次へ >>  更新
1/262

神から目線

魂とは何か?


それを説明するのは大変難しい作業だが、人の文明が発展するに従って挑戦し甲斐の有るものの様に思えてきた。

もうお前たちは命を構成する要素を知っているし、不完全で不格好ながら大半を自らの手で作成することに成功していると言えるだろう。

例えばだ・・・

お前さんはパソコンを持っているか?


そうだ、パソコンだ。うん・・まぁそれはいいとして・・・あー

「パソコンは命じゃない」・・・か。確かにそうだ、

ただ、神が作ったものが命として、人間が作った命をコンピューターと呼んでいるだけかもしれんぞ?

コンピューターが命を持ったかの様に振る舞う所を見たことは無いか?


心臓が電源、メモリが海馬、ハードディスクが側頭葉で、CPUは前頭葉。

目や耳や手足が無いと言うのなら、カメラやマイクやロボットアームでもなんでも好きに付けてみたらいい。


ただ、魂にあたるパーツなんてどこにも無いと思わんか?


そりゃそうじゃ、そんなもんはどこにも無いからの。

人間が死んだらオシマイなのと同じようにコンピューターが壊れたらオシマイじゃろ?


ん?「データをサルベージして他のPCに入れなおせば同じように動く」か。なるほどのぉ人間も大分賢くなっておる。

で、それが人間に出来ない理由があるかな?

そう、出来るのだよ。肉体(ハードウェア)記憶(データ)が有れば再現出来る!そんなものどちらも容易に複製できるわい。


つまりな、人間の記憶も感情も脳で作っているのじゃから魂なんぞにはなんの「データ」も無いんじゃ。


逆に言うとな、今日突然お前の魂を誰か違う人間の魂と入れ換えても人間は誰も気が付かん。


もちろんお主自身もな。


だから、輪廻転生して記憶が残っているなんてのは不具合(バグ)でしか有り得ないし。

通常はそんな不具合を許す様な真似はせん、すぐに修正(デバッグ)するぞい。

まぁそんな不具合が有りえないでは無いのが悲しい所じゃがな。


・・・・・いや、魂が無いなんて言ってないじゃろ?


わしが言ったのは「魂にあたるパーツが無い」じゃよ。


ああ・・・「それこそが命とコンピューターの差」だと?

そう買いかぶってくれるのはありがたいがね。

コンピューターにも(ソレ)にあたるものは有るんじゃよ、「パーツ」では無いだけでな。




・・・・IPアドレスじゃよ。


神界(ネットワーク)にぶら下がった人間(端末)を判別するための固体識別番号。

人間(端末)が増えすぎて枯渇寸前、ヘビーローテーションで使いまわす様などそっくりじゃろ?


それ自体に情報を持たず、通信の為に必要な番号。

そんなものが必要な理由・・・そう、魂は通信しておる、神の都合でな。


それは神が情報収集と管理を目的とした外部システム。

外部システムで有るがゆえにそれが個体に影響を与えることは許されん。


特定のIPが与えられたパソコンの故障が立て続けに起こったらどう思う?


管理者はシステム上のバグを疑うだろう。


輪廻と運命の神アイオーン

名前は偉大だが実態はIPアドレスの管理者に過ぎん。

魂によって収集されたラプラスシステムによる運命予報を元に魂を割り振るだけの存在。

それがワシじゃ。


ワシを悩ませ続ける、16歳まで生きることが無い魂。

そこにはどんなバグが有るのか、もしくは世界のシステムがバグを持つのか?


短命のバグを疑われる魂を死の運命から遠い場所に配置する事1万回。

バグの原因解明どころか、ラプラスシステムの運命予報の精度が疑われる程の破局と破滅で多くに死をばら撒く。


輪廻のシステムを外れた異世界の平和過ぎて、平和ボケと言う単語を固めたような島国の、何の変哲もない、長生きするハズの少年に割り振った魂。

アメリカのパソコンに日本のIPアドレスを割り振るような無茶なイレギュラー中のイレギュラーも虚しく。

15の少年は隕石の直撃で跡形もなく地球から姿を消す。


この理不尽な純然たる『偶然』の攻撃にラプラスシステムの限界を感じ。

神は神の理解の及ばない神の神の存在を感じる始末。


これは新しい視点が必要だ、もう『偶然』は有りえない。でも『偶然』としか思えない。

これはもう本人に聞くしかないと。記憶(データ)をサルベージし

疑似人格(エミュレーター)を通して会話を試みてみる事にする。


当の少年に話を聞くと、

「いやー運が悪すぎておかしいと思ってたんスよねー、確率論的に有り得ないですもん」

との弁。


のんきな物である。


「もっと偉い人の息子とか、すげー丈夫でツエー男とか、大魔法使いとかそう言うのじゃダメだったんすか?」


・・・そんなもんは何回も試した。

強くなるハズの奴でも初めから強い訳でも無い、運命予報を裏切って勝てるハズの無いもんに突っかかって死んでいく。

超大国が出来た時は喜び勇んで皇帝の息子に転生させたよ。

暗殺されたがね。

一番無茶な所では、魂の規格を無視して土地神の龍子として転生させてみたんじゃが・・・

土地ごと死んで行きおった。何人死んだか数えたくもない程じゃ。


「マジすか!俺ツエー出来ないで死んじゃう?」


・・・マジじゃ、俺ツエー出来ても死んじゃう!

『偶然』には個人の強さでは抗えないのじゃ。お主を狙った矢はかわせても、味方の矢が、たまたまお前さんが気を抜いた一瞬の隙に後頭部に突き刺さるのは達人であろうとも防ぎようがない。


「どーゆう運の悪さなんスか?つーか普通に生きてたのに何度も死にかけたのは偶然じゃなかったんですね?マーフィーの法則じゃないっすよ、ハインリヒ?ヒヤリハット案件ですよ、起こるべくして起こったと言っても過言じゃない」


「はー、それでもだーれも心配も同情もしてくれないんだからそりゃー死ぬよな・・・」


怒ったり焦ったり落ち込んだり、忙しい少年だ。

やっと大人しくなったと思ったら何を思いついたのかハッとこちらを見つめてきた。

疑似人格だから目は無いんじゃが、手に取るように動きが解る。


「じゃあ、じゃあ逆転の発想ですよ、いつでも死んじゃいそうな儚い感じの奴が却って死なないで生き残るもんですって。一人じゃダメでもみんなに守ってもらえれば良いんスよ。」


「薄幸の美少女ってのは絵になりますけど?薄幸の普通少年ですからねーなんかよくある事を大げさに言ってるなって思われがちなんスよ」


「あーせめて美少女だったらなーみんなに心配して貰えたんだけどなー」


そんな下らない事をブツブツと愚痴り始める始末。


ただ先ほどよりは狙いは悪くない、

多くの人間の運命に乗っかってしまえば、しょーもない偶然でコロっと死ぬ確率は理論上は下がる。

・・・だがな、そんなのはもう千回試した、みんなお前を守ってくれたよ。命を懸けてな


「えーそれでダメだった?」


・・・まとめて死んだよ


「どーすんスか?オレあと何回無駄に死ぬんスか?」


 ワシが聞きたいわ!!


不治の病を患った少女は不作の折に自害した。

戦争に行った父の帰りを待つ少年は門で馬車に轢かれた。

もっと多くの人を巻き込もうと、盲目の姫君にした時は国ごと滅んだ

人間に追い立てられ、最後の一人になった悲しい吸血鬼は愛した男と心中した。

砂漠の歌姫は政争の道具にされた末に暗殺された。

古代人の末裔だってやったし、さっきの皇帝の息子や龍子もそうじゃが。

運命予報を見て因果律の強い、ちょっとやそっとじゃ死にそうに無い奴を選んでな!

みんな死んだよ!全滅だ!周りのすべてを巻き込んで運命予報を丸ごと破壊する悪夢の号笛だ


さぁどうすればいい?どうすればお前は死なない?ワシが一番知りたいわ!

・・・はぁ。 まぁ、今回は被害が少なかったのが勿怪の幸いかの・・・無理やり地球の管理者にねじ込んでテストを頼んだ甲斐が有ったというものだ


「うへぇぇ?」


やっと事態を飲み込んだのか、自分の運の無さに焦り始めた少年。

だが気にしていたのはそんな事では無いらしい。


「えーと、俺だけ死んだんですかね?」


いや?隕石の直撃だからな、お前の周りの何人か一緒に死んどるよ。


「そんな……田中は?木村は?」

・・・死んどるな

「なん・・でだよ、なんであいつらが死ななきゃいけないんだよ」

それを言うならお前さんが死ぬ理由もさーーぱり解らん!

そんなわけないだろと鼻で笑った地球の管理者が頭を抱えて資料(ログ)を漁っておるのが痛快に思える程だわ畜生ッ!


「そんな実験で田中も木村も死んだのかよ。なんでだよ・・・」

その原因をワシはかれこれ数万年追っかけとるよ。お前らの体感時間で換算するとな

「そんな糞ったれな運命を、運命を超える力を壊す力が・・・なにか無いのかよ・・・」


やっと真剣になりおった、この際ワシはどんな藁でも掴む。

案外、本人の意見が意外と参考になるかもしれん。

少年はなにやらブツブツと考える、数時間をスキップして与えてみるか。



「一つの運命じゃだめでも・・・幾つかの、運命を束ねれば・・・」


「……なぁ神様、全部じゃダメなのか?」

どういう意味じゃ?


「王国の姫君も、吸血鬼も古代人の末裔も、土地神も全部まとめて全部盛りだよ、世界中の人を無理やり同情させて運命に同乗させるんだよ。」

世界を道連れに心中するのか?やけくそじゃな、全ての因果律を纏めて運命破壊の『偶然』に抗うか


「田中と木村が浮かばれねぇよ、絶対その『偶然』をぶっ飛ばしてやりてぇ」


世界で一番不幸になって、世界で一番同情されて、地位も力も手に入れて世界を巻き込んで。

・・・それで世界のみんなを不幸にして、それでもやっぱりダメかもしれないんじゃぞ?


「やってやる。薄幸の美少女で王国の姫君で吸血鬼で古代人の末裔で、もう何でもいい全部だ!全部で良い!

 史上最悪のヒロインをやってやるよ、世界の全てに命を懸けて守ってやりたい、なんとかしてやりたいと思われて

 全部を載せて全部と心中する事になっても1秒でも長く生き残ってやる!」


ほ・・・本気なのか・・・いや、とは言ってもそんな都合のいい転生先が・・・

いや、因果律は先天的な物だけじゃない、後から回収出来る物を積極的に集めて行けるなら・・・

良いじゃろ。覚悟があるなら記憶を持ったまま転生させてやる


「本当か!?」


ああ、勿論わしの首が懸かるがな


「なぁ……そもそも魂ってなんなんだ?」


そこで、ワシはさっきの様な魂の説明をしたわけじゃ、


・・・そんな訳で魂には情報は保持できん、ただIPアドレスがそうであるように魂も通信機とセットで初めて意味を成す、そして送信が出来ると言うことは受信だって出来ると言うことじゃ、送信したログの部分的参照権を与える事でお前の意思と記憶を転生後ダウンロード出来るハズじゃ


だが、解ってるのか?その時いたいけな一人の少女の脳に「自分」を上書きすることになるんじゃぞ?



「それでも……やってやる、俺やってやるよ」


わかった、地球の管理者とも協議して転生先を探してやる、

・・・よし良いのが有った。ヒヨるなよ小僧


そして一人の少年は少女として転生する。

それは運命を壊す『偶然』に全てを賭けて抗う物語。

次へ >>目次  更新