死と踊る
日曜日に頑張って書くのですが、寝ぼけているので怪しい文章で後で見直して投稿してます。
血に
後は
「『我、望む、放たれたる矢に風の祝福を』」
早口に呪文を唱えつつ、
肩に掛けた弓を左手で握り直し、嵌めたばかりの右手で矢羽を摘まみ、弦にあてがう……が、
――引けないッ!
肩を嵌めたばかりの右腕は痺れ、どうしても弓を引く事が出来ない!
そもそも殆ど感覚も無く、長時間正座した時の足の痺れより尚強烈に、右腕はビリビリとした痛みだけを脳に送り込んで来る。
「グッ! ガッ!」
悲鳴を押し込める様に噛み締めた。
噛んだのはそれだけじゃない、ぷるぷると震える右手に代わり、矢羽を前歯で噛み挟む。
弓を横に構え、そのまま後ろに仰け反る様に、ひっくり返って弓を引……
「――シッ!」
視界には振りかぶられた剣、聞こえたのはローグ隊長の掛け声。
あっ? と驚き、
魔法の加速もそこそこに、矢は飛び出した瞬間に迫り来る剣へと衝突した。
パリィンと甲高い金属の破裂音。
大道芸みたいな構えから中途半端な魔法。それでも半ばから砕け散ったのは剣だった。
俺は矢を放った勢いのままに後ろにグルンと後転、綺麗に一回転した後は追撃に備え前を向き直す。
――ガッ!
しかし、向き直った視界一杯に迫っていたのは革のブーツ。
――蹴っ飛ばされた。
剣を折られたにも関わらず、一切の躊躇も無しに距離を詰めたローグ隊長が、サッカーボール宜しく俺の顔面を蹴っ飛ばしたのだ。
「グッ! ギッ!」
変な鳴き声を上げながら、俺は更に後ろに転がる。
蹴られたのが額で良かった。もし顎や鼻、いや額以外のどこでも一発で気絶、下手すりゃ死んでいてもおかしく無かったと思う。
とにかく脱出だと俺は早口で捲し立てる様に呪文を唱える。
「『我、望む、足運ぶ先に風の祝』 グッ!」
また蹴られた! 今度は顔を庇ったガードの上から。それでも俺の華奢な体に鍛えられた騎士の蹴り、耐えきれるハズも無く後ろに吹き飛ばされる。
とにかく早い! 衛兵に紛れるため、重装鎧を脱いでいるのが俺にとって悪い方に働いている。
どうする? 魔法は唱える暇も無い、いや? 簡単な魔法ならいけるか? 相手は魔法の事は何も知らない、そこに付け込めないか?
もしも魔法の特性を知っていれば蹴っ飛ばさずに俺を抑え込む筈だ。それだけで魔法は健康値で霧散する。だがローグは蹴っ飛ばして距離を取り、魔法を唱える隙を狙って一撃離脱戦法をとっている。
正体不明の相手だからこそ、組み合う事を避けているのだ。
「『我、望む、この手より放たれたる光珠達よ』」
選んだのは光の魔法、威力はゼロ、ふわふわとした光球を放つだけ。
魔力も殆ど注がず、制御も適当の超早口。
だがそれだけで、ローグ隊長は踏み出すことが出来なくなった。
光の魔法は完全に制御を手放しても、注いだ魔力の分だけ暫く漂う。
手品のタネが割れるまでに、次の呪文を決めなくてはならない。
だが移動の魔法は駄目だ。距離を取りたいのは山々だが、そもそも制御が難しいのだ。
蹴りのプレッシャーに怯え、近づかれただけで減衰する魔力に制御を乱される状況では、何処へ吹っ飛ぶか解らない。
じゃあ、弓で迎撃か? それも最早厳しい。
何度となく転がされ、その度、弓は背中で変な音を鳴らしていた。ひしゃげてしまったに違いない。
構えてみたけど使えませんでしたじゃ、そのまま死を待つだけになる。
簡単で、怯ませられて、聴力を奪う。轟音の魔法が良いか?
魔法決定までの一瞬の間。その一瞬が正に命取りとなった。
「なっ!?「『我、望む、この手より放たれたる風の轟音よ』」
悩む俺に対し、ローグ隊長が光球に躊躇したのは一瞬。その一瞬後には覚悟を決め、顔を覆い、光球に突っ込んで来たのだ。
当然光球は瞬く間に健康値で掻き消える。
近い! 折角唱えた魔法すら掻き消える距離!
俺は咄嗟に轟音の魔法を横へ投げ飛ばし、慌てて顔をガードする。
「ぐぶっ!」
そのガードを外し、蹴られたのは腹! 意識が飛ばなかったのが奇跡。胃液と唾液が混じった物が口から飛び散り、ぐるんと視界が空転する。
白目を剥いて一瞬、意識を失った。だが腹を蹴られ前かがみに倒れ込んだお陰と言うべきか? 石畳にゴツンと額を打ち付けた痛みで、ギリギリ意識を完全に手放さずに済んだ。
――バァァァン!
その後、気付け覚ましとしては強烈過ぎる轟音。横に投げ出した魔法がどこかで爆発したのだ。
強かに頭を打ち付け、爆音が鼓膜を揺らし、グラグラと視界が揺れる。
遠くなる意識と麻痺した耳に、無邪気な子供の笑い声が聞こえてきた。
それはずっとずっと、遠いところから響いてくるようだった。
「――槍のお兄さん、馬の乗り方を教えてよ」
「いいぞー、でもあんまり大声出して脅かしちゃ駄目だぞ」
「大丈夫だよー」
ライル少年の声だ。相手はヤッガランさんだろうか? ホワイトアウトした意識の中で二人の声が聞こえ、その姿すら脳裏に浮かんでくる。
お世辞にも駿馬とは言えないずんぐりした馬に、若き日のヤッガランさんが跨がっている。
……ああ、また死が呼ぶ声か。それに馬の嘶く声、コレは何時の記憶だ?
馬の嘶きは狂った様で、ライル少年はヤッガランさんに逆らうように大声を上げたに違いなかった。
「あ、うぅ『我、望む、我が身に風の祝福を』」
ふら付く頭で魔法を唱えた。足に掛けるべき移動の魔法を体に掛ける魔法だ。
足ではなく全身、当然健康値もゴリゴリ減るし、移動量も少なく、おまけに何処へ吹っ飛ぶか解らない。
全くのゴミ魔法で使い道なんて全くない。
ただ蹲った姿勢から、どこでも良いから素早く吹っ飛ぶにはこれしか無かった。
「グガッ!」
ゴムで跳ねるおもちゃみたいに高く吹っ飛んだ、巨大な鉄球が全身を強打したみたいな衝撃だった。
気が遠くなりながら思う、なんで俺はここまでして移動したかったんだ?
ああ、そうか、馬が暴れたら俺に突っ込んでくるに違いないもんな。
ははっ、もう記憶と現実の区別も付かなくなってるのか。
宙を舞いながら、虚しい思考が駆け巡る。
その後、俺は無情にも地面に叩き付けられた。
グチャリと体が潰れる音がして、俺は意識を失った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「オイ! 大丈夫か? 嬢ちゃん」
誰かが呼ぶ声がする。
「田中?」
「タナカ? いや俺は衛兵だが、どうした何が有った?」
気絶していたのはホンの数分か? それでも俺を殺すには十分な時間だったはず、衛兵が戻る前にアイツが俺を殺すなんて訳ない筈だ。
「うっ」
「無理だ、立つんじゃない! 全身傷だらけじゃないか! 骨だって折れているかもしれない」
衛兵の制止を振り切って立ち上がり、霞む目をこする。
目に飛び込んで来たのは、倒れる馬。そしてその下敷きになって呻くローグだった。
「えっ? は???? あっ!」
訳も解らず混乱するが、俺はこの馬に見覚えが有った。いや正確にはその胸に突き刺さった槍に見覚えがあった。
これはゲイル広場で俺が槍を突き刺した馬、ローグが乗ってた馬だ。
馬の出血もおびただしく、長くないとみて捨てられたんじゃないだろうか?
その馬が俺に突っ込んで来てた?
「はぁ! はぁ!」
「オイ、無茶すんな!」
制止を無視して、這うように近づけば、倒れた馬の下敷きになっているローグ隊長が居た。
意識は朦朧としている様で、呻き声を上げるだけ。
死に掛けの馬が最期に暴走して俺を踏みつぶしに来た? それとも爆音に驚いて突っ込んで来たのか?
そんで俺を殺すどころか、最期の足掻きでご主人様を蹴り飛ばしちまった訳か?
だとすると、俺が幻聴だと思った馬の嘶きは本当だった? いや俺は爆音に耳をやられていたんだぞ?
爆音の魔法は一瞬だが聴力を奪う。だからこそローグ程の実力者が無様にも背後から馬に轢かれたのだ。俺に鳴き声が聞こえるハズが無い。
ライル少年の記憶が助けてくれた。ってのは流石におセンチが過ぎるか?
確かにあの時、嫌な予感はした。そして『偶然』に殺されるぐらいなら、自殺した方がマシだと常々思っていたからこそ、あんな極限状態で自殺紛いの回避が出来た。
そんな所だろうか?
結局は嫌な予感程度でも、全力で回避行動をとれる俺とそれ以外の差。
もっと早く田中に俺の事を打ち明けていれば……いや、俺を守るために頑張る様じゃ、結局は何時か死んだに違いない。
やっぱり死んでも良い人以外、俺の身近に居させちゃいけないんだな……
そんな悲しい気持ちを抱きながらも、俺は笑っていた。
「オイ! 何してる、オイ!」
「何って?」
俺はグイッと馬の胸から槍を引き抜く。
「殺すに決まってる!」
俺はブスリとローグ隊長の喉に槍を突き刺した。
ただそれだけで、あのローグ隊長は死んだ。アッサリと。
――殺った!
殺せる! やっぱり俺の『偶然』は俺の味方だけじゃなく、俺の殺したい奴や、俺を殺そうとする奴だって殺してくれる。
今までだって色々な奴が死んで行ったが、こうまでハッキリ俺に敵意ある人間が、俺の『偶然』に巻き込まれ死んだケースは無かった。
近くに居たら手あたり次第、敵も味方も関係ない。
だったら俺は踊ろう。
王国と帝国の最前線で死の舞踊を舞い、等しく全てを殺して回ろう。
「フフッ、ハハハッ」
「ホントに大丈夫かよ、お嬢ちゃん」
壊れた様に笑う俺に、衛兵が慌てて近づくが。
「近寄らないで!」
「ヒッ!」
強い調子で拒絶すれば、腰が引けた様子の衛兵は怯えた様に引っ込んだ。
俺の体がボロボロだなんて百も承知。回復魔法で治さないと、一生モノの怪我になる。
「『我、望む、命の輝きと生の息吹よ、傷付く体を癒し給え』」
「な、何だ、この光は?」
柔らかい光が俺を包む、……が。 徐々に俺の意識は遠ざかって行く。
「ッ! ギッ、ぐぅぅぅ」
必死に食いしばり、意識を保つ。
そう言えば、自己回復の魔法だって体力値を削る。そんな当たり前の事を忘れていた。
何とか体が癒えるまで意識を保つも、ゆっくりと、でも確実に意識が遠ざかるのが解ってしまう。
意識が途絶えるまでの僅かな時間、俺は思わず自分の秘宝に手を当て健康値を測る。
健康値:4
魔力値:151
低っ! 引き攣った笑いを浮かべると同時、俺は意識を手放した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こ、ここは?」
気が付くと、俺は薄暗い馬車の中で目を覚ました。
「ネルダリアに帰る馬車の中です、ユマ姫様」
「シノニムさん!」
プラチナの髪もくすんで見える、疲れた様子のシノニムさんが教えてくれた。
「俺は何日、気を失って?」
気絶には慣れている、この感じ、一日や二日じゃないだろう。
「三日です、グプロス卿は死に、スフィールは暫定的にオーズド様が治め、他の四つの貴族家から選んで引き渡すそうです」
「そう、ですか……」
「『俺』なんて言い方するんですね……お姫様ですのに」
「あ! いや、いえ、荒っぽい話し方がうつってしまったみたいです」
しまった、迂闊だった。いや、今更か?
「はぁ……暴れ過ぎですよ! まさか仇討ちにグプロス卿を殺すなんて、こっちは大騒ぎだったんですから」
言う事はもっとも、シノニムさんの愚痴やらお説教が続くが間違ってたと謝る気もしない。
目を逸らせば壁には鏡が掛かっていた、人間にとっては結構な高級品のハズだった。
俺は馬鹿面を下げて寝ていたに違いない、いまだに半ば寝ぼけた顔に、涎の跡までハッキリ見えた。
そう言えば体液コンプリート、腹も蹴っ飛ばされて胃液まで出したし、尿以外網羅してしまったのかと鬱になる。
……いや。
「あの、シノニムさん」
「なんです? もう大丈夫ですよ、護衛も信頼できる者達で姫様の安全はネルダリアが保証します」
「いえ、あの汚れた服が替えられているのは良いのですが、下着まで取り換えられている様ですが」
「あー、いえ、下着も汚れていましたので、失礼ながらこのシノニム、交換させて頂きました」
フイと逸らされる視線が辛い。
どうやら俺は、知らずに体液コンプリートしてしまったみたいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~二日前~
馬を飛ばしに飛ばし、ようやくシノニムはスフィールに辿り着いた。
ユマ姫から丸一日、遅れての事だった。
「冗談でしょう?」
「いや、冗談だったらなんぼか良かったんですが」
辿り着いたユマ姫はグプロス卿を槍で刺殺した上、あの破戒騎士団相手に大立ち回り。
オーズドが『我が領の騎士の数倍強い』と悔しそうに話した荒くれ者を殺して回ったと言うのだからシノニムに信じられる訳が無かった。
だが、破戒騎士団の死体が転がる広場を見ては騎士団の存在は疑い様もない。シノニムは歯噛みする。
今回の蜂起自体。破戒騎士団の留守を狙ってのモノだったのだが、彼らはとっくにスフィールへ帰還していたようだった。
ではどうやってと首を捻るが、間違い無く姫の仕業と衛兵達は口を揃える。
「信じられませんよね? 本当なんですよ、今でもおっかないですよホントはね」
話すのは姫が気絶した時に側にいた衛兵だ。彼は一部始終を見ていたらしい。
「うちの奴らはゼスリード平原のショックで引き籠っちまって、蜂起に誘われても乗らず、広場で馬車がひっくり返ろうが無視する始末。でもアレだってあのちっちゃい嬢ちゃんがやったに違いねぇんだ、そんで這い出したグプロス卿を一突きよ」
何が有っても、どんな音がしても門の死守に徹するとしていた衛兵の中、彼だけは大きな音に釣られ、見に行ったらしいのだ。
「その後、破戒騎士団が出て来てブルって俺は引っ込んじまったんだけどよ、轟音と閃光がまるで雷みたいな威力の魔法よ、囲みを抜けてから俺達と共に放った弓もまたドえらい威力だったぜ」
一番よく見ていた男でこれ、魔法の詳細は
ある衛兵は語る。
「うーん? 魔法? 使ってたんですかね? 凄い速い矢が飛んだみたいですけど。あれって最近帝国で使われてる謎の魔道具って奴じゃないですか? 甲高い弾ける様な音もしてましたし」
現に頭が吹っ飛ばされた破戒騎士団の死体が幾つも、しかしそれが大魔法の力かと言えば何となく違う気もする。それは明らかに物理的な破壊であった。
辺り一面を火炎に包んだり、風が敵を切り刻んだりでは無かったのかと首を傾げざるを得ない。
雷を落とす大魔法も、実際に見た者は居ないのだった。
聞くべきその張本人はスーニカと言う宿屋でグースカ寝ている。
「ごめんなさい、お姫様だって聞いてて、恐れ多くてお着替えが用意出来ず……」
「いえ、私がやります、ご心配なく」
宿の女将は恐縮していたが嫌悪は無い様だった、シノニムは街で手に入れた着替えを手にベッドに向かう。
「!! 血
その姿の割に、外傷は殆ど無い、指先に
しかし打って変わって服は酷い、ほつれて千切れて、血と汗を張った桶に漬けたかの様。
「臭い、あ……」
――漏らしてる。
どうやら下着も買いに行かなくてはならないらしかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ 一日前 ~(シノニム到着の翌日)
「え? タナカが居たのですか?」
「ええ、偉丈夫な大男、ユマ姫と共にスフィール城を訪れた者に間違いありません」
見間違いではあり得ない、滅多にない程の大男なのだ。そうでなくても執事と言う職業は人を見るプロである。
「私が耄碌して居なければ、間違いなくタナカ本人でしょう。体の大きい男は何人も見て来ましたが、隙の無さまで身につけているのはあの方だけです」
「でも、タナカはゼスリード平原で死んでいます、死体も確認しました」
「死体を確認したあなたと、生きて話をした私。どちらが正しいと思いますかな?」
「…………」
確かに死体は顔が潰れていたので偽造は出来る、でもあの状況、あの短時間であのサイズの死体を用意した? どうやって?
グルグルと思考を巡らすが、シノニムには答えが出なかった。
「でも良かった、ユマ姫様にとって彼は、それはもう、大切な人だったのです。無事を知れば元気になるに違いありません」
「いえ……」
「?」
「それが、彼は帝国情報部の奴らを追ってスフィールを出たのです、我々もグプロス卿の死を確認した後、すぐに情報部を追いました……ですが」
「見失った?」
「いえ、必死の探索の結果。情報部の使っていた馬車を発見するに至りました、ですが……」
「あなたにしては歯切れが悪いですね、どうしたのです?」
「馬車の周囲はグチャグチャの死体だらけだったのです、タナカが其処に居たのか。死んだのか逃げたのか、其れすらも解りませんでした」
「なっ!?」
「発見したのはゼスリード平原、恐らくは例の魔獣がまだ居たのでは無いかと」
「なんでそんな所に? 国境はあそこ以外にも……」
「どうやらタナカは彼らの行く先が解っていたようです、彼がゼスリード平原に向かった形跡もありました」
「何が……あったと言うの?」
あの日、ゼスリード平原で何が起きたのか。シノニムにも執事にも、想像もつかなかった。
そもそも、タナカは本当に生きていたのか? 幽霊の一種ではなかったのか? そんな風にも思えてしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ 今朝 ~ (馬車で旅立ちの日)
ユマ姫はまだ目を覚まさなかったが、蜂の巣を突いた様な騒ぎで混沌とするスフィールに姫を置くのは危険過ぎるとシノニムは判断した。
寝たままではあるが、馬車を手配してネルダリアへと護送する事に決める。
シノニムの心配を余所に、スフィールを脱して間もなく、ユマ姫は目を覚ます。だが……
……結局、シノニムはタナカの話をユマ姫に打ち明ける事は出来なかった。