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新たな依頼

 ピュートと別れた後、彼方とミケは水晶通りにある屋台で食事をした。

 ミケおすすめのパンを食べた後、冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドには数十人の冒険者たちがいた。彼らはボードに貼られた依頼書を見たり、受付の女性と会話をしたりしている。


 ミケは顔なじみのミルカのいる受付に駆け寄った。


「ミルカちゃん、元気そうでなによりにゃ」

「あ、こんにちは。ミケさん」


 ミルカは笑顔でミケに挨拶した。ミルカは外見は二十代ぐらいのメガネをかけたハーフエルフで、セミロングの髪は黒かった。シャツの胸元は大きく膨らんでいて、腰の部分はきゅっとくびれている。


「今日もお仕事探しですよね?」

「うむにゃ。Fランクでもできる仕事はあるかにゃ?」

「ちょっと待ってくださいね。たしか、あれがまだ残ってたはず…………」


 ミルカは黄白色の用紙をチェックする。


「あ、やっぱり残ってますね」

「どんな依頼なんですか?」


 彼方がミルカに質問した。


「これは、商人のバーゼルさんの依頼で、新しいダンジョンの探索ですね」

「新しいダンジョンですか?」

「はい。ガリアの森の中でバーゼルさんが見つけたんです。なかなか広いダンジョンみたいで、百人の冒険者を雇いたいとのことでした」

「Fランクの冒険者でもいいんですか?」

「はい。バーゼルさんの希望は、Dランク以下の冒険者なので」


 ミルカは彼方の耳元に口を寄せる。


「Cランク以上は依頼料が高くなっちゃいますからね。それよりも人数を増やしたいみたいです」

「依頼料はどのぐらいなんですか?」

「日給制になってて、Dランクが一日リル金貨四枚で、Eランクがリル金貨三枚、Fランクがリル金貨二枚です。一日で作業が終わったら、それだけですが、もし三日続くのなら、報酬は三倍になりますね」

「リル金貨二枚か…………」


 彼方は口元に親指の爪を寄せて、考え込む。


 ――日給二万円の仕事ってところか。日本なら悪くない金額だけど、命にかかわる仕事でもあるからな。


「…………それだけ冒険者を雇うってことは、ダンジョンにモンスターがいる可能性が高いんですか?」

「そのへんは運もあるんです。モンスターがいなくて、楽な仕事になることもあれば、強いモンスターに遭遇して死ぬ可能性もあります」


 ミルカの眉間に深いしわが刻まれる。


「依頼を受けるか受けないかは彼方さんたちが判断することですけど、受けるのなら十分に気をつけてくださいね」

「…………ええ」


 彼方は真剣な表情でうなずいた。


 ◇


 翌日、彼方とミケはガリアの森の中にあるダンジョンに向かって出発した。


 新しく見つかったダンジョンは、王都から徒歩で二日かかる距離にあり、そこで依頼主のバーゼルと合流することになっていた。


 彼方はミルカから受け取った地図を確認しながら、西に向かって深い森の中を歩き続ける。

 地面には多くの真新しい足跡が残っていた。


 ――きっと、バーゼルさんに雇われた冒険者たちだろうな。


「彼方っ! ポク芋見つけたにゃ!」


 ミケが根に絡みついている芋を彼方に差し出した。


「これをお弁当といっしょに食べるにゃ。焼いて、お塩を振ると美味しいのにゃ」

「へーっ、よく見つけたね」

「葉っぱに特徴があるからにゃ。ちょっと、ぎざぎざしてるのにゃ」

「携帯用の食糧は用意してるけど、現地調達で新鮮なものが食べられるのはいいね」

「うむにゃ。ダンジョンに行くまで、ミケがいろいろ美味しいものを見つけてあげるのにゃ」

「ははっ、期待してるよ」


 その時――自分の顔めがけて飛んでくるナイフが見えた。


 彼方は上半身を捻るようにして、そのナイフをかわす。

 ナイフは広葉樹の木の幹に深く突き刺さる。


 彼方は鋭い視線を十数メートル先の茂みに向けた。


 その場所から現れたのは、彼方と前に揉めたDランクの冒険者のウードだった。


「おっと、すまねぇな」


 ウードはにやにやと笑いながら、彼方に近づく。


「背が低いから、ゴブリンと勘違いしちまったぜ」

「…………どういうつもりですか?」


 彼方は低い声で質問する。


「だから、勘違いだって言ってるだろ。よくある事故さ」


 ウードは彼方の横をすり抜けて、木の幹に突き刺さったナイフに手を伸ばす。


「お前、この辺りにいるってことは、バーゼルの依頼を受けたんだな?」

「…………ええ。あなたもそうですよね?」

「ああ。悪くない依頼料だったからな」


 首をかくりと曲げて、ウードは彼方を見下ろす。


「今回の依頼は日給制だ。この前のように、運よくモンスターを倒しても意味ないからな」

「…………そうですね。あなたがモンスターを倒してくれれば楽でいいです」

「ふんっ! お前ら、Fランクは荷物持ちでもしてればいい。どうせ、役に立たねぇだろうしな」

「おいっ、ウード」


 ウードの背後に体格のいい男が現れた。男は鉄の鎧を身につけていて、巨大な斧を背負っていた。


「何やってるんだ。さっさと行こうぜ」

「ああ。ちょっと見知った奴がいたんで挨拶してただけさ」


 ウードは片方の唇の端だけを吊り上げる。


「まあ、Fランクがダンジョンで死ぬことはよくあるからな。せいぜい気をつけておくことだ。事故はどこででも起こるからな」


 そう言って、ウードは斧を持った男といっしょに茂みの奥に消えていった。


「彼方っ! 大丈夫かにゃ?」

「うん。ちゃんと避けたから」


 彼方はミケの頭を撫でながら、唇を強く結ぶ。


 ――ウードには気をつけたほうがいいな。ああいうタイプは何をするかわからない。モンスターなら倒せばいいけど、同じ依頼を受けてる冒険者同士だからな。


 ナイフで傷ついた木の幹を見て、彼方の表情が引き締まった。


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