決着
◇◇◇
【呪文カード:無限の魔法陣】
【レア度:★★★★★★★★★★(10) 属性:無 対象に最大級のダメージを与える。この呪文を使用した場合、新たなカードを2日間使用することはできない。再使用時間:30日】
◇◇◇
ザルドゥの周囲に黄金色に輝く魔法陣が無数に出現した。直径五十センチ以下の小さなものから、直径十メートル以上の大きなものまである。
魔法陣はザルドゥの足元にも描かれていた。その魔法陣から漏れる光がザルドゥの動きを封じていた。
ザルドゥの目が大きく開く。
「こ、これは上位呪文か!? 召喚師が使えるわけがない」
「僕は召喚師なんて言った覚えはありません」
彼方は冷静な声で言った。
「この呪文は僕が使える最強呪文です。対象の動きを封じて、無数の魔法陣が無属性の呪文を放ちます。この通り、発動は遅いですが、あなたが逃げることはできない」
「…………グッ! まっ、待て!」
「もう遅いです。あなたは多くの人間を殺してきたんですよね? それなら、自分が殺されることも覚悟しておかないと。それに…………」
氷のような冷たい視線で彼方はザルドゥを見る。
「弱い者は殺していいんですよね?」
「あ…………ぐっ」
ザルドゥの顔が恐怖で歪む。
無数の魔法陣の輝きが増し、その中心部から放たれた金色の光がザルドゥの体を貫いた。
「ガアアアアアッ!」
ザルドゥの皮膚がぼこぼこと膨らみ、その部分から青紫色の血が噴き出す。
「そ、そんな。我が…………死…………」
驚愕の表情を浮かべたまま、ザルドゥの巨体が爆発した。
周囲に肉片が散らばり、床が青紫色に染まる。
「終わった…………か」
彼方は溜めていた息を吐き出した。
「彼方様」
魅夜が彼方に歩み寄る。
「お怪我はありませんか?」
「僕は平気だよ。遠距離から魔法を使っただけだしね。で、トロスは?」
「殺しました」
魅夜は数十メートル先で倒れているトロスを指差す。
「斧使いの軍団長が言ってたように、戦闘力はたいしたことありませんでしたね」
「彼方っ!」
ティアナールが息を弾ませて、彼方に駆け寄った。
「サキュバスの女を逃がした。すまん」
「問題ありません。ザルドゥも死んだし、結界も消えたはずです」
「そうだな。これで、この迷宮から脱出できる」
ティアナールは額に浮かんだ汗を拭う。
「それにしても、ザルドゥを倒すとはな。お前はヨム国の…………いや、ジウス大陸の英雄になれるぞ」
「英雄…………ですか?」
「ああ。ザルドゥ討伐は、四国家の共通の悲願だったからな」
ティアナールはじっと彼方を見つめる。
「…………ここまでお前が強いとは思わなかったぞ」
「僕、強いんですか?」
「当たり前だ。たったひとりで魔神を倒したんだからな。ある意味、万の軍勢より、お前のほうが強かったととも言える」
「…………そうですか」
彼方は持っていた機械仕掛けの短剣を見つめる。
――カードの力がなければ、僕はすぐに死んでいただろう。普通の人間が勝てるような相手じゃなかったし。
背中に滲んでいた汗が冷たくなっている。
――まだ、安心する状況じゃない。結界の上にもモンスターたちがいるだろうし、無限の魔法陣の効果で、二日間、新たなカードが使えなくなっている。魅夜と手持ちの武器でなんとかしないと。
「ティアナールさん、急ぎましょう! スケルトンの召喚時間はガデスと同じ八時間だから、もうすぐ消えるはずです」
「消えるって、スケルトン全てがか?」
「はい。だから、消える前にスケルトンの力を使って、少しでも多くのモンスターを倒しておきましょう」
彼方は唇を強く結んで、視線を高い天井に向けた。