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フィールドワークもするのさ3

「それじゃあ、頼めるかい?」


「分かった」


 実験で槍を刺すのは圭だった。

 実はこの時を待ちわびていた。


 このような生きたモンスターを相手にした実験は最初以来なかった。

 そのために自分がさらにレベルアップするのかどうか確認することができなかった。


 だからまたこうして槍の実験でモンスターを倒すことができる時を今か今かと心待ちにしていた。

 真実の目で槍の効果が発動することはすでに分かっている。


 一度やっているし前回よりも緊張は少ない。

 これまでの実験で魔力を持たない一般人や魔力係数の低い人が魔力を意識せずに使っても槍が発動しないことが判明した。


 真実の目の説明によるなら最低でもG級程度の魔力を込めなきゃ毒が出てこないことになる。

 槍に関しても夜滝と色々と調べた。


 槍に込められる魔力によって毒の能力そのものは変わらない。

 魔力によって変化するのは出てくる毒の量でC級覚醒者が扱った時ぐらいが最も毒が多く出ていた。


 B級までいくと実験に協力してくれる覚醒者も少なくあまり試せなかったのだけど毒の量がそれ以上増えることはなかった。

 C級覚醒者でも魔力係数の多少によって毒の量が変化した。

 

 圭の見立てによると槍が反応する最大の魔力がC級なんだろうと思う。

 同じC級でも細かく見ると魔力の等級も違う。


 だからバラツキが出てくる。


「いきます!」


 圭は槍に魔力を込めながら叫ぶイノシシに突き刺す。

 槍は少し重くなった代わりに魔力の伝達率を上げ、先端のどこに魔力が伝わると毒が出るかを調べてより効率化した。


 首元に刺さった槍を抜いて叫ぶイノシシから距離を取る。


「もう1体は私が刺そう」


 2体捕まえたので1体余る。

 それを夜滝が槍で刺す。


 毒が回るまでの間に圭たちに出来ることはない。

 捕獲チームの覚醒者の何人かで周りの捜索に出て圭たちは少し離れて叫ぶイノシシの様子を記録しておく。


 非常にけたたましく鳴いて体をバタつかせている。

 この分では毒が体に回るのも早そうだ。


 観察を続けていると変化が現れ始めた。

 高くて耳障りだった叫ぶイノシシの声が段々と苦しそうなものになって体のバタつきも少し緩くなった。


「……ふむ、予想していた通りのいい結果だね」


 事前に実験した毒の量からどれぐらいで死にそうかということも分かっていた。

 さらには夜滝の努力によって槍の低い魔力での機能を引き上げた。


 そのおかげでG級の魔力でも毒の量がE級の夜滝と変わらなくなった。

 少し少ないが実際にこうして使ってみるとその差がほとんど出ていない。


 夜滝が刺した叫ぶイノシシが死んで間も無く、圭が刺した叫ぶイノシシも死んだ。

 圭が叫ぶイノシシを刺してから記録をしたりしたことの時間を考えても問題となるような時間差はない。


「う……」


 夜滝が満足な結果が出ていることに喜んでいるとその横で密かに圭はふらついていた。

 この感覚、レベルアップしたに違いないとニヤつく。


 1回目の時よりも気持ち悪さはない。

 今回は気持ち悪いからふらついたというより急に体の調子が良くなったような奇妙な感じがしてそれに慣れない感じのためにくらっとした。

 

 毒におかされた死体はいらないのでその場に放置していく。

 捕獲チームが他に叫ぶイノシシを見つけておいてあるのでそちらに移動する。


「真実の目」


 誰にも聞こえないように声に出してスキルを発動させる。

 スキルを使って試しながら他の人のステータスや物の情報を覗き見る中で圭はわざわざ鏡を見なくても自分の情報を見ることができることに気がついた。


『村雨圭

 レベル3

 総合ランクH

 筋力G(英雄)

 体力G(伝説)

 速度G(英雄)

 魔力G(一般)

 幸運F(神話)

 スキル:真実の目、導く者(未覚醒)

 才能:類い稀な幸運(未覚醒)』


「……どうしたんだい?」


 オールGから抜け出した。

 思わず口元が緩む圭に気がついて夜滝が顔を覗き込む。


「え、あ、いや、この槍があれば俺でも戦えそうかなーなんて……」


「うーん、現実的にはまだ難しいかもしれないねぇ」


 ヘッタクソな言い訳である。

 けれど夜滝はそれを疑問に思うことはなく圭の発言に真面目に取り合ってくれる。


「せめてもうちょっと体が不自由になるぐらいがいいんだけど今のままだと毒の回りが遅くて相手が死ぬ前にこちらが死んでしまう。モンスターが一体ならともかく複数いた時に刺して逃げ回るのもリスクが大きいからねぇ」


 低級覚醒者が格上のモンスターを倒すことができるように毒を用いているが実際の戦いでは低級覚醒者が槍を刺した後が問題になる。

 だいぶ毒の回りは早く、毒が効いてくると相手も動きが鈍くなるけれどそれまでの時間が低級覚醒者にとって危険な時間である。


 身体能力が高いタイプならばなんとかなることもあろうが夜滝のように速く長く走れない覚醒者が槍を突き刺したところで毒で死ぬまで時間を稼げない。


「だから圭は覚醒者としてレイドに参加しちゃダメだぞ!」


「わ、分かったよ……」


 最終的な結論が圭が戦いに出てはいけないなんてどうやったら辿り着くのだ。

 助手を止められたくないのだろうと圭は軽く考えた。


「次はあちらですね」


 今度は叫ぶイノシシ3体が見えた。

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