コンボ発動
三百枚のカードが彼方の周りに現れた。
彼方の指が一枚のカードに触れる。
◇◇◇
【召喚カード:死者の王 ガデス】
【レア度:★★★★★★★(7) 属性:闇 攻撃力:4400 防御力:1000 体力:2000 魔力:3500 能力:ガデスに殺された者はスケルトンとなる。召喚時間:8時間。再使用時間:20日】
【フレーバーテキスト:死者の王ガデスによって、アルの町は一夜にして死者の町となった。あの町に近づいてはならない】
◇◇◇
白い光が輝き、彼方の前に黒色のローブをまとった骸骨が現れた。背丈は二メートル、眼球はなく、洞穴のような眼窩の奥に赤い光が見える。全身の骨は人間の骨とは多少違っていて、そのパーツは太く、指は二倍以上の長さがあった。あばら骨の中には肉はなく、左胸に赤黒い心臓が浮かんでいる。
骸骨――ガデスは剥き出しの歯を開いた。
「マスターよ。命令を聞こうか」
しゃがれた声がガデスの口から漏れる。
「ちゃんと僕の命令を聞いてくれるみたいだね」
彼方は胸を撫で下ろした。
――よかった。イラストとフレーバーテキストで危険なクリーチャーかもって警戒してたけど、問題なさそうだな。攻撃力は魅夜の六倍以上だし、魔力も高い。召喚時間が八時間と短めなのが欠点ってところか。
「命令は簡単だよ。このダンジョンには、僕を殺そうとするモンスターがたくさんいるんだ」
「そいつらを殺せばいいのだな?」
「…………うん。そして、君の眷属であるスケルトンを増やして欲しい」
「カ、カカカッ!」
ガデスはカチカチとを鳴らして笑った。
「なんと、甘美で心躍る命令だろうか。それでこそ、我がマスター。気に入ったぞ」
「できる?」
「もちろんだ。では、まず、そこのエルフからいくか」
その言葉にティアナールの顔が青ざめる。
「おいっ! 私は彼方の味方だぞ」
「そうなのか?」
ガデスの質問に、彼方はうなずく。
「僕の味方は、君と魅夜、そして、ここにいるティアナールさんだけだよ」
「ならば…………」
その時、階下に鎧を着た二匹のモンスターが現れた。猪のような頭部をしていて、手に剣と盾を持っている。
それを見たガデスが動いた。滑るように階段を下り、長い爪でモンスターを攻撃する。
モンスターは盾でその攻撃を防いでいたが、ガデスから染み出した黒い霧がモンスターの動きを鈍くした。
数十秒で一匹の心臓が貫かれ、その数秒後に残った一匹も首を叩き折られた。
ガデスは首だけを動かして、階段の上にいる彼方に視線を向ける。
「こいつらは殺していいのだな?」
「もう、殺してるじゃないか」
彼方は眉間にしわを刻む。
「…………でも、問題ないよ。僕が望んだことだから」
ゴボ…………ゴボ…………ゴボ…………。
突然、モンスターの死体から不気味な音が聞こえてきた。モンスターの肉が溶け、周囲に黒い煙が立ちこめる。
やがて、死体が消え、その場に二体のスケルトンが現れた。スケルトンに皮膚や肉はなく、骨は青白く光っていた。
「カードに書かれていた能力通りか」
彼方がスケルトンに近づくと、彼らは片膝をついて深く頭を下げた。彼方を仕えるべきマスターだと認識しているようだ。
ティアナールが彼方のシャツの袖を掴んだ。
「彼方、お前はアンデッド系のモンスターを三体も召喚できるのか?」
「いえ、召喚したのは、ガデスだけです。二体のスケルトンはガデスの能力で生まれたものです」
「ガデスの能力?」
「ガデスが殺したモンスターは味方のスケルトンになるんです」
「こいつにそんな能力があるのか?」
ティアナールは薄気味悪そうにガデスを見る。
「はい。ガデスがモンスターを殺せば殺すほど、こっちの味方は増えるってことです」
「そんな恐ろしいモンスターを召喚できるとは…………」
「まあ、★七つのレアクリーチャーですから」
――って、そんな説明をしてもわからないか。
彼方はカードリストを呼び出す。
宙に浮かんでいる召喚カードの上部には、全て×印がついていた。
――ゲームでは、カードから場に出せるクリーチャーの数は基本的に二体だった。この世界でも、それは同じってことか。クリーチャーが破壊されたら、また別のクリーチャーを呼び出せるようになるはずだけど、このことはしっかり覚えておかないとな。
視線をアイテムカードが並んだ左方向に向ける。
――アイテムカードは場に三枚まで出せた。ゲームと同じなら、あと一枚出せるはず。呪文カードは無制限に使えるけど。
彼方は左上にあるアイテムカードを選ぶ。
◇◇◇
【アイテムカード:異形の銅像】
【レア度:★★★★★(5) 味方である攻撃力300以下の闇属性のクリーチャーを強化する。具現化時間:24時間。再使用時間:10日】
◇◇◇
カードが輝き、目の前に人型の銅像が現れた。高さは三メートル近くあり、腕が四本あった。その四本の手が赤紫色に輝く宝珠を掴んでいる。
ぼんやりと輝く宝珠を見て、スケルトンたちの体が変化した。骨の鳴る音とともに、その腕が銅像と同じように四本になった。
「なっ、何だ、これは?」
ティアナールが異形の銅像を指差す。
「闇属性のクリーチャーを強化するアイテムです。スケルトンは攻撃力が低くて弱いクリーチャーだけど、このアイテムがある限り、その力は倍になります」
「そんな力が、この銅像にあるのか…………」
「ゲームと同じ効果ならですが」
彼方は視線を動かして、周囲を確認する。
――この場所は悪くない。階段の上の扉は結界で開かないみたいだし、少し広くなっていて、ここに入ってこれる入り口は一つだけだ。そこを監視しておけば、銅像が壊されることもないだろう。
「ティアナールさん、魅夜といっしょに入り口を守ってもらえますか」
「守る? ザルドゥの側近のトロスを倒しに行くんじゃないのか?」
「その準備です。まずは、一万匹以上のモンスターをなんとかしないと」
彼方はガデスに向き直る。
「ガデス、君とスケルトンは攻撃担当だ。まずはこの近くにいるモンスターをどんどん倒して僕たちの仲間を増やしていこう」
「…………承知」
ガデスの眼窩の奥にある赤い光が輝きを増した。