどなかった。
「まあ仕方ないね」
「お金が目的じゃないからね」
「でもお金は欲しいです……」
「また今度だね」
帰りの車での会話。
また今度やるのかと小橋は思うけど今日の感じでは経験としてはまだまだ不足している。
小橋には悪いけれどもう何回かは付き合ってほしいと夜滝と圭は思っていた。