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たった1日で2,400万円!

ごめんなさい、ちょっと短いです!

「気をつけていればたいていのマイナーは死なない。気をつけないヤツだけが死ぬんだ……まあ、この状況だと夢を見るヤツも多いけどな」

「この状況って?」

「ざわついてるだろ」

「ええ……夜なのに結構人もいるんだなって」

「さっき、ここ相模大野ダンジョンのエースチーム、『人生バラ色』が大量の良質な魔結晶を持ち帰ったんだよ」

「『人生バラ色』て」


 すげえチーム名。


「名前はふざけてるけど実力は確かでな。異能持ちだけで構成された12人のチームで、9層まで潜ったそうだ。9層だとほとんど手つかずだからなー。NEPTへの売却価格で2,400万だってよ」

「にっ……!?」


 たった1日で2,400万円!

 それは確かに夢見ちゃう。


「ま、9層なんて行けるヤツは命知らずだけさ。命をベットにした賭けだから、『人生バラ色』も疲れ切ってたよ。アンタは、そんな分の悪い賭けをしないだろ?」


 ぽんぽんと俺の肩を二度叩いてハゲマッスルマンは去って行った。

 ……いい人だなぁ。

 俺は奥へと歩いていき、電車の改札みたいなところでライセンスをかざした。ピッと音がしてゲートが開くと、上部のモニターに「月野宏 20XX年11月15日 22:19:32」という表示が現れた。

 ゲートの横にはカウンターもあるのだけど、そこはカラッポだった。NEPTの社員は9時5時で退社できるのかもしれん。


「では、行ってみますか……」


 俺は廊下を先へと進んだ。

 ダンジョンには24時間までしか滞在できない決まりがある。

 これはなぜかと言えば、24時間の限定がなかったころ、長時間滞在して深層に潜ろうとするマイナーたちの死亡事故が多かったからだ——とさっきのNEPTセミナーでも言っていた。

 長時間の滞在で注意力も散漫になり、「ここまで潜ったのならもう少し持って帰りたい」という欲望も増すので、死亡につながりやすいのだとか。

 人間てのは欲深い生き物だよ。


「お?」


 通路の先には「入口」「出口」と書かれたふたつのゲートがあった。そこにはNEPTの職員がいる——「出口」のほうはなんか空港にあるような金属探知センサーみたいになっている。

 俺は「入口」を通りながらたずねる。


「あの……そっちの出口はなんなんですか?」

「ん? 君、初めて来たの? 出口は魔結晶を所持してないか確認するセンサーがあるんだよ。持ち出して、闇ルートで売る……みたいなビジネスもあるみたいでさ。その対策。君、中で魔結晶を見つけても間違ってもこっそり持ち出しちゃダメだよ? この敷地外で魔結晶を持ってることがわかったら、問答無用で執行猶予なしの懲役刑だから」

「は、はい」


 身体中から汗が噴き出た。やべーじゃん。同じ違法所持でも銃刀とか麻薬どころの騒ぎじゃないじゃん。

 どうしよ。俺魔結晶持ってきたんだけど、もうここで売るしかないってことだよな? もちろん、売るつもりでは来たんだけど。

 よく見ると職員のいるカウンターの裏手にはドアがある。そこで魔結晶の査定をするんだろうか。


(とりあえず深呼吸だ、深呼吸)


 俺はすぐそこにある、ダンジョンの入口に立った。

 どのみちここまで来たら売るしかない。

 うちの裏庭の入口はひとりが通るのが精一杯って感じだったけど、ここは拡張されているのか、数人が通れるようになっている。

 地下4、5メートルのところまでLEDの明かりが点いていて、その先には明かりがなにもない。わかりやすいほどにダンジョンだった。電気製品大嫌いのダンジョンちゃんである。

 俺はバッグからオイルランタンを取り出した。

 火を入れて、ゆっくりと下りていく——LEDライトがなくなったところで空気が変わるのを感じた。


「マイナーさん」

「ひっ」


 後ろから声を掛けられてびくっとした。

 さっきの職員の人がいた。


「な、なんですか」

「タイマー持った? 一応、24時間で帰って来ないと失踪・行方不明の判定されちゃうからさ」


 職員の人がカウンターから出てきて腕時計みたいなのをフリフリしている。


「……なんですかそれ?」

「タイマー。機械式。大雑把にしか測れないけど、1回500円で貸し出してるよ」

「えっと……すぐ戻ってくるつもりなんです。遅くても終電までには」

「うん。まあ、それじゃあいいかな」


 職員はタイマーを引っ込めるとつぶやいた——ダンジョンは自己責任だからね、と。

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