俺にだって守れるんだ2
相手はおそらく法的な知識のないことをいいように利用していると水野は見抜いていた。
このまま会社側が抵抗したっていいけれど出るところに出て困るのは会社の方である。
ゲートの危険性が高く現在覚醒者の力が強いために法律的なところでもいつの間にか覚醒者の保護は強くなっている。
覚醒者特別法における違反者の処罰は非常に重たく厳しい。
「で、ですがその……」
「分かりました。
では報告書のコピーをいただきます」
山﨑の顔が完全に引きつっている。
もう言い訳のしようもない。
そもそも覚醒者の法律に精通している水野に覚醒者に関することで勝てる人の方が少ない。
認めるつもりがないのなら時間の無駄である。
報告書のコピーをもらってちゃんとした調査をすることを念押しして圭たちは会社を出る。
「お、お姉さんカッコいいです……!」
相手に対して一歩も引くことがないクールな水野に波瑠は目を輝かせていた。
自分にも水野ぐらい堂々としてられる勇気があればと憧れにも近いような思いを抱いた。
「そう〜?
ただまだ終わりじゃないわよ」
次に向かうのは波瑠の父親が入っていた保険の会社である。
「いやいや、お話は聞いております」
保険会社に着くと細い目をした若い男性が対応に出てきた。
片岡というこの男性は早々と自分たちの非を認めた。
「どうやら事故報告書に不備があったようで。
しかしこちらとしては会社にご提出いただいたもので判断するしかなく……会社が補償金の支払いをしない程度の過失があると主張したのに我々が保険金を支払うことも出来ませんので」
さすが保険会社だと水野は思う。
保険会社が責任を負わないように悪いのは波瑠の父親の会社であるとそれとなく誘導している。
確かにその通りではあるのだけどあの報告書でちゃんと調べもしなかったのかと追及しても佐竹はのらりくらりと明言を避けてかわす。
「……それでは会社が非を認めたりして正しく報告書を提出すれば保険金は下りるのですね?」
「もちろんです」
どうにも信用できない感じがするがこれ以上追及もできない。
ちゃんとした報告書があればちゃんとしてくれるという言質は取ったので保険会社もひとまず終わりとした。
「とりあえずあの調子なら補償金も支払うことになるでしょう。
これで動かないようなら覚醒者協会に持っていきましょう。
そちらの方でなんとかしてくれますから」
すぐに覚醒者協会に持っていってもいいのだけど波瑠の父親がお世話になった会社ということで多少の温情を残してやる。
覚醒者協会に持っていってしまえば調査が入り会社は罰せられることになる。
保険会社の方は微妙なラインだけど上手くやれば保険金を速やかに支払う代わりに処罰は逃れることだろう。
最後に今日のことや今後のことを話し合うためにカフェに寄った。
機嫌が良くなった波瑠はパフェを頼み、水野も疲れたのかケーキを注文していた。
「まあ……待って3日といたしましょうか」
基本的なことは今の報告書に記載してあるのでもっと踏み込んだ内容の調査をすればいい。
補償金の支払いを拒否できるだけの事由があると証明できるならしてみればいいと水野は思う。
波瑠の方も経済的な余裕がない。
卑怯な真似をする連中に優しく時間をくれてやることもない。
「支払うことになったら遅れた分も請求出来るので金額的なことも計算しておきます」
「ありがとうございます、本当に……なんて言ったらいいか」
「うふふ、でもまだ終わりじゃないから最後まで気を抜かないのよ?」
「はい!
村雨さんもありがとうございます!」
「俺はなんもしてないよ」
「そんなことないです。
村雨さんがいなかったら……」
「それは弥生さんが俺を騙すのを踏みとどまれるような良い子だったからだよ」
「村雨さん……ありがとうございます」
波瑠の目がウルウルとしている。
ようやく見えてきた人生の希望は波瑠自身が悪に落ちる手前で踏みとどまれたから手に入れることができたのだと圭は思っている。
「さて、今日は解散にしましょう。
3日後の予定を空けておいてもらえる?」
「はい!」
「俺も……必要?」
「是非お願いします!」
「分かった。
じゃあ空けとくよ」
交渉時には明らかに空気だったのだけど乗りかかった船であるので必要とされるなら最後まで付き合うつもりはあった。
「ここは俺が払うよ」
何もしていないのだしこれぐらいはしなきゃ。
「じゃあ遠慮なく」
「あ、じゃあお願いします」
外に出てみるとまだ明るい。
今日は休みをもらっていた。
帰りに買い物でもしていこうかなと圭は考えていた。
「駅まで送っていくよ」
「ありがとうございます」
波瑠と水野を駅まで送っていく。
緊張するようなことも終わって波瑠の足取りは軽い。
「うっ……!」
全てが上手くいっている。
そう思っていた瞬間だった。
急に耳鳴りがして頭が痛み、圭は顔をしかめた。
見ると波瑠や水野も同じく頭に手をやっていて同じことが起きていることが分かった。
「なんだ……いきなり」
よかった気分が一転して不安が胸に広がり始めた。