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リムエルの実力

「ダメです。ティアナールさん」


 レンドンがティアナールの肩を掴む。


「リムエルさんも挑発は止めてください。この決闘は、代理人同士でやると決まっているのですから」

「でも、そっちの決闘士はいないみたいだけど?」

「何だ。不戦勝か」


 カーティスが大げさに肩をすくめる。


「武門貴族が代理の決闘士も見つけられないとは、無様なものだな。レンドン殿、この場合は、僕の主張が認められることになるよな?」

「…………そうですね」


 レンドンが残念そうにうなずいた。


「決闘士がいないのなら、カーティス殿の主張を全面的に認めることになります」

「そんなっ!」


 ティアナールの顔が蒼白になった。


「待ってください! もうすぐ、アルベールが決闘士を連れて来るはずです」

「本当に来るのかなぁ?」


 カーティスがにやりと笑う。


「僕の聞いた話だと、相手が暗器のリムエルと聞いて、決闘士たちは依頼を断っているらしいじゃないか」

「それは、貴様が裏で手を回しているからだ!」


 ティアナールは怒りの表情を浮かべる。


「どこまで、卑劣な男なんだ!」

「やれやれ。また妄想か」


 カーティスはわざとらしくため息をつく。


「決闘士を用意できなかった時点で、君の負けなんだ。もう、認めなよ」

「用意できたとしても、負けだけどね」


 リムエルはティアナールに向かって、ピンク色の舌を出す。


「くっ…………」


 ティアナールは唇を強く噛み締め、両手のこぶしを震わせる。


 レンドンがティアナールに声をかけた。


「ティアナールさん。私は立会人として、公正な立場で判断しないといけません。あなたが決闘士を用意できなかったのは事実ですし、カーティス殿の主張を全面的に認め…………」


「待ってください!」


 突然、凜とした声が林の中に響いた。


 全員の視線が声のした方向に向けられる。


 そこには、彼方が立っていた。


 ◇


「彼方…………どうして、お前が?」


 ティアナールは緑色の目をぱちぱちと動かして、彼方に近づく。


「私が連れて来たのです」


 彼方の背後にいたアルベールが自慢げに胸を張った。


「アルベールっ、まさか、お前…………彼方を?」

「はい。こいつが代理の決闘士です」

「…………このバカっ!」


 ティアナールはアルベールの頭をこぶしで叩いた。


「お前は何をやってる!? 彼方は決闘士じゃないんだぞ!」

「しっ、しかし、彼方の力は姉上が一番認めているではないですか?」

「それとこれとは別だ! 彼方は私の…………いっ、いや、とにかく、彼方に決闘など」

「大丈夫ですよ。ティアナールさん」


 彼方はティアナールに笑いかける。


「相手は強そうですけど、多分、勝てますから」

「へーっ、面白いこと言うのね」


 リムエルが妖しい笑みを浮かべて、彼方を見つめる。


「私に勝つつもりなんだ?」

「…………うん」


 彼方はリムエルから視線をそらさずに、小さくうなずく。


「…………ふーん。あなた…………Fランクの冒険者みたいね。プレートが茶色だし」

「最近、冒険者ギルドに登録したから」

「私はCランク。途中から、決闘士の仕事のほうが本業になっちゃって、昇級試験は受けてないの」

「その言い方だと、Bランク以上の実力があるってことかな?」

「まあね。Bランクの決闘士を殺したこともあるし」


 リムエルは値踏みするような目で彼方を見つめる。


「うん。わかった。短剣と腕輪ね。それ、どっちもマジックアイテムでしょ。しかも、腕輪はネーデ文明の物で身体強化する魔法が付与されてる。それで勘違いしたわけね」

「勘違い?」

「いいアイテムを装備してるから、自分が強いと思ってることだよ」


 赤い唇をちろりと舐めて、リムエルは微笑する。


「でも、それは間違い。どんなに強い武器を持ってても、使う人間の技量がいまいちなら、意味はないの」

「僕もそう思うよ」

「…………んーっ?」


 リムエルの眉が微かに動いた。


「…………まあ、あなた、少しだけ顔が私の好みだし、すぐに決闘が終わるのも面白くないから、いいもの見せてあげる」


 そう言って、腰に提げていた短剣を右手で引き抜く。その短剣は刃が赤紫色で柄の部分に漆黒の宝石がはめ込まれていた。


「さて…………と…………」


 リムエルは足元にあった小石をブーツのつま先で蹴って、真上に飛ばす。胸元まで届いた小石が落ち始めようとした瞬間、リムエルは短剣で小石を斬った。小石は真っ二つに割れ、地面に落ちる。


「あなただけがマジックアイテムを持ってるわけじゃないってこと。そして、それを使いこなす実力が私にはあるの。理解できたかな?」

「…………ええ。あなたが強いことはわかりました。でも、僕が負けることはなさそうです」


 淡々とした口調で彼方は言った。


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