成人の儀
アニメキャラみたいなピンク髪 変異事件の後は何事もなく冬も終わり、春が来た。
春は妹の生誕の儀だ、姉に演劇じゃないとダメと言ってしまったので、長老は今更、「妹は純エルフだから朗読でも良いよ」と言える筈もなく儀劇となった。
ま、そんな理由がなくともお姉ちゃんに憧れたセレナは劇をやる気満々だったのだから頼もしい。
となればお姉ちゃんが一肌脱ぐしかあるまいと、セレナが演じる母パルメの姉にあたるパメラの役をこなすつもりでいた。
姉妹いっしょに花冠を編む光景は、もう開幕から観客が萌え死するに違いないと期待に胸を膨らませていたのだが……髪がピンクになってしまったので丁度良いとばかり、今回も俺は生みの親である赤髪のゼナ役となった。
ただ、パルメ視点で物語を編纂するならゼナはほんのチョイ役だ、でっかい蛇と戦うときになんか居たかな? 程度。絡みはラストシーンぐらいで、それまではゼナとエリプス王の仲が進展していく様をヤキモキしながら「嗚呼どうして私じゃダメなの!」と言いながら一人でポエムを読むシーンが多い。
ちなみにポエムは母パルメが日記に書いた当時の貴重な資料を公開してくれた。正直妹様が困ってる様を初めて見た、可愛かったので良しとしよう。
今回、なんと奇跡的にスキャンダルを乗り切ったゼスター氏のエリプス王の再演が期待される向きも有ったのだが、当然お断りして、マーロゥ少年のリベンジの機会となった。
いや、もうマーロゥ少年は少年じゃない、十歳となり既に成人の儀をこなしたのでマーロゥ氏と言うのが正しい、でも本人は「これをやり切らないと大人になったって両親に報告できない」と凄い力の入れようだった。
そんなこんなで終わってみれば、パルメ視点で当時の
やっぱり家の妹が一番かわいいのだ。
その後は、夏は別荘、秋は収穫、冬は弓とか楽器のお稽古と言うサイクルで次々と季節が巡って行った。いやお稽古は他のシーズンもやってるけど、冬は他に何も無いのでお稽古が長いと言うだけなのだが、俺にとっては生き死にに関わるので歯を食いしばって全力で取り組んでいる。唯一の問題は宮殿の図書館の本を読み切ったぐらいだ。
あとはちょいちょいと公式行事への顔見せイベントが挟まったり、なんだかんだチーズは結構普及しだしていて、刻印された俺の横顔のマークがブランド化している。飲み屋のつまみの定番になったみたい。
そして、あっと言う間に時は流れ11歳の冬が来た。
健康値:17
魔力値:213
健康値は微妙な所だが、魔力値213はエルフとしてもかなり多い。そしてこの冬、俺は成人の儀に挑戦する。
「さぁ! 行きましょうお姉様!」
そう、セレナも一緒……一緒なのだ!
セレナだってもう八歳。成人の儀に行ける年齢だ。普通に考えたら俺がセレナの面倒を見るべきだが、おそらく両親の狙いはセレナが俺の面倒を見る事だろう。
そのために俺の成人の儀をギリギリまで遅らせたと見る。
ってか、今朝見送りの時に割とハッキリ言われた、「セレナとはぐれるなよ」……と。お姉ちゃんの信頼感ゼロ。
そんなセレナの健康値、魔力値は? ジャーン!
健康値:22
魔力値:2126
は? 意味が解らん。なんだよ2126って。
俺は本を相当読んだ、常識も学んだ。前世で統計の基本だって何となく知ってる。
――で、この2126って数字。控えめに言っても化け物である。
歴史に残るような大魔法使いでも魔力値を1000の大台に乗せるかどうか。
2000超えと言うことはその倍、しかもセレナはまだ八歳である。
筋力みたいなモンで、魔力だって鍛えれば伸びるし、専門の教育を受けている王族の魔力は軒並み高レベルになる。
それにしたって十倍。重ねて言うが、俺の魔力だって多い方である。十倍と言うのは個性の枠に収まるレベルじゃ無い。
この異常さを例えるならば、握力400kgの人間が居ました位の衝撃だ。
……そこでふと思った、人間じゃなければ?
たとえば人間の祖先は猿だと言うが、ゴリラやチンパンジーの握力だったらどうだろう? 400kg、不自然ではないんじゃなかろうか? ひょっとしたら妹は魔法が得意と言われるエルフの更に先祖返り的な存在?
「お姉ちゃん? どうしたの?」
いけないいけない、セレナを不安にさせてしまった、全然成長していないな俺。
「何でもないのよ、セレナがなんであろうと、私はセレナの味方だからね!」
「うん、わたしも! わたしも、お姉ちゃんがどうなろうとセレナはお姉ちゃんの味方だから」
いやー可愛い。ゴリラどころか天使じゃないか? 天使だとすれば魔力が高いのも納得、オールオッケーである。
じゃあ、行きますかと魔力を込めて言葉を紡ぐ。
「よーし、じゃ、行こっか!『我、望む、足運ぶ先に風の祝福を』」
これは移動に風の補助を乗せる呪文。矢に風の祝福を乗せてスピードアップさせたのを自分に掛ける訳だ。
一歩間違うと危ない魔法だが上手く使えばお兄様みたいに木を蹴っ飛ばしながらピンポン玉みたいな高速立体機動が出来る、
まぁそこまで頑張らなくても今回は魔法をかけた上でちょっと急げばだいじょ……
「ねえ、お姉ちゃん? お空飛んじゃダメ?」
え? っと思わず妹を見てしまう。
そう、妹は膨大な魔力量に物を言わせて飛べる。それはもうギュンギュン飛べちゃう。でも、俺はそんな魔力の使い方をすればすぐに燃料切れで墜落してしまう。うーんお姉ちゃんには無理かなー?
「大丈夫、魔力の制御、すっごく練習したから、お姉ちゃんと一緒に飛べるよ!」
セレナは嘘も誇張も言わない、つまり俺と飛ぶために必死に練習したのだろう、となればもう断ると言う選択肢は無い。大丈夫だ、万が一墜落してもセレナと不時着するぐらいの魔法は使える、多分。
しかしなんでだろう? 前世でバターを塗った面から緊急着陸を決め、絨毯をべたべたにしたトースト君の姿が思い出されてしまうのは。良くない、良くないよ! フラグは断ち切る物。
「解ったわ、じゃあ私はどうすれば良いのかしら?」
「えと、セレナにギュっーっとしがみついて」
身長が20cmも低い妹にしがみつく図、どう見えるだろうか? まぁとっくに王都を抜け、人気のない場所だからどうでも良いのだが。
「じゃあいっくよー『我、望む、疾く我が身を風に運ばん、指差す先に風の奔流を』」
呪文が終わるや否やギュンっと加速を感じ、気が付くと木々が小さく見えるまでの高度に上っていた、しがみつく手にじっとりと汗が滲む。空気抵抗でギャーってなる覚悟をしていたが風の加護なのか抵抗が一切無い、それはそれで怖い。
「うーんあっちの方かな? どう思う? お姉ちゃん?」
「北の方角だから合ってると思うわ」
「よっし、じゃあしゅっぱーつ」
魔力の流れで何となく方角は解るし、それを利用した魔導コンパスも存在するのだが、魔力溜まりとかで狂う事もまま有るのだ。太陽の位置で方角を判断するのは数少ない俺の役目だろう。
セレナが北を指差すと凄い勢いで加速し、同時に景色が途轍もない速度で流れ落ちて行く。驚いた事に思ったより快適だ、目が慣れてくれば流れゆく景色を見る余裕まで有る。冬の景色なんて、と思っていたが空から見ると美しい。
冬もそろそろ終わりになる、南の方から春が迫っているのが解る。妹の溶接バーナーみたいな魔法でギャーギャー言っていたのからもう六年も経っているのだ、セレナも成長している。俺たちは古代のエルフの都へと一路、北へ飛んで行った。
……成人の儀がなぜ大人になってからなのか。
ただのお使いで成人の儀なんて訳は無かったのだ、調べるとエルフの祠って奴は、暗い洞窟の奥の奥にあるらしい。
俺たちは早くもその洞窟の前まで来ていた。
文字通り飛んできたのだ、それこそあっと言う間だった。それに魔導コンパスは古代の王都を示す様に出来ているのだから迷う要素すらゼロなのだ。
キッチリと王都を指し示すコンパス。謎システム過ぎる……
いや……魔力の中心に王都を建てたと考えた方が自然か? そんな事を考え込む俺にセレナが元気に声を掛ける。
「でっかいね、お姉ちゃん」
「そうね、大きいわね」
洞窟と言うが入り口は神殿の様ですらある。二体の巨大なエルフ像が洞窟の脇を守るように仁王立ちしている様は圧巻だ。
「動きだしたりしないわよね?」
「ふふっ動いてもセレナがやっつけてあげます!」
妹は冗談だと思ったようだが、巨像を見るとゲーム脳が刺激される。歴史を感じる建造物に思わず、「これ近づくと動き出す奴だよな?」と思ってしまった。ってかセレナだったらコレが動き出しても普通に倒しそうで怖い。
「頼もしいわ! 頼りにしてるからね、セレナ」
「うん!」
手を取って二人で歩き出す、真っ暗な洞窟に足を踏み入れた。
「『我、望む、我が身に光の輝きを』」
暗くなってきたので光の魔法を使う、自分の体がうっすらと発光する魔法だ。ちなみに妹は光の弾を手の上に浮かして転がしている、俺は万が一を考え、片手が塞がるのを嫌った格好だ。
「光ってるお姉様綺麗……」
お姉様頂きました! 二人の時にお姉様呼びは結構レアだ。溢れ出す神々しさに感じ入ったご様子、実際に光ってるんだけど。
「もう、馬鹿な事言わないの! 行きましょう」
行くんだぜー
洞窟の中は魔獣だらけ……って程も無かったが、でっかいネズミがそこら中にいて怖かったり。でも、それをひたすら魔法で殺していくセレナの方が怖かった。
「『我、望む、この手より放たれたる風の刃を』」
呪文は同じ呪文を繰り返していると省略できるらしく……
「『我、望む、放たれたる刃を』」
「『我、望む、刃を』」
どんどん短くなる呪文でサクサク倒していく、ってかここまでお空を飛んで来てるんだよ? 妹様の魔力は無限か?
「あ、『我、望む、この手より放たれたる、強く大きく熱く疾い、炎と風の鋭き刃よ』」
セレナが本気っぽい呪文を唱えるとギュンっと勢い良く逆巻く炎の刃がカッ飛んで行く。
――ザクザクザク!
ブモオォォォォォォ!!
ひどい音がして魔法が向かった先を見てみると……
「
左右に分割された巨大な猪の死体が出来上がっていた。
え? あんなの居るの? 俺一人で来てたら詰みだったんじゃない?
今でもハッキリとコイツに追いかけられた事はトラウマだ。と言うか誰だってこんなのに追いかけられたらトラウマだろう。
魔獣だらけの森で過ごし、並の魔獣では動じないエルフであっても、前世で言う「熊が出た!」ぐらいのインパクトを与える力がこの魔獣には有る。
それを一撃で真っ二つにするセレナの魔法がいかに常識を超えているかって話。
流石のセレナもこの魔獣には驚いた様子で、
「最近この辺り魔獣が多いから注意しなさいって、母様も父様も言ってたけど、凄いのが出たね……」
「ううっ、こんなのがいっぱい居るなら、姉さんだけではとっても無理だわ」
「大丈夫! セレナが居るから!」
「ありがとう、セレナ」
セレナの頭をなでる、もう完全におんぶに抱っこだ。
ってか、コレも俺の運の悪さの所為かな? そうだよな、だってこんな魔獣が闊歩してたら十二歳以下の子供が幾ら束になっても全滅でしょ。王族以外は友達とグループで儀式に臨むって言うけど、子供が何人居ても無理だよコレ。
更に進む、洞窟と言っても岸壁をくりぬいて人が作ったものなので、石畳に壁もブロックが詰まれていて洞窟って言うよりもダンジョンと言うべき内装だ。
宝箱とか探したくなってしまうが、お宝は祠に有る宝玉だ。って言っても価値のある物では無く、祠に行きましたよって証の意味しかないビー玉みたいなモノなんだけどね。
俺もネズミぐらいはと魔法を使って駆除していく、たまに狸みたいのも出るので弓も使って行く、ってか狸でも前世の猪ぐらいのサイズが有るのな。
そんな俺を「うふふ」と嬉しそうに見ててくれる妹可愛い! 抱きしめたい!
「姉様頑張って!」
応援された! 頑張らないと! でも洞窟に入ってからなんとなく気持ちが悪い、湿度とかなのかな? 逆にセレナは興奮に頬を染めて元気いっぱいと言う感じ。
そうこう言ってる内に、祠の有る広間までたどり着いた、流石にしんどい道のりだった。
「あ、もう祠だね」
妹様は暴れ足りない模様、普段より三割増しで元気だ。
俺はただただ荘厳な威容に圧倒されてしまう。岩壁をくりぬいてこれだけの空間と建物を作ったと言うだけで物凄い。
「うわっ、凄いわ! 歴史を感じる建造物ね」
「そうだね、あ、もっとよく見てみよう!『我、望む、この手より放たれたる光の奔流よ』」
セレナの放った魔法で祠の広間に光が満ちる、洞窟の中と思えない程広い。
表にあった巨大な像もあるし、祠自体に細かい文様が彫られている。壁には何か意味あり気な幾何学的な模様もあるし雰囲気バッチリだ、雰囲気があり過ぎて普通に怖い。
本を読んだ感じ、エルフの王国の歴史は千年以上有りそうだった、その歴史を感じさせる建造物。この聖地を守るためにエルフは国を作ったとすら言われているのだ。
「お姉ちゃん! アレなぁに?」
「なぁに? どうしたのー……」
え? 祠の像の後ろから巨大な、巨大ななんだろう? ハルキゲニアみたいのがのっそりと姿を現した。いや、あんなの本で見た事有るぞ? それこそ本で何回も見たえーと
え? マジ? アレ?
「
「え! アレがそうなの!」
「セレナ! ゆっくり逃げて!」
エリプス王こと家の父上は普通に強い。あの兄様よりも強いって言うんだから相当だ、それが討伐に失敗し返り討ちに有った事もあるこの森で最強の魔獣。
もうこんなの成人の儀どころじゃないだろ。普通に軍隊出動レベルの事態だよ、とっとと帰って報告しないと。
「うん、あ! 来た!」
速い。うじゃうじゃ有る足でビデオの早回しみたいな速度で、気が付いたら目の前に居た。
――ギュルゥゥゥゥ
変な音がしたと思ったら白い糸が体に巻き付いていた、蜘蛛だから糸だと言われているが、間近で見て解った、これ糸じゃない! 胸の辺りから生えた触手だ!
「ぐ、ぐぅぅ」
息が漏れる、締め付けられている、苦しい。
「おねーちゃんを離せ!『我、望む、この手より放たれたる、強く大きく熱く疾い、炎と風の鋭き刃よ』」
無駄だ、
――ギョォォォ
……結構効いてるな。
焼き切られた胴体の一分がピクピクしている。
ブヨブヨとした軟体の体は魔法を打ち消し、斬られても再生すると聞いていたのだが……やっぱ、セレナの魔法凄すぎるんだな。
でも、セレナとしては真っ二つに切断出来なかったのはショックみたいだ。今まであの魔法で倒せない敵など居なかったのだろう。
「う! うぅぅ!!」
「あぅ! セレナ! お願いだから逃げて」
なんとか声を絞り出す。でもセレナは諦めない。完全に俺は邪魔してるだけだ、情けなくて涙が出る。セレナを守るなんて出来ないかもと思ってはいた、でもセレナに守られる事すら満足に出来てない。
「お姉ちゃんを離せ! このぉ『我、望む、大気に潜む燃焼と呼吸を助けるものよ、寄り合わさりて、大いなる業火となりて強き炎を生み出せん』」
あ! 俺が昔教えたガスバーナーの魔法。
だけど今回は『ささやかなる種火』じゃない! 全力で出すつもりだ!
――ゴオオオォォォォォォッッッ!
セレナの手から極太のレーザーみたいな青白い炎が噴き出す。
――ギョオオォォォン
盛大な鳴き声、唸り声、触手も燃え上がり俺は解放される。振り返って、
……エルフの王国を揺るがす程に魔法防御が強い、とは何だったのか。
「やったよお姉ちゃん!!」
「逃げるわよ!」
「え? もう倒したよ?」
確かに、信じられない事に妹は一人、どころか俺のようなお荷物を抱えて、神話級の魔獣を討伐して見せた。凄い!
でもその魔法、洞窟で使っちゃ駄目なんですよ。
「アレぇ? 目が」
酸素が無くなるのだ、ふらつくセレナを抱える様に広間の出口に走り、風の魔法で空気を取り込んだ。
「『我、望む、大いなる風の奔流を』」
空気が取り込まれて一息付いた。
「やったね! お姉ちゃん!」
「そうね、やったわね」
でもこんなので良いのだろうか? ずっと俺は妹に頼りっぱなしのダメダメなお姉ちゃんだ。
「ごめんねセレナ、お姉ちゃん、ずーっと足を引っ張ってばかりで、駄目なお姉ちゃんでごめんね」
すまん、本当にすまん、なんでこうも格好付かないんだろうなぁ……
「だいじょーぶ、おねーちゃんはずーっと私が守ってあげるから!」
可愛いーーーー
うーん可愛い子ぶった言い方で、狙ってる感有るけど其れがまた可愛い。
もうどう考えても世界一可愛いだろうが! もうーお姉ちゃんセレナに一生守ってもらう!
嘘、流石に頼りっぱなしは駄目。お姉ちゃんも頑張らないと。
落ち着いたところで、宝玉を回収して家路についた、帰りは特にイベントは無かったが流石にセレナも魔力が無いのか飛ばずに、手を繋いで二人で帰った。
帰ってから
中にはエリプス王の物語は終わっていなかった! 受け継がれているんだ! と興奮さめやらぬ人々も現れて、王宮は大騒ぎとなった。
事の顛末は春の俺の誕生日に大々的に報告されるらしい、何と言うか妹の手柄が十割なんで妹の誕生日にして欲しいのだが、俺の誕生日と妹の誕生日が近いので一緒にやってしまおうと言う事らしい。
準備の都合も有るらしいので良いとして、成人することで正式に俺は、ユマ・ガーシェントとなったし、セレナもまた、セレナ・ガーシェントとなったのだ。
成人すると子供扱いはされない、つまり公務やらで働く必要も出るし、親が望むと有れば結婚させられる事も有る。王宮が血筋を維持するには必要な事だ。
そして、王家の人間が成人した際、自分を象徴する魔道具を一つ与えられる。それも国宝クラスの凄い魔道具だ。
ただ毎年一つは王室御用達として納品されるので、そこまで貴重なアレではないのだが、性能はトップクラスの魔道具がいただけるハズ。
セレナに贈られたのは巨大な宝石があしらわれたブローチだ。なんと魔法を一つ、その中に保存できると言う途轍もない物で、最近開発された魔道具であり、貴重な宝石を惜しみなく使用したと言う事だ。
魔法を保存出来ると言っても、強過ぎる魔力を込めると壊れてしまうらしいので、両親としてはセレナに魔力を程ほどにキープする練習をして欲しいのだろう。
狙い通りセレナはおっかなびっくり、ちょっとずつ大切そうにブローチを撫でながら魔力を込めていた。
俺に与えられたのはキラキラと派手に輝く王冠だ。いや、王冠じゃないんだけど、そうとしか見えない程に、テンプレ的なお姫様がつけてるキラキラで尖ってる奴。
凄い豪華な見た目で、被って鏡の前に立ってみると、我ながら凄い偉そうだ。
「これは? どんな魔道具なんですか?」
期待に胸いっぱい、尋ねる俺に待ってましたとばかりに父様が頷いた。
「これはな、健康値計だ」
「へ?」
「健康値計だ」
いや、お父様? 授与式前の内々での受け渡しとしても、冗談はキツイですよ?
「何代か前に、不健康な王女に贈られた冠だ。その王女は病弱ながらも長生きしてな。それにあやかって彼女の冠に健康値計の機能を付与した物だ。健康値計の魔道具としてはありふれた性能であるが、元々が国宝だからな、使っている金や宝石も安い物じゃない。純粋な貴金属としては一財産だ」
あ、そう言う事ですか。あー魔道具で無双って線も無さそうですね。
俺が手にした王冠の内側に表示された、
健康値:15 魔力値:220 と言う表示を見てぼんやりそんな事を思うのだ。