新たな戦い2
「ガアアアアッ!」
ゴブリン――リーダーは雄叫びをあげて、巨大な斧を振り下ろした。
その攻撃を、彼方は体をひねるようにしてかわす。
――前に戦ったゴブリンのリーダーより、力は強そうだ。斧の攻撃だし、当たると防御力を強化してても、危険かもしれない。
リーダーは重い斧をぶんぶんと振り回して、攻撃を続ける。
――でも、今の僕には当たらない。それに…………。
斜めに振り下ろされた斧の刃を、彼方は機械仕掛けの短剣で受け止める。
リーダーの両目が大きく開いた。
――マジックアイテムの腕輪の効果で、僕の力は強化されてる。短剣で斧の攻撃を止められるぐらいに。
「グウゥ…………」
リーダーはうなり声をあげて、腰を低くする。
――まだ、戦意は失ってないみたいだな。さすが、群れをまとめるリーダーってところか。
「ガアアアッ!」
気合の声をあげて、リーダーが攻撃を再開する。大きく斧を振り上げ、彼方に向かって、それを投げつけた。彼方は縦に回転する斧の刃を短剣で斜めに弾く。野草が千切れ飛び、斧が地面に突き刺さった。
リーダーは腰に提げていた短剣を引き抜く。その動きに、彼方は違和感を覚えた。
――短剣を引き抜いた時、動きが慎重になった。刃に毒を塗ってるな。
彼方はゆっくりと右に移動する。かさかさと足元の野草が揺れる。
「グゥルルル」
リーダーはしゃがみ込むように姿勢を低くして、じりじりと彼方に近づく。
農場から聞こえてきたゴブリンの鳴き声と同時に、リーダーが一気に動いた。右のつま先で地面を蹴り、短剣で彼方のノドを狙う。
彼方は頭を下げると同時に前に出て、リーダーの腹部を機械仕掛けの短剣で斬った。
「ギャアッ!」
リーダーは悲鳴をあげながらも、短剣を斜めに振り下ろす。その攻撃を彼方は左の手にはめた銀の腕輪で受けた。
キンと甲高い金属音が響く。
呆然としたリーダーの左胸に、機械仕掛けの短剣が深く突き刺さる。
「ゴッ…………グ…………」
リーダーは口をぱくぱくと動かしながら、野草の上に倒れた。
「ふう…………」
彼方は溜めていた息を吐き出し、額に浮かんだ汗を拭った。
――戦闘に慣れてきた今の僕なら、この程度のモンスターは余裕をもって倒せる。再使用時間のこともあるし、カードはなるべく少なめに使うようにしないとな。
「やったにゃ、彼方」
ミケが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「このゴブリンは、きっと、リーダーにゃ。リーダーを倒すと金貨一枚もらえるのにゃ」
「ラッキーだったね。普通のゴブリンも二匹倒せたから、これで、僕たちは金貨一枚とリル金貨一枚もらえるよ」
「ってことは、ミケと彼方で分けるから…………一人リル金貨四枚だにゃ」
「一人リル金貨五枚と銀貨五枚だよ」
彼方は苦笑しながら、視線を農場に向ける。
――あっちも戦闘は終わったみたいだな。誰も死んでなければいいんだけど。
「あーあ。金貨一枚取られちゃったか」
突然、背後から少女の声が聞こえてきた。
振り返ると、シーフのレーネが立っていた。レーネはショートボブでスレンダーな体型をしたDランクの冒険者だ。服はセパレートタイプの革製で腹部の肌とへそが見えている。
レーネは彼方の足元に倒れているリーダーを見て、頭をかいた。
「もしかして、最初からリーダーを狙ってたの?」
「いや、偶然だよ」
彼方は笑いながら、レーネの質問に答えた。
「この場所にいれば、逃げてくるゴブリンを倒せると思ってね」
「そこに大物がやってきたってわけか。運がいいじゃん」
レーネは人差し指で彼方の胸を突く。
「こっちはゴブリン四匹ってところかな。ザックとムルが十匹ずつぐらい倒してればいいんだけど」
その時、彼方たちの前に、手負いのゴブリンが現れた。
「銀貨五枚発見っ!」
レーネは素早くナイフを投げた。そのナイフがゴブリンのノドに突き刺さる。
ゴブリンはノドを押さえたまま、ぐらりと倒れた。
「たしかに、この場所は悪くないね。最初から、私もこっちにいればよかったかな」
そう言って、レーネはピンク色の舌を出した。