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未知は明かされるまで賢愚善悪を秘する

多分あのゴーレム、本来であればあの四つ腕からレーザーやらシールドやらを乱射してプレイヤーを近づかせないタイプのモンスターだったのだろう。


「だが奴の不運は、こっちがフルアタッカーだったということだな」


「本来ならそれデメリットのはずなんだけどね」


やられる前にやれ、大体のゲームで通用する最強のタクティクスだ。

イベントボス的なモンスターであったからか、特にドロップアイテムなどはなく、ペンシルゴンが槍を拾い上げるのを眺める。


「それがメイン武器ってやつか?」


「そだよ、これを手に入れるためにそれはもう苦労したんだよ、なにせ……」


「簡潔に頼むよ」


「分隊相手にソロで15キル0デス」


マジかよ、MVPじゃん。

今思えばパワーレベリングの時にちらと見た気がするその槍を器用にくるくると回し、ピタリと止めてポーズを決めるペンシルゴン。


「聖槍カレドヴルッフ、このゲームに五種類しか存在しない「勇者武器」の一つだよ」


なんでも剣、槍、弓、槌、杖の五種類に一つずつしか存在しないというそれは、所有することで特殊な職業「勇者」を獲得できるカテゴリなのだそうだ。

と、そこまで考えて俺は非常に信じ難い(おもしろい)結論に至る。


「……ってことは、お前勇者ってことか?」


副業(サブジョブ)だけどね、メインは魔槍使い」


「こんなのが勇者とかシャンフロ終わったねぇ」


「は? 勇者なんて所詮暗殺者とイコールでしょ?」


今この瞬間「勇者がいっちゃダメなセリフ」ランキングが更新されたよ。ちなみについ先程まで一位だったセリフは「君の為なら僕は世界中の人間を殺してみせる(本当に殺しました)」だ。

正史(ハッピーエンド)がコレなのだからクソゲーは面白いのだ。凄いよね、ラスボス前までは操作性が少し悪いくらいで明るい王道系シナリオの凡作だったのに、いきなりラストで無辜な民相手に無双ゲーかました挙句、今まで関わってきたNPCをプレイヤー直々に一人一人斬り捨てにいかされるんだから。

エンディングのみで一気にクソゲー化した……いやむしろ振り切った邪悪さを持つ神ゲーという意味では邪神ゲーとでも言うべきか。

ちなみに見方によっては神ゲーなそのゲームがクソゲーと評される最大の理由(原因)は「シナリオ終盤まで絆を育んだ可愛らしいヒロインを真っ先に殺してまで裏切った愛を捧げるポッと出のヒロインが絶妙に可愛くない」である。

キャラモデリングが手抜きというか、他キャラのモデリングと比べて明らかに突貫工事で作られた「流し目するゴリラ」相手に愛を捧げなければならないプレイヤーの悲鳴が邪神をクソに叩き込んだのだ。


「いやでも実際、性能面でメチャクチャ強いんだよね「勇者」。デフォルトで残機2みたいなもんだし」


「は? 壊れ職業かな?」


「まぁ勇者武器装備時限定だからそこまで万能でもないんだけど……というかこれどうやって開くのかな? オープンセサミでも唱える?」


それで開くなら苦労はしないんだがな。四つ腕ゴーレムという門番を差し引いても固く閉じられた扉は叩いて開くような脳筋開錠が通じる作りはしていないだろう。

考えられる可能性としてはどこかにある鍵を入手する、なんらかの条件を達成する、ハッキング、C4、リムペット……あれ、これ結局無理やりこじ開けるしかないのか?


「あー、もしかしてこういう時に使うのかな?」


「どうしたオイカッツォ、これは多分ユニークは関係ないぞ?」


「いい加減しつこいんだけどそのネタ」


「墓まで引きずるつもりだが?」


「よっしゃ今から墓に叩き込んであげるよ」


閑話休題。


「トレジャーハンター、というか考古学者系のジョブが共通で覚えられる魔法に【レガシーセンス】ってのがあるんだけどさ、トレジャーハンターにジョブチェンジした時に【ルインズセンス】ってのも習得したんだよね」


遺跡感覚(ルインズセンス)……成る程、こういった遺跡系で使える系の魔法か。

オイカッツォは扉に触れて魔法を発動、扉に触れた手から木の根のように光が扉全体に走り……弾かれる。


「これレベルが高い程成功率が上がる魔法なんだよね、ついでに言えば今レベル1なわけで……」


「つまり?」


「サンラクの天敵、乱数チャレンジのお時間です」


ちなみにオイカッツォ曰く成功率はレベル1で大体15%前後だそうです、大体十回挑戦して八回失敗する可能性があるわけだ。


「はぁぁぁあ…………」


「な、なんか凄い実感のこもったため息ですわ!?」


「昔サンラク君、三週間くらい乱数外し続けたトラウマがあるからねぇ……」


「ミナココロ大戦記」、このゲームにおけるヒロインの病を治すために「仙丹桃」というアイテムが必要になったのだが、それがまぁ出ない。三週間ひたすら挑戦し続けて、休日返上で三徹してようやく手に入れた時は、もうストーリーを進める気力すら削がれていた。

ユナイト・ラウンズみたいな最初から乱数に期待していないゲームならまだいい、だけど普通の乱数なのに延々と外し続けるのは本当につらい。それがストーリーを進めるために必須の要素だった日にはもう、ね。

そんな必須要素を乱数にする辺りが頭悪いクソゲーの特徴であり、なにが言いたいかと言えば何が悲しくて世界を救う戦いの最中に延々と果樹園で桃を育てなければならないのかと言うことであり、しばらく桃を見るたびに頭痛の胃痛と吐き気と寒気を発症するくらいには桃桃桃ももももももももももももももも……

ちなみにこのゲーム、最終的に流し目ゴリラ(ラスボス)にいきなり恋した主人公が仲間を斬り捨てていくというメンタルを粉砕するトドメ付きだ。


ミナゴロシ(・・・・・)大戦記クリア直後のサンラク君はそりゃあもう荒れててね、ハンドガンとスコップだけ持って敵分隊に突っ込んで壊滅させたり、戦車の中にダイナマイト突っ込んで爆発式ミキサーで合挽き肉を作ったりとそりゃあもうバーサークしてて……まぁ見てる分には最高に面白かったよね、うん」


「敵チームのリスポン地点先読みして地雷原でリスキルしてた奴に言われたくないなぁ」


反応式の地雷の中に遠隔操作の爆弾を仕込む辺りが最高にいやらしい。

そんなこんなでわいのわいのしていると、ヴォンッ、と低い電子音と共に扉が開く。


「まぁ、三週間桃農家になってた奴とは運命力が違うからね」


「この野郎……っていうかルインズセンスってのは鍵開けもできるのか?」


「いや、それがどういう仕掛けなのかを見抜く遺跡前提の鑑定魔法というか……っていうかこの扉「稼働する遺機装レガシーウェポン」をを読み込ませれば開くみたいでさ」


あれこそ「作業」の極致だったよ。

嫌な思い出は記憶の隅に掃き捨てて、インベントリアを扉にロードさせたオイカッツォが開いた扉の先に意識を向ける。


「おおすごい、まさにラボって感じだな」


「もう別ゲーレベルだよねぇ」


四つ腕ゴーレムが守り、門が隔てていたその先にあったのは、まさにサイエンスでファンタジーな武器開発ラボ。

所々破損していたりはするものの、殆どが良好な保存状態を保っているこの場所から漂う気配……即ち「アイテムの匂い」はトレジャーハンターではない俺やペンシルゴンでも容易に理解できる。


「よっしゃ家探しだ家探し、魔力運用ユニットってのを探してくれ」


「オッケ、それじゃあそこのアニマル達も散開!」










「ふぅむ……」


視線の先にあるのは「魔力運用ユニット」ではない。何となくタッチパネル式のキーボードに触れたところ、いきなり起動したホログラフィックに表示されたモノに対するものだ。


「なんだっけなこのマーク、ど忘れしたぞ……?」


タコの一番外側の二本以外の触手を抜いたような感じの記号、ええと確か……ああそうだ、これは「Ω(オメガ)」だ。


「大抵切り札とかボス的なものに付けられることが多いがこれは……」


ホログラフィックが形作っているのは少なくともプレイヤーの益になるようなものではなさそうだ。

それをなんと例えれば良いのだろうか、一番手っ取り早く形容するなら「怪獣」だろう。

より人間に近い姿勢の肉食恐竜の上半身に蜘蛛の下半身、怪獣版アラクネとでも言うべき異形の姿はどう見ても味方のそれではない。

ふと思い浮かぶのは地上部分にこれ以上なく存在感を示している人工の背骨と肋骨。あれはこれに対抗するものだったのか? それとも……


「世界観がイマイチ掴みきれないな」


SFを下地にファンタジーが形成されているのは分かるが、何が何やら。

虚像の怪物を眺めて首を傾げていると、別の場所でゴソゴソと漁っていたエムルが声を上げる。


「おねーちゃん! これじゃないですわ!?」


「ん? ちょいと見せてみぃ……おお、これじゃ! これがマリョクウンヨーユニットーじゃけぇ!」


エムルが手渡したフルダイブシステムが完成する前のゴーグルタイプのVRみたいなごついゴーグルを見つめて喜びの声を上げるビィラック、どうやらお目当の必要アイテムは手に入ったようだ。


「これがありゃあわちも神代の武器を識ることが出来る!」


「これでようやくリアクターを修復できるわけだ」


ガシッと、俺の肩をペンシルゴンとオイカッツォが掴む。俺はにこやかにそれを振り払うが、二人も二人でめげずに俺の肩を掴んで……


「ええい離せ! 誰が面倒事に自分から赴くか!」


「やかましい! どうせサンラク君がいたってカスの役にも立たないんだからリアクター修理はそこの黒兎ちゃんに任せればいいでしょ!」


「っていうかいい加減観念しようかサンラク!」


ええい畜生! であるならば死なば諸共だ!


「分かったよ……観念するよ。ただしつい先程コンタクトを取ってきた考察クラン「ライブラリ」とかいうのも巻き込む」


「あっ、こいつ逃げられないと悟るや周りを道連れすることにシフトしやがった!」


「諸々ひっくるめてぜぇんぶペンシルゴンに押し付けたから覚悟しとけよ……!」


「うーわ! あのおじいちゃんまじで根掘り葉掘り聞いてくるんだよ!? なんてことを! なんてことを!!」


言うなれば死球(デッドボール)限定キャッチボールとでも言うべきか。互いに肉を切らせて骨を断つ理論でデメリットを被りつつも自分以外の奴に別のデメリットを押し付ける醜い争いに、俺たちを見るエムルとビィラックは溜息をつくのだった。







アラミースは尻を抑えて悶絶していた、いやお前何してたんだよ。

ちなみにアラミースは転びかけたビィラックを支えようとして尻に触ったために殴られました



Q.勇者武器のくせになんでプレイヤーキラーに所有されっぱなしなの?

A.命を奪わない武器とか武器たりえないので


勇者専用スキル「アンブロークン」

HPが0になった時、「パーティメンバーが0人もしくは3人以上の場合、最大HPの10%を回復して復活する」

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