風の始まり2
人がいる方に行く方が安全であると思っていたけれどモンスターも人がいる方に行く。
ゲートから溢れ出したモンスターの多くは人が集まる駅前の方に行った。
人々が再びモンスターの恐怖を思い出すのにふさわしい惨事が起きていた。
「駅の方に向かっていたらモンスターに囲まれていたかもしれません」
駅とは逆の方に逃げたからモンスターが少なくて助かったという側面があった。
住宅街ではあったので助けも駅前と同じく来てくれてもいた。
「さらにたまたま高い等級のヒーラーの方がいてくださったのも運が良かったです」
色々な要因が重なった。
「あとはやっぱり夜滝ねぇの毒棒君だね」
状況を聞く限りモンスターは毒で死んだ。
刺してすぐ効果が現れるとは思えないので振り回している時にかすりでもしたのかなと圭は考えた。
何にしても上手くモンスターを1体相手にして時間を稼いでギリギリのところで助かることができた。
「役に立ったならよかったね」
「しかしまた何もあのタイミングでゲート出てこなくてもいいのに」
圭は深いため息をついた。
塔の中でもゲートのせいで命を失いかけた。
偶然命は助かったけど仕事は失うことになった。
今度もまたゲートのせいで死にかけた。
幸運なんじゃないのかと文句を言いたくなる。
「ゲートの事故にあった者の中では生きているだけ幸運だよ」
「……まあ、そうかもね」
あんな状況でも生き残れただけ幸運である。
そう言われればそうかもしれない。
やりきれないような思いもあるけれどどうしようもない。
目を覚ましたのですぐに帰れるのだけど圭は念のため数日入院することになった。
ヒーラーが治療してくれたし圭自身には後遺症など一切ないのだけれどゲートの中のモンスターにやられたら何があるか分からないからだ。
夜滝や波瑠が代わる代わるお世話に来てくれる。
動けないわけじゃないから特に必要ないのだけどお見舞いに来てくれるのは嬉しい。
「失礼します。
今、お時間大丈夫ですか?」
開けっぱなしだったドアの横をノックして1人の女性が圭の病室を覗き込んだ。
その顔には見覚えがあった。
「あれ……ええと?」
ただどこで会ったのか思い出せない。
「どうやら覚えていてはくださっているようですね。
覚醒者協会から来ました、伊丹薫です」
「あっ!」
思い出した。
塔の中のゲートでヘルカトに殺されかけた後病院であった覚醒者協会の職員である。
伊丹は1人で来ていた。
なんで伊丹が来たのか圭は首を傾げた。
今回の事件もゲート事故と呼ばれるものの1つであって覚醒者協会の管轄であることは間違いない。
けれどもブレイキングゲートは突発的なもので事前に被害を防ぐことなどできない。
通常のゲートと違って覚醒者協会にも責任がなくて事故が起きても責任は負わないのである。
だから圭のところに覚醒者協会が来る必要などないのである。
中々世知辛いが覚醒者協会も慈善団体ではないのでしょうがない。
「それで今日はなんのご用ですか?」
よもや低級覚醒者の圭の心配をしに来たのではないだろう。
「今日は報償金のご報告となどにまいりました」
「報償金、ですか?」
なんだそれと圭は不思議そうな顔をする。
「今回ブレイキングゲートが発生しまして村雨圭さんはそのゲートが出てきたモンスターと戦い一般人を保護しました」
「はぁ……」
確かに波瑠や水野を逃したりしたのだしやったことを抽象的に述べれば結果的には伊丹の言うようには言えないこともない。
「こうした場合一般人の保護に協力してくださった覚醒者に報償金が支払われることになっています」
「そうなんですか」
ただ一般人を守ってくれと言われても自分の命の方が大事であることは間違いない。
なのでゲート事故が起きた時に要請を受けていない覚醒者がモンスターと戦ったりして一般人を守る役割を果たしたなら覚醒者協会から報償金が支払われることになっていた。
圭も一般人である波瑠や水野を守って戦った。
1体だけではあるがモンスターも倒したし立派な報償金の対象となっていた。
「こちらの入院費も覚醒者協会で負担させていただきます。
つきましては報償金の金額など決まりましたらご住所の方に……」
「あ、そういえば住所変わったんです」
「そうなのですか。
今お伺いしてもよろしいですか?」
以前の住所はもちろんあのボロアパートで、今の住所はRSIの寮である。
寮といっても綺麗な部屋を与えられている。
圭が住所を言うと伊丹はそれをメモする。
「出来るだけ早く住所変更の申し出をしていただけると助かります」
「分かりました」
覚醒者協会にお世話になることなんてもうないと思っていたし色々と激動の期間だったので覚醒者協会に住所が変わったことを申し出るのを忘れていた。
必要なところは住所変わったの出したけど普段関わりないと後回しになって記憶から消えてしまう。
「つかぬことをお聞きしますが……」
「なんでしょうか?」
「伊丹さんも覚醒者ですよね?」
「ええ、そうです。
よくお分かりになられましたね」
「強い魔力を感じるので」
真実の目で見たからですとは答えられない。
ごまかすように笑って頭をかく。