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彼方vs暗器のリムエル2

 赤紫色に輝く短剣の刃が彼方の左目を狙う。


 彼方は機械仕掛けの短剣で、それを受けた。

 甲高い金属音が林の中に響く。


「まだまだっ!」


 リムエルは低い姿勢から、斜めに短剣を振り上げる。彼方が上半身をそらすと、彼女はさらに一歩前に出た。首を回すようにして長い髪の毛で、彼方の視界を一瞬塞いだ。


「はあっ!」


 リムエルはさっきより速いスピードで短剣を突いた。

 その攻撃も彼方は体をひねってかわす。


「でしょうね」


 赤紫色のリムエルの瞳が輝いた。

 短剣を引くと同時に、右手を動かす。何も持っていない右手には、いつの間にか黒い釘のようなものが握られていた。


 その釘が彼方の首筋を狙う。


 彼方は素早く左手を動かし、釘の攻撃をネーデの腕輪で防いだ。

 キンッと音がして、釘の先端が曲がる。


「ちっ!」と舌打ちをして、リムエルは彼方から距離を取った。


「気づいてたのね」

「ええ。暗器のリムエルって呼ばれてるんだから、当然、警戒しますよ。さっき、髪の毛をかき上げた時の手の動きに違和感あったし」


 彼方は攻撃を防いでくれたネーデの腕輪をちらりと見る。


 ――この腕輪に使われている素材は相当硬い。大抵の攻撃なら受け止めることができそうだ。力が強くなるだけじゃなくて、防具としても使えるのは有り難いな。まあ、こんな腕輪の使い方ができる人は、そんなにいない気もするけど。


「これは驚いたわね」


 リムエルが先端の曲がった釘を足元に落として、軽く肩を動かす。


「暗器に気づかれても、殺せると思ったんだけどなぁ。まさか、腕輪で止められるなんてね」

「攻撃の軌道を予測すれば、なんとかなるよ」


 ――それに、機械仕掛けの短剣の効果で、僕のスピードと防御力はアップしてる。この程度の攻撃なら、余裕を持って避けられる。


「リムエルさん、もう、止めませんか?」

「…………止める?」

「はい。悪いけど、あなたの短剣よりも僕の短剣のほうが魔法の効果が強いみたいです。それに、あなたの強さは僕とは相性が悪い」

「相性が悪いって?」

「あなたは、相手の隙をつく変則的な攻撃が得意なんですよね。でも、僕は騙されない。あなたの表情や仕草、動きから、攻撃が予想できるんです」

「…………ウソを言ってる目じゃないわね」


 リムエルは口元に短剣を寄せて、一瞬、考え込む。


「でも、全てを予想できるわけじゃない。それに、あなたの弱点も読めた」

「僕の弱点ですか?」

「そう。あなた、人を殺したくないと思っているでしょ?」


 その質問に、彼方は沈黙した。


「図星みたいね。私だって、相手の表情でいろいろわかるの。あなたは育ちがよくて、平和な場所で生まれてる。だから、人を殺すことに躊躇がある」

「…………そうですね。否定はしません」


 彼方はリムエルの言葉に同意する。


「人だって、モンスターだって、動物だって、殺したくはないです」

「素直に認めるんだ?」

「事実ですからね。でも…………」


 彼方の瞳の色が、すっと暗くなった。


「それは、なるべくなら、です。殺すと決めたら、確実に殺します」

「…………ふっ、ふふっ。そうなんだ。意外と冷酷なタイプなのね」


 リムエルは右手を軽く動かす。まるで手品のように、その手の中に刃渡り五センチ程の暗器が現れた。


「もう、隠す意味もなさそうだし、素直に見せておくかな」

「まだ、戦うつもりなんですね?」

「もちろん。降参なんてしたら、次の仕事が受けにくくなるし、勝算もあるから」

「勝算?」

「ええ。あなたは強い。素質もあるし、いいマジックアイテムも装備してる。でも、まだまだ戦闘の経験が足りない。一年後はわからないけど、今は私のほうが強い」

「…………戦闘経験が足りないことは自覚してますが、今の時点でも僕のほうが強いと思いますよ」


 その言葉に、リムエルの頬がぴくぴくと痙攣する。


「…………じゃあ、それを証明してみなさいよ!」


 リムエルは右足を蹴り上げる。さっき足元に落とした先端の曲がった釘が、彼方の顔面に向かって飛んでくる。


 それを予測していたかのように、彼方は機械仕掛けの短剣で釘を弾く。


「ここからよっ!」


 リムエルは体を回転させて、回し蹴りを放った。彼女のブーツの先端から尖った刃が見えている。


 ――まだまだ、暗器を隠しているみたいだな。


 彼方はリムエルの蹴りをかわすと同時に、機械仕掛けの短剣を振り下ろす。刃の先端がリムエルの腕をかすめる。


 リムエルは唇を歪めて、彼方から離れる。彼女の腕から、赤い血が流れ出した。


「わざと腕を狙ったのね。お優しいこと。でも、それが命取りよっ!」


 リムエルは体をひねるようにして、短剣を投げる。



 その方向は、彼方ではなく、十数メートル先にいたティアナールだった。


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