俺が今の俺になった訳
処女作です。
忌憚のない意見をお願いします。
俺がどう言う存在なのかそろそろ教えてくれ?
うーん……まあいいか。
ちょっと突拍子のない話だが聞きたいなら話そうか。
実は俺はある時までこの世界とは別の、かなり平和な世界のその中でも更に平和な国で学生をやってたんだ。
そこで平和な日常を過ごしてた俺はある時友人を車っていう鉄の馬車から身を呈して庇って死んでしまったんだ。
今の俺からは信じられないって?
ははっ、そうだろうけど学生をやってた俺は普通の一般人だったし、向こうはここと違って魔物なんかがいないから一般人が戦うこともないしでかなり貧弱なんだよ。
まあそれで俺は死んでしまった訳なんだが、ふと気付くと壁や天井どころか床すら無い真っ白な世界にいたんだ。
最初は混乱したんだが当時その世界の小説では神によって死者が異世界に行くって物語が流行っていてね。
もしかしてと思ったのさ。
そうしたら姿がはっきりわからない、だけど自然と平伏したくなるようなオーラを放つ存在が現れたんだ。
それが神だったのかって?
そのオーラは正直それまで神なんて露ほども信じてなかった俺が直ぐにこれが神なのかと納得してしまうほどの存在だったんだ。
そしたらそんな俺の心を読んだのか何も言ってないのに、それが自分から言ってきたんだ。
『我はそなたら人間が言うような神ではない。だが我の力とこれから行う事はそなたが思う神と相違ない。つまり我は神のようなものだ』
ってな。
一瞬どう言うことか分からなくて戸惑ったけど要は異世界に連れてってくれるって事だと理解した。
そう思い至った瞬間とても興奮したがしかし、一応確認をさせてもらったんだ。
俺はそのまんま送られるのかと。
さっきも言ったがこっちの世界と比べてあまりにも平和すぎて体が貧弱だし、空気の配分とかそもそも体の構造が違ってて生きていけないなんてことがあったら嫌だったからな。
そしたらある程度この世界で生きていける俺の希望に沿った体を用意し、不具合の無いようにした魂をその体に入れてくれると言う。
だから希望を教えろ、とも。
当時そんな小説を纏めて異世界モノって呼んでたんだが、俺は先ず異世界モノの定番だった魔王は居るのかと聞いた。
向こうの世界で言う魔王ってのは要は危険で滅茶苦茶強い化け物ってことが多くてそれを倒さなくちゃいけない話が多かったんだが、流石に自分がやるのはごめんだったからな。
まあそんなのは当時はいなかったんだが。
そして次に言葉や文字の読み書きは大丈夫なのか聞いたら、俺の元いた世界と同じだと言う。
まあ俺の世界もそうなんだが国や場所によって言語も違ったりするんだが俺の分かる言語が使われる国に送るから大丈夫だと言われた。
それならと俺は異世界を見て回ってみたかったんだが、あまり勉強が得意じゃなかったし記憶力にも自信が無かったからどうにか出来ないか尋ねた。
図々しくなってないかって?
俺もそう思うんだがあの時はテンションが上がってて異世界に思いを馳せていたから気付いていなかったんだよなぁ。
まあ冷静になってても今の状況を改善できたかは怪しいんだけどな。
そうしたら今君がいるここ、俺の中に俺が見たり聞いたりした記憶を向こうの世界の分も含めて本にして蒐集し、何時でも閲覧出来る図書館を作るって言われたんだ。
便利そうだから即答したのを覚えてるし実際便利だった。
予想外の形だったんだが。
次に気になったのは魔法だ。
俺の世界には無かった魔法があるのも異世界モノの定番でね、確かめずにはいられなかった。
そしたらあると教えられたんだがこの世界の魔法は自然に多く含まれる魔素を魔法陣を使って集め、現象を起こすものだから魔法陣を図書館に頑張って集めろ、と言われてね。
まあ甘えすぎたしこれ位は妥協しようと思って次に気になってたことを聞いたんだ。
それは魔物の存在だ。
それ自体は魔王の有無を聞いた時に教えてもらったんだが魔物の定義も小説によって違ったりするからこの世界の魔物がどんなのか聞いたんだ。
そして強さは様々であちこちにいて害獣のようなもので冒険者みたいに倒す専門家がいる。
だから俺も戦う機会が有るだろうから戦闘技能があった方がいいって教えてもらったんだ。
それを聞いて俺が要求したのは先ずは頑丈な、その辺の魔物の攻撃にも耐えられる体だ。
神擬きは問題無く実現出来ると言った。
まあ間違っちゃいなかったな。
何も嘘を言ってはいなかった。
だが今の俺の現状を鑑みると詐欺臭いと思うがな!
とはいえ大事だし、実際思ってた以上に頑丈になってて驚いたよ……勿論皮肉だけどな。
まあいいや次に俺は戦ったこともないから当然武器を使う技術を何も知らないから扱いやすそうな鈍器系の武器とそれを扱える能力が欲しいと言った。
まあこれも便利だ。というかこれを頼んだ当時の俺を俺は手放しで賞賛してもいいと思うくらいだ。
これが無きゃ今みたいにお前と会うことも出来なかった。
最後に戦ったことがないから戦闘での恐怖とか血の匂いとかで吐いて動けなくなったりしないように精神的にも強くして欲しいと頼んだ。
これはある意味失敗したと思っている。
これがなければこうして君と話すことも出来なかっただろうが、これのせいで!これがなければ!と、どれほど後悔したことか。
まあとにかくそれらの要求をして問題無く送れると聞いた後は送られる場所とか周辺の情勢とか色々聞いて、つい忘れてもここでの出来事も図書館の本で読み直せると聞いて安心してこの世界に送られたんだ。
とまあ今の俺が出来るまでの流れだな。
─────どうだ?この流れで崖になるって想像できたか?
驚くよなぁ。俺もびっくりしたよ。
暫くは神擬きを怨みもしたしどうにかならないか頑張ったよ……。
だが俺に与えられたのは俺の内部に空間を捻じ曲げて存在する図書館ととても頑丈な断崖絶壁にその一部を崩して落とす落石、どんな理屈かは分からないが俺の上と壁面全体からの視覚と絶対に崩壊しない精神だけでぶっちゃけ自分だけじゃ何も出来なかったわけだ。
どれだけ絶望したかは覚えてないんだが神擬きに手を加えられた精神力で狂うことも壊れることも出来ずにいた俺は暫くして諦めた……と言うよりは諦めるしか無かった訳なんだが、まあそのなんだ、ふと思い返すと神は図書館には前の世界の俺の記憶も本として集められてると言ってたことを思い出したんだ。
だから前の世界の本を読み返したり外の光景を眺めたりしてずっとのんびりしてたんだ。
要は引きこもりだな。
何せ飯も睡眠も取らなくて良くて新しい本が読めずとも読んだことがある本なら全部読めて、何なら動画や音楽も図書館は再生させられたんだ。
引きこもりの適正が有れば夢のような状況と言っても過言ではないぞ。
そうやって引きこもりライフを満喫していたある日初代魔王と会ったんだ。
そして壁面を文字の形に崩して筆談をし始めて、この世界と俺の世界の知識を交換したり一緒に研究したり色々やってきた。
魔王が死んだ後は、魔王が遺した資料から俺を見つけた奴や偶然ここに来て俺の興味を引いた奴らが来ては俺の持つ過去や異世界の知識を与えられる代わりに新しい本を持ってきた。
そうやって知識を渡した奴らが成功していって、いつしか「叡智の崖」「幻の図書館」なんて呼ばれてきたってわけだ。
さて俺の昔話はこんなところでお終いにして、十二代目の魔王よ、お前は俺から知識を得る代わりにどんな知識を俺に与えてくれるんだ?