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危機的状況1

 塔。ゲート。


 世界10ヶ所に突如として現れた天を衝く巨大な建造物。

 場所を問わずいきなり現れる不思議な異世界への出入り口。


 中に広がっているのは巨大な空間。

 中にいるのは異世界の生き物。


 人を襲う異形の化け物が巣食う世界が塔やゲートの中にはあった。


 モンスターと呼ばれたそれらはゲートの中から溢れ出し、地球は一時危機に瀕した。

 その時覚醒者と呼ばれる者が現れた。


 圧倒的な力、人知を超えた不思議な能力を持ってモンスターと戦い、平穏を取り戻した。


 モンスターは混乱を引き起こしたが同時に莫大な利益ももたらした。

 死んだモンスターの体はこれまでになかった新たな素材になり、今では取引の中心として巨大な金額が動いている。


 1番大きな影響を及ぼしたのは魔力。


 これは覚醒者が持つエネルギーというだけでなく、死んだモンスターの体の中から取り出される魔石、これにも魔力が含まれていた。

 資源が枯渇寸前となり緩やかな衰退を迎えつつあった人類にとっての希望の光となりえる新たなエネルギーとして魔力が取って代わった。


 人類の反撃が始まり、地上の魔物が狩り尽くされていく。

 そうすると今度は塔やゲートに目が向けられた。


 まずは魔物が溢れてくるゲート。

 魔物を狩り、その魔物の素材で作った防具や武器でさらに身を強化した覚醒者がゲートの中に入っていった。


 最初は異世界が広がっているなど知らずに大きな被害を出した人類であるがゲートの攻略に成功した。

 1つ成功して方法が分かると次に次にゲートを攻略していった。

 

 そうしてモンスターが飛び出してくる多くのゲートが攻略されて閉じられて、世界に一時の平和が戻ってきた。


 人類が次に目を向けたのはモンスターが飛び出してきた塔だった。

 塔の中もゲートと同じく異世界が広がっているのだがゲートとはまた違っていた。


 30年。


 塔が現れてからもうそんな時間が流れていた。

 何のきっかけがあるのかいまだに不明であるが、いきなり覚醒者となる人も現れたりゲートが出現したりしながら新たな展開を迎えた世界も上手く回っていた。


 塔の1階は不干渉階と各国の取り決めでそうなっている。


 不干渉階とは不要な争いを避け、各国の利益のためにどの国にも属さないことが決められた階のことである。


 塔はどこから入っても同じ場所に繋がっている。

 1階のみ各塔それぞれの出入り口があってゲートと呼ばれていて、他の階は1つ固定のゲートがある。


 なので1階はある意味特殊な場所になっている。


「今日の荷物でーす」


 特別配達人。聞こえは良いがやっていることはただのトラック運転手である。

 1階はゲートで各国が繋がっているので1階を通っていくと塔のある他の国に比較的早く行くことができる。


 そこで生まれた職業が特別配達人。

 トラックを運転して各国のゲートに荷物を届ける仕事。


 早ければその日のうちに別の国に素早く荷物を届けられるとあって意外と人気のあるサービスが特別配達である。

 塔に入れるのが覚醒者だけなので当然覚醒者が配達を担う。


 トラックは完成された普通のものではゲートを通れなかったのでゲートの中の素材を使って作り、パーツを中に持ち込んで組み立てたものである。

 魔力で動く最新式のもので操縦感はかなり良い。


 覚醒者じゃなきゃいけないので給料はそこそこなのだが超がつく不人気職で働き手は少ない。


 それもそのはずで覚醒者なら塔のモンスターを狩った方がはるかに儲かるからだ。

 なんなら運転手よりもトラックの護衛の方がお金を貰えている。


 覚醒者になったのに何が悲しくてトラック運転手をして荷物を運ばなきゃならないのかとみんな思うのだ。


「これで今日の分は終わり?」


「そうですね、今日はあと帰るだけです」


 護衛のリーダーでE級覚醒者の佐藤重恭が荷運びを終えて声をかけてきた。

 中年の覚醒者で人が良く、塔を攻略するよりも危険度が低いので荷運びの護衛をやっている。


 本当は護衛だけで荷物まで運ぶのは業務ではないのだが早く終われば重恭達にとってもよいのでいつしか手伝ってくれるようになった。


 荷物受け取りのサインをもらい、村雨圭はトラックの運転席に乗り込んだ。


 重恭達はバンに乗り込みトラックを先導して走り出す。


 配達の都合で今日は日本ゲートからやや遠い。

 あとは帰るだけとはいえ気は抜けない。


 1番近い道は森の中を突っ切っていくものになる。

 圭1人なら多少時間が伸びても森を迂回していくのだが先導する重恭達は早く帰りたいのか躊躇いなく森の中に進んでいく。


 1階の塔の中には不思議と昼夜がある。

 大きく塔の中を3つに分けて現実の世界とリンクしていて圭のいる場所はだいたいアジア圏の時間と近い。


 塔の中が夕方で薄暗くなりつつあるということは日本も大体近い時間であるということなのだ。


「止まれ!」


 重恭達のバンが止まり、圭も慌ててブレーキを踏む。


 日本ゲートの方へと曲がった時だった。

 道の先に青い光が見えて重恭は停車を指示した。


 何の光なのかは塔にいる者ならすぐに分かる。

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