初恋泥棒×初恋泥棒=
『『ぎにゅああああああああ~!』』
昼休みの中庭に、なんか発情期の野良猫みたいな汚い声が響き渡った。
「何事?!」
どれ、ちょっとだけ屋上のベンチでお昼寝でもするかと、ぶらぶら廊下を歩いていた私の眠気を冷ますのには十分すぎる奇声だった。
折よく窓から中庭を覗き込んでいたクラスメイトに声をかけた。
「山下と藤原」
「名前だけ答えられても事情わからないよ」
あと、学年に複数人いる名前だから、どの山下と藤原か断定できない。
「ひとりはうちのクラスの山下」
「ああ、そっち」
山下君は、軽音楽部の男の子だ。髪を校則にひっかからない程度に明るくしている。人柄もよく、文化祭ではクラスのリーダーをしてくれていた。
「あの山下ってさあ、初恋泥棒なんだよね」
「はい?」
それが、さっきの悲鳴とどう関係あるのだろうか。
「ご近所の子どもが木にかけてしまった風船をとってあげる歴7年な男なんだよ」
「それ、結構レアなシチュエーションじゃない?」
「俺、あいつと中学一緒だけど、一週間に最低二回は木に登ってるとこ目撃してたし」
そこまでいくと、木登りが好きなだけなんじゃないのか。
「俺も、とってもらったことあるんだよね……。 二週間前に」
「なんで風船を木にひっかけたの、高校生にもなって」
「で、もうひとりの藤原は陸上部の」
無視された。
陸上部の藤原さんといえば、ポニーテールがトレードマークの女の子だ。私はあまり喋ったことがないけど、明るくて可愛らしい子だ。
「知っての通り、こっちも初恋泥棒で有名なんだけど」
「知らんわそんなもん」
まあ、確かに健全に可愛い子だから、まあ、何となく分かる気はする。
「足、速いんだよ」
「小学生の理屈じゃん」
「初恋が、保育園の先生でも珍しくないんだから、小学生の論理が当てはまっても変じゃないだろ。 俺なんてドッヂボールが得意で足が速い小一の時の担任が初恋だったんだし」
「ちょくちょくあんたの情報挟んでくるのなんなの」
まあでも、納得。
足が速いお姉さんに、小学生男子ならキュンキュンしても仕方がない(偏見)。
けど、そこに納得したところで、私の疑問はなんも解決していなかった。
「で、それがなんで汚ねえ声を中庭であげあうことに繋がるの?」
今のところ、初恋泥棒ってことしか分かってないし。なんだよこの情報。
「そりゃお前」
クラスメイトが中庭を見下ろす。吊られて私も、目をやるとなんか中庭ではもじもじしてる二人がいた。ここからでも、なんかすでに甘酸っぱい距離感になってるということが伝わってくる。
え、なんの急展開?
「初恋泥棒同士が中庭でぶつかったんだぞ。そりゃ互いに初恋泥棒しあって、奇声のひとつふたつも上がるに決まってるだろ」
「決まってないよ!」
異世界の常識を適応しようとすんなや。
あと、二人とも初恋まだだったのか、さんざん泥棒しておいて。