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彼方vs暗器のリムエル

「…………ふっ、ふふっ」


 リムエルは口元に短剣を寄せて、笑い声を洩らす。


「彼方くんだっけ? あなた、面白いわ。久しぶりに楽しい決闘になりそう」


 無言で話を聞いていたレンドン卿が口を開く。


「お互いに決闘士は揃ったようですね。では、決闘を始めたいと思いますが」


「彼方っ!」


 ティアナールが彼方に駆け寄り、耳元に口を寄せる。


「リムエルを甘くみるな。あいつは…………」

「暗器のリムエルですよね。ここに来る前に、少しですけど情報を仕入れてきました」

「そうだ。短剣が主要な武器だが、他にも武器を隠し持ってるぞ」

「みたいですね。戦闘慣れしてて、人を殺すことに躊躇しない危険な相手だと思います」

「それなのに、決闘士を引き受けてくれるのか?」

「ええ。アルベールさんが相場の報酬を払ってくれると約束してくれましたし、ティアナールさんは大切な友人だと思っているから」

「大切な友人…………」

「はい。迷惑かもしれないけど…………」

「ばっ、バカなことを言うな」


 ティアナールの尖った耳が真っ赤に染まる。


「迷惑であるはずがない。私のほうが、お前を大切に…………」


「おいっ!」


 カーティスが不機嫌そうな声を出した。


「いつまで時間稼ぎしてるんだ? さっさと終わらせるぞ。結果がわかってる決闘をな」

「はい。お待たせしました」


 彼方はティアナールから離れ、微笑するリムエルの前に立つ。


 二人の間で、レンドンが口を開く。


「それでは、レイマーズ家のカーティスとリフトン家のティアナールの決闘を始めます。決闘はお互いの代理人である決闘士が行い、その勝者の主張が正しいと認めます。異論はありませんね?」

「もちろん、ないよ」


 カーティスがそう言い、ティアナールは無言でうなずいた。


「決闘士のお二人も問題ありませんね?」


 彼方とリムエルは相手から視線をそらさずに、首だけを縦に動かす。


「リムエルさん、わかってると思いますが、相手が降参した場合は、決闘は終わりです。その後は相手に危害を加えないように」

「わかってるって。でも…………私、戦闘になると熱くなっちゃうタイプだから、相手の降参の声が聞こえない時があるのよね。その時は、ごめんなさい。あなたが生きているうちに謝っておくわ」


 紅を塗った唇の両端を吊り上げて、リムエルは彼方を見つめる。


「では…………」


 レンドンが彼方とリムエルから距離を取った。ティアナールとカーティスもレンドンの背後に回る。


 彼方は数歩下がって、機械仕掛けの短剣を構える。


 ――この決闘士は強い。短剣の扱いに慣れているし、隙がない。元の世界の僕なら、殺されてしまったかもしれないな。でも、今の僕は何度も戦闘を経験して、強くなっている。それに、機械仕掛けの短剣の効果で、スピードと防御力も上がっているし、腕輪の効果で力も強くなっている。


「では、始めっ!」


 レンドンのかけ声とともに、リムエルが右手で短剣を構えた。腰を軽く落とし、ピンク色の舌で上唇を舐める。


「さて…………と、とりあえず、彼方くんの腕前を見せてもらおうかな」


 そう言うと同時にリムエルは一気に前に出た。一瞬のフェイントをかけ、彼方のノドを狙って短剣を突く。

 その攻撃を彼方は首をひねってかわす。

 リムエルは笑いながら、攻撃を続ける。素早く短剣を突き、ぐっと体を沈めて、右足で彼方の足を刈ろうとする。


 彼方は左足を下げると同時に、機械仕掛けの短剣を振り下ろした。


 今度はリムエルがそれをかわす。


「やるわね」


 リムエルはふっと息を吐き、数歩下がった。


「Fランクの冒険者とは思えない。Dランクレベルってところかな」

「あなたも、やっぱり強いですね。でも、本気を出したほうがいいですよ」

「本気って?」

「左利きなんだから、短剣は左手で持ったほうがいいってことです」


 彼方の言葉に、リムエルの頬がぴくりと反応した。


「私が左利き?」

「情報屋は右利きって言ってましたけど、あなたの動きでわかります。今まで隠してたんですか?」

「…………へーっ、よく気づいたね」


 リムエルが短剣を左手に持ち替える。


「右手で握った短剣で小石を斬った行動も、ちょっとわざとらしかったから。その前に、表情にも変化があったし。右利きと見せかけておいて、ここ一番で左手で攻撃するつもりだったんですよね?」

「…………そっか。これは予想外だったな」


 リムエルは右手で髪の毛をかき上げながら、真っ赤な唇を動かす。


「認めてあげる。あなたの強さを。でも、可哀想に」

「可哀想?」

「ええ。あなたは私を本気にさせたから…………」


 その言葉と同時に、リムエルは彼方に襲い掛かった。


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