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危機的状況2

「インスタントゲート……」


 塔もゲートも人類にとっては未だに未知のものである。


 地上にも時折ゲートが開きモンスターが飛び出してくることもある。

 塔の中でさえもいきなりゲートが現れることがある。


 ゲートはダンジョンに繋がっていて攻略するとアイテムやアーティファクトなど貴重なものを手に入れられることもある。


 更に謎なことに時としてゲートは塔の中に繋がることもある。


 重恭達がバンから降りて周りを警戒する。

 インスタントゲートは放っておけばモンスターが溢れてきて思わぬ事故に繋がりかねない。


 逆に攻略できる実力や集団であれば喉から手が出るほど攻略したい対象でもある。


 攻略権は最初にゲート発見者にある。

 外でのゲートの出現では一般人がゲートを見つけることもある。


 昔は警察に連絡が行って政府がゲートの権利を持っていることが多かったのだけど今では直接覚醒者のギルドに連絡してギルドが発見したことにすることも多くなっている。

 大型化のギルドにツテがあれば先に連絡するのだが圭はもちろん重恭達にもそのような繋がりはない。


「どうですかー?」


 窓から顔を出して様子を伺う。


「ブレイク前なのか静かですね」


 ブレイクとはモンスターがゲートから出てることを言い、ゲートによってブレイクまで時間があるものも存在している。


 ツテがないなら塔を名目上管理している覚醒者協会に連絡する。

 そうすると調査が入り、自分で攻略しない場合は攻略権が競売にかけられて購入希望者が落札する。


 その金額の一部が発見者に入ってくることになる。

 ツテがなくとも思わぬ儲け物である。


「村雨さーん、発見の記念と証拠残すために写真でも撮りましょうよ」


 棚ぼたな収入確定に警戒心が緩んだ。


「シゲさん後ろ!」


 モンスターがいないからからと言ってブレイク前だとは限らない。

 あるいは今この瞬間にブレイクが始まったのかもしれない。


 反応できたのはE級の重恭だけ。F級の2人は間に合わなかった。


 写真を撮ろうと集まっていたためにゲートから出てきた何かの手に一息に潰されてしまった。


「トラックを出すんだ!」


 E級ぐらいなら車の方が速く長く走れる。

 圭は慌ててトラックをバックさせようとして、思わずモンスターを見てしまった。


 ボーッと見ていたネット動画で紹介されていたのを思い出した。

 出てきたモンスターはヘルカトというものだった。


 塔1階よりもはるか上層階に棲む悪魔。性格は残忍で人をいたぶることを好む。


 目があったヘルカトが笑った。顔を歪めただけだったかも。


 圭がアクセルを思いっきり踏む。タイヤが空転して土を巻き上げゆっくりとバックし始める。


 重恭がトラックの上に飛び乗り、ヘルカトと距離を取る。


「もっと早く!」


「目一杯踏んでますって!」


「くそっ!」


 ヘルカトが動き出す。

 多少の距離は空いたのでこのまま逃げ切れる、そう思ったのも束の間だった。


「うわあああ!」


 加速。ヘルカトはものすごい速さでバックするトラックに追いつき運転席を鷲掴みにした。


「手を離せ!」


 上に乗った重恭が鷲掴みにするヘルカトの手を切りつけるが傷は浅い。

 しかしヘルカトに怒りを覚えさせるには十分だった。


「シゲさーーーーん!」


 運転席から見えたのは無惨にも吹き飛ばされた重恭。

 浅い傷を与えた反撃でヘルカトに殴りつけられた重恭は軽いものかのようにトラックの上から飛んでいった。


 ふわっとトラックの前が浮き上がる。

 ヘルカトが力を入れて持ち上げている。


 タイヤが空転し、絶望が圭を支配し始める。


 トラックが動き出す。前に。


 ヘルカトに引きずられてトラックが前へ前へと動く。

 もはや無駄にアクセルを踏む余裕もなく、状況を受け入れる他なかった。


 向かう先はゲート。

 何がしたいのか圭には分からないがもしかしたらゲートの向こうにはヘルカトの仲間がいて、圭をなぶって遊ぶのかもしれない。


 運転席側のドアは手で塞がれて開かない。

 逃げるなら助手席側のドア。


 どっちにしろ殺されるなら少しでも希望を持って逃げ出してみようかと考えるが体が動かない。


 判断するのがもっと早く、もうちょっと能力でもあれば、あるいはもう少し勇気があって体がこわばっていなければ。


 何か少しでも圭に何かの希望をがあれば結果は変わっていただろうか。

 ヘルカトがトラックを投げた。


 飽きたのか何なのか、ゲートに向かって圭が乗ったトラックを放り投げ、トラックはゲートに吸い込まれてしまった。


「うわああああ!」


 ゲートを抜けた先、まず視界に入ってきたのは遠くに見える地面。

 直後に世界が回転してトラックが転がり落ちる。


 なんとゲートは崖の中腹に現れていた。


 勢いよくゲートを飛び出したトラックは崖にぶつかって転がりながら止まることを知らず落ちていき地面に激突した。


「ゲートのクソ野郎……塔のクソ野郎……」


 ちゃんとシートベルトを締めていた自分とゲート用に少しだけ丈夫に作られたトラックに感謝する。

 地面に当たったがトラックは完全に潰れなかった。


 しかしトラックは逆さになって地面で止まってしまい、シートベルトに吊られて動けない。

 体は痛いがこのままでは何もできない。


 何とかしなきゃと思うが中途半端に吊られていてロックに手が届かない。

 そこで圭はナイフがあったなと思い出した。

 

 手を伸ばしてダッシュボードからナイフを取り出してシートベルトを切る。


「うっ!」


 体を支えていたシートベルトが切れて体が落ちて頭をうちつける。

 逆さになったトラックの窓ガラスはすでにどこかに行ってしまっているのでそこから這い出る。


「ここは……」


 起き上がる元気もなく仰向けになる。


 空が赤い。

 明らかに普通の場所ではない。


 ゲートの中なのは間違いないがダンジョンなのか、塔の中なのか分からない。

 ダンジョンなら崖上のゲートまで戻ることは出来ないので生還は不可能になる。

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