冒険者ウード
農場の前の平地には、多くの冒険者が集まっていた。
人間、エルフ、獣人、そして、そのハーフ。
武器や防具もばらばらで、ロングソードを持っている者もいれば、弓や杖を持っている者もいる。
彼らの前には多くのゴブリンの死体が積み上げられ、周囲に血の臭いが漂っていた。
「これで、倒したゴブリンは全部だな」
まとめ役のDランクの冒険者アルクが手元のメモを見ながら、ゴブリンの数を数える。
アルクは人間で、髪は茶色、銀の胸当てをつけていた。
「…………うん。申告と合ってるな。では、明日の午後、王都の広場に集まってくれ。僕が責任をもって、報酬を渡そう」
「待てよ」
突然、痩せた人間の男が右手をあげた。
男は背が高く、黒い革製の服を着ていた。手足はひょろりとしていて、腰に四本の短剣を差している。
「どうした? ウード」
アルクが痩せた男――ウードに声をかける。
ウードは頭をかきながら、足元にあるゴブリンの死体に足を乗せる。
「報酬のことで、ちょっとな」
「報酬? それは昨日説明したはずだ。ゴブリン一匹につき銀貨五枚。お前も納得したから、依頼を引き受けたんだろ?」
「ああ。だが、こいつは納得いかねぇな」
ウードはゴブリンのリーダーの死体を指差す。
「リーダーを倒したのは、Fランクの冒険者二人のパーティーって聞いたぞ」
「それがどうかしたのか?」
「ってことは、金貨一枚はそいつらがもらうってことだな?」
「あ、ああ。そうなるな」
「それが納得いかねぇんだよ」
ウードはペッとツバを吐く。
「数合わせのために参加してたFランクに倒されるリーダーが金貨一枚? ありえねぇだろ! もっと報酬を安くするべきだ」
「いや、それは無茶な話だ」
困惑した顔でアルクは言葉を続ける。
「最初から、リーダーを倒した者には金貨一枚を渡すと決めている。今さら、それを変えることはできない」
「弱いリーダーでもか?」
「…………そうだ」
アルクがそう答えると、ウードは短く舌打ちをした。
「やってられねぇな」
「にゃっ! ミケたちに文句があるのかにゃ」
ミケがしっぽを逆立てて、ウードに駆け寄った。
「リーダーを倒したら、金貨一枚にゃ。そういうお約束なのにゃ」
「お前がリーダーを倒したのか?」
ウードが腰を曲げて、ミケを見下ろす。
「ミケじゃないにゃ。ミケのパーティーの彼方が倒したのにゃ」
「彼方?」
「僕だよ」
ミケの背後にいた彼方が、すっと前に出た。
「お前か…………」
ウードは彼方のベルトにはめ込まれたFランクのプレートを見る。
「俺はDランクのウードだ。モンスター狩りをメインの仕事にしてる」
「…………そうですか」
彼方は漆黒の瞳でウードを見つめる。
――身長が百九十センチで右利きか。痩せてるけど、筋肉はついてるな。手足が長くて、短剣の攻撃範囲は広そうだ。
「なぁ、Fランク。お前、悪いとは思わないのか?」
「悪い…………ですか?」
「ああ。弱いゴブリンのリーダーを倒して、金貨一枚もらうのがな」
「運も実力のうち、って言葉が僕のいた世界にはあるんです」
「…………ああ。お前は異界人なのか」
ウードはふっと肩をすくめた。
「異界人というのは運がいいんだな。幸運の女神ラーキルにキスでもされたか?」
数人の冒険者たちが笑い声を洩らす。
「とにかくだ。この場を丸く収めるには、お前が金貨を受け取らないことが最善なんだよ」
「それはイヤですね」
彼方は首を左右に振った。
「…………あぁ? イヤだと?」
「ええ。僕がリーダーを倒したのは事実だし、そのリーダーが強いか弱いかは関係ないでしょう」
「それは、この俺の意見に従えないってことか? Fランクの冒険者様が、Dランクの俺にはむかうってことだな?」
「ここでランクは関係ないでしょう」
「…………お前、いい度胸してるな」
ウードは腰に提げた短剣に手をかけた。