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ダンジョンに似つかわしくない人たち(スーツのオッサン含む)

本日2回目の更新です。

 相模大野ダンジョンは10年前のダンジョン出現後、真っ先に発見されたダンジョンのうちのひとつだ。

 自衛隊基地や米軍基地がそう遠くないところにあったこともあり、調査が始まったのも早かった。

 1〜4層までの浅層は攻略されつくしており、ダンジョン内の地図もネットにアップされているほどである。


「……ウチといっしょだなぁ」


 静まり返った1層の雰囲気は、うちの裏庭によく似ている。

 地層によって壁の色や通路の造りが違ったりすることもあるようだけど、ここはウチの裏庭ダンジョンと同じだ。

 1層にはモンスターがいない、というハゲマッスルマンの言葉を思い返し(せっかく忠告してくれた人にこの呼び名はなんなんだよという感じではあるけど、そもそも名前を知らないんだからしょうがないよな)、俺は強気で歩いていく。

 道の幅や小部屋の感じを確認するが、ウチのと変わらない。

 小部屋をのぞいてみるけど、やっぱりなにもなかった。


「こんにちはー」


 声を掛けられてびくりとして振り返る。さっきからそればっかりだな、俺は。


「こ、こんにちは」


 そうだった。ダンジョン内では人間と出会ったら「こんにちは」と声を掛け合うことが義務づけられているんだった。

 モンスターは人語を解さないのでこれでモンスターか人間か区別ができる。

 登山のマナーかよって思ったのはナイショだ。


「え、ってか、スーツ? ダンジョンのことめっちゃナメてる。ウケる」


 10代? と思ってしまうほどに若い女の子3人組だった。

 だけど彼女たちの装備はちゃんとしていて、ハゲマッスルマンと同じような防刃ジャンパーに、ジーンズ。要所にはプロテクターも身につけている。

 だけどまあその派手なこと。

 プロテクターにはラメやシールがついていて、ジャンパーには缶バッジだ。

 コスプレにしか見えないけど、左右に差している剣鉈や、ひとりが背負っているバッグから飛び出したナイフの柄のようなものを見る限り、俺よりはしっかりしたマイナーのようだ。


「ちょっと瑠璃。失礼過ぎよ」

「いや〜、だってさ、ウチらだってさんざん『ガキがダンジョン来んな』って言われてんのに、このおじさんなんてスーツだよスーツ」

「ご、ごめんなさい。この子、悪気はないんです」


 謝られるけれど、言われていることはもっともだ。


「あ……いや、いいんだ。事実だしね。今日はライセンスとったばかりで様子を見に来ただけで。君たちは帰りかい?」

「はい。あんまり遅くならないうちに帰らないと、家族も心配するので」


 この子がリーダーなのか、俺に「こんにちは」と声を掛けてきた女の子は礼儀正しい。

 逆にざっくばらんな子は金髪で、ガムまで噛んでいる。

 もうひとりはちびっ子だけれど無口だった。


「おじさん、心が広いねえ。ウチらみたいなのに文句つけられたら切れるよね、フツーの男は」

「ウチら、じゃなくてあなただけでしょ……。ほんとにごめんなさい」

「い、いや、いいんだよ……ちなみに収穫はあったのかい? あ、こんなこと初対面で聞いていいのかわからないから、答えたくなければいいよ」


 会社の同僚の松本さんよりもだいぶ若い女の子との距離の取り方がわからん。フレンドリーに接し過ぎると「キモイ」と言われるのは、デザイン学校を出て新卒枠で弊社に入社する20歳の女子社員を見ているとよくわかる。


「マイニングの採れ高を聞くのはマナー違反ではありませんよ。むしろ挨拶代わりに聞くくらいです。日によって魔結晶の出具合も違いますしね」

「そうなんだ」

「ウチらはこんくらいだよ」


 金髪の子が背負ったバッグを前に持ち直して、中身を見せてくれた——そこには口を縛られた袋がある。10リットルのゴミ袋がパンパンというサイズである。


「おお、いっぱいあるね」

「ま〜ね〜。今日は結構採れたほうだよ」


 そのときふと、俺は思いついた。


「……1層には魔結晶がないと聞いていたんだけど、実はさっき通路の端っこにあったのを拾ったんだ。どうしたらいいかな?」

「ああ、誰かが落としたんじゃないですか? 回りに誰もいなかったらもらっちゃっても大丈夫ですよ」

「そ、そうか」


 ホッとした。この言い訳はいけるな。

 今日、俺が魔結晶を持っていっても「拾った」と主張すればいい……明らかに俺、探索する格好じゃないし。


「おじさん、もしかしてネコババ気にしてんの?」

「えっと……うん」

「マジ〜? ピュア過ぎん?」


 すると金髪の子はケラケラ笑ってから、


「そんなに気になるならウチらのといっしょに査定出したげよっか?」

「ちょっと瑠璃」

「いーじゃん、小分けにして別々査定もやってくれるんだし」

「ごめんなさい。一応親切のつもりで言ってるんです、この子」

「あ、ああ、いや、ありがたいよ。もしできるならお願いしたいけど……いいのかな?」

「いーよいーよ。ウチに任せてよ。それじゃ魔結晶出して」


 瑠璃、と呼ばれているからにはこの金髪の子はそういう名前なのだろう。

 俺は一瞬迷ったけれど、変に目を付けられるよりはこの子たちに乗っかったほうが楽だろうと思って、スーツの内ポケットに忍ばせておいた——ハンカチにくるんだ魔結晶を取り出した。

 紫色の怪しい光が、放たれる。


「じゃ、これ」

「…………」

「…………」

「…………」


 すると女の子3人組はぴたりとその動きを止め、ハンカチに載った魔結晶を食い入るように見つめた。

 ……え?

 なに?

 なんかマズいことしたか?

 ハンカチがダメとか? いや、さすがにそれはないよな。


「……純度、ヤバイ」


 無口の子が初めてしゃべった。

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