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「年収120億円計画」

 クソ悪夢を見た。ラミアに追いかけ回されて、散弾銃を撃とうにもセーフティを外し忘れるし、弾丸を入れ忘れるし、撃っても外した。

 目が覚めて汗びっしょりだった。

 この悪夢のなにがイヤだって、半分が事実だったことだ。恐ろしい。


「ひっ!?」


 ふと見るとベッドに横たわる黒光りして長い……散弾銃が!?

 危なすぎる。

 俺なにやってんだよ。


「使い終わったらすぐガンロッカーに入れなきゃ」


 弾丸が入っていなかったとはいえ、なにをどう間違って問題が起きるかわからないからな。


「さて……それじゃこれからの計画を更新(アップデート)しよう」


 朝食を済ませ、テーブルにノートパソコンを置いた。

『年収120億円計画』と銘打った頭の悪そうなファイルを開く。


「ラミアは散弾銃で撃退可能。しかも入口まで戻れればラミアは接近できないみたいだった。ということは……極めて安全に戦えるってことだな」


 第1層の広さがわからないし、どんなモンスターがいるのか、そもそも他にもいるのかさえ不明だが、最初の目標は第1層の解放だ。

 殺せばモンスターは再度出現しない。それが第1層のはずだ。なんで高濃度の魔結晶があるのかは知らないけど。


「よし……それじゃまずやるべきは、と……」


 俺は軽トラに乗り込む。


「射撃場へ行くぞ!」


 伊勢原市のなにがいいかって、射撃場があることだよな。

 クレー射撃ができる神奈川県内の射撃場は数えるほどしかない。しかも伊勢原なら50メートルの標的射場もあるのでスラッグ弾の練習もできる。

 そう——俺は、ダンジョン内で違法に消費するスラッグ弾の、カムフラージュのために射撃場へ向かったのだ。

 弾丸は1発ずつすべて管理しなければいけないので、猟期でもない時期にスラッグ弾を消費していたら「違法に撃ってます」と自己申告しているようなものだ。

 あと、俺も銃を撃つ練習をしなきゃ。




 それから1週間掛けて、俺は第1層の掃討に成功した。

 ラミアに襲われること2度、巨大コウモリみたいなのに1度、山犬みたいなのに4度あったけれど全部返り討ちにした。

 うん、入口まで逃げて、安全圏からな。

 いやほんと無理。動いてるのに当てるの無理。射撃場だと的の真ん中にバスバス当たって「俺うまくね?」って思ってたけど、動いてるのは無理だった。

 コウモリに至っては「これもスラッグ弾じゃなくて散弾のほうがよくね?」って思いながら撃ってたもんな。


「とはいえ……なんとかここまで到達した」


 魔結晶の部屋で座り込む。

 手元には散弾銃と、マッピングシート。この第1層には小部屋が5つ、通路を全部走っても10分ほどで踏破できるほどの広さしかなかった。

 魔結晶があったのはこの部屋だけだけどな。


「ふ、ふふふ……」


 俺は小山になっている魔結晶を両手につかむ。


「ふははははははははは! 取り戻した! 取り戻したぞぉー! やったぜ! これで俺は遊んで暮らせるのだー!


 と、映画に出てきたら100%その後のシーンで死ぬ脇役みたいなこと言っていたら、


 ——ガサッ。


「ひぃぃっ!?」


 変な音がして魔結晶を放り出してしまった。

 見ると、そこにあったのはずいぶん前にここでビールを飲んでいたときに、つまんでいたポテチのビニール袋だった。


「ちょ……びびらせないでよ……」


 置いたのは俺だけどな。




 年収120億円計画のファーストステップである、「第1層制圧」はなんなくクリアできてしまった。

 全3ステップのうち、もうひとつめが終わったぞ。

 もはや年収40億円くらいあるのでは?


「バカ言ってないで次だな、次」


 セカンドステップは「一般ダンジョンの深層に到達する」だった。


「……いきなり難易度あがるよな」


 もしやこの計画、ガバガバなのでは。


「いや、そんなことない。魔結晶を売るのはダンジョンの買い取りカウンターで、と決めたんだ」


 闇ルートの売買は怪しすぎるからナシ。

 大体、いきなり俺が金を持ち始めたら、「あいつどうやって……?」と国税庁の皆さんが興味を持ってしまう。

 ダンジョン換金なら、非課税だし、クリーンだ。

 裏庭ダンジョンは隠すが、魔結晶はオープンにする。これよこれ。


「そのためには高濃度魔結晶を持っていてもおかしくない、深層に行くしかない」


 魔結晶は一度採っても再出現(リポップ)するらしいが、その規則性や法則はわかっていない。

 また深層のほうが探索も手つかずで魔結晶の数が多く、品質もよい、というのは定説中の定説だった。


「だけどひとりで、か……」


 チームを組めば、売る段階で取り分が減ってしまうし、どこで俺が魔結晶を見つけたのかという話になる。

 必然的にソロでやるしかない。

 年収120億円の道は険しいのだ。

 いや、まあね、あの魔結晶全部売ったら120億円なんて軽く超えるかもしれんし、第2層がどうなってるかもわからんし、大体それぞれダンジョンは多くのマイナーが潜るからこそ120億円相当の魔結晶を採掘できてるから、俺がダンジョンをひとつ持っていても年収120億円にならないってことはわかってる。

 わかってるんだけども。

 最初こそ「頭悪そうだな……大丈夫か、俺?」と思っていた「年収120億円計画」というフレーズがちょっと気に入りだした。


「……習うより慣れろ。案ずるより産むが易し。『Well begun(始めよければ) is half (半分できたと)done.(同じ)』だな」


 深層とやらがどれくらい厳しいのか、まずは行ってみなければわかるまいて。

 トラウマ必至のラミアみたいなのが出てきたらあきらめる可能性が高いけど、とりあえず相模大野ダンジョンへ行ってみよう。

タイトル回収……にはほど遠いですが、月野にとっては確実な一歩を踏み出しました。



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