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エピローグ

「あんたがお酒飲める人でよかったわ」

「私は酒に飲まれてしまうほうだけどね」

「え、マジ?」

「ふっふっふ」

「いやちゃんと否定しなさいよ、一応あたしより年上でしょ」


 宿場町の夜、宿の食堂にはエミリとアストリッドがいた。

 お酒を飲むから先に寝てて、と言ってニナを部屋へと戻し、ふたりはここに残ったのだ。

 ちなみにいえばエミリは16歳、アストリッドは18歳だが、お酒を飲んでいい年齢などは法律では決まっておらず、非常に緩い感じで提供されていた。

 ふたりは果実酒の入った酒杯(ゴブレット)で乾杯をし、一口ずつ口に含んだ。


「さて……今日ここに来てもらったのは他でもないわ」

「ニナくんのことだろう?」

「わかってるなら話が早い」


 うなずいたエミリと、アストリッドはほぼ同時に、


「「あの子はヤバイ」」


 と声をそろえた。


「魔力筋の存在なんて机上の空論扱いだったのにその存在を見せるどころかあたしの魔法の才能を開花させたのよ!? あたしなんてこの問題に何年も取り組んで全然解明できなかったのに!」

「それを言うなら私の発明だってそうだ! 精霊の好みについてなんてエルフの知識の秘中の秘のはずが、彼女はいともたやすくそれを教えてしまった! そして私が何年も取り組んできた発明を完成させてしまったのだから!」


 ふたりは、ふー、と息を吐いた。


「……あの子、自分がどれほど価値のある知識を持っているのかわかってないのよ」

「……私の勘なのだけれど、ニナくんの知識の源は『五賢人』のひとり、トゥイリード=ファル=ヴィルヘルムスコット様ではないかと思われる」

「!」


 エミリが目を見開く。


「そ、それなら……森の最奥に住むというハイエルフが知る、魔力筋について教わったことともつじつまが合うわ……」


 トゥイリードは多くを語らない人物であったが、自身がハイエルフであることを否定したこともなかった。


「問題があるとするなら……トゥイリード様に限らず、ニナくんはそうと知らずに多くの賓客と接点を持って、しかも気に入られていたようなのだ」

「…………」

「彼女が、そんな方々から仕入れたその知識を披露してしまうのは非常に危険だ」

「それだけじゃないわ。ニナのメイドスキルを見た? アレは……はっきり言えば脅威よ」

「ああ、そのとおりだ。彼女の存在を知られ、彼女が正当に評価されたら、彼女ひとりにとてつもない金額を積む王侯貴族が現れてもおかしくない」

「……アストリッドは、そういうお屋敷でニナが働くのがあの子の幸せだと思うの?」

「わからないな……君はどうなんだい? 私より少しは、ニナくんと付き合いが長いだろう?」

「あたしは、ニナがそんな偉い人のところには行かなくていいと思う。だって、ニナ、あんまり話したがらないから……働いてたお屋敷のこと。なんでも、濡れ衣を着せられて辞めさせられたみたいで」

「ふむ……道理で。彼女ほどのレベルのメイドならば、どんな雇用主でも手放したがらないはずだ。それなのに使用人の案内所に来たのが不思議だったんだ」

「ニナのスキルを嫉妬したヤツがいたのかしら」

「あるいは、ニナくんを正当に評価できない雇用主だったか……」

「まさか! あの子ほどの逸材を見逃すなんてよほどのマヌケじゃないとあり得ないわよ」

「それもそうだね」


 ふたりはうなずいて酒杯に口をつけたが、真実はその「まさか」なのだった。

 マークウッドはこの時間、新たに買い込んだ壺を眺めてうっとりしていた——その大半が贋作なのだが。

 今やマークウッド伯爵は、贋作だろうと買ってくれる金づるとして、多くの美術商の注目の的なのである。


「あたしは今は、ニナの好きにさせてあげたい。あの子はあたしの恩人だから、その恩を返したいし……まあ、結局のところあの子はお屋敷で働きたいのかなって思うんだけど、そう決意するまでのつなぎ(・・・)でもいいから」

「私も同じ気持ちだよ。それに彼女といっしょにいるとインスピレーションが湧きそうでね」

「……それじゃ、あたしたちは『同じ思いの同士』ということでいいのかな?」

「いいとも」


 ふたりはもう一度、杯と杯をぶつけた。

 こうしてエミリとアストリッドによる同盟が組まれた。

 それは、


「ニナが妙なことをやらかして、面倒ごとに巻き込まれないようにしようね!」

「ああ!」


 ——ということを目的とした同盟だった。

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