融通知らずの門番
「とりあえず言いたいことと殴りたいことは多々あるけど、遺言なら今のうちに聞くよ?」
「遺言の内容に困ってるなら俺に任せてよ、それはもう見事な
にっこりと、仮にも人に顔を見せるのが当たり前の職業に就いているだけあって素人目に見ても見事な笑顔を浮かべ、しかしながら俺の肩と腕をガッチリと……絶対に逃さないようガッチリと掴んだオイカッツォとペンシルゴンに捕まった状態で、俺はさてどうしたものかと割と切実に思考を巡らす。
とりあえず時間稼ぎを兼ねてお約束な感じで……
「き、貴様らどうやってここを……!」
「サンラク君、インベントリアにアイテム突っ込んだでしょ、
「そこから足がついたか……不覚……っ」
「あとはメール飛ばして方向把握したり、どうせ予想の二歩先くらい行ってるから多分既に進んでここだろうって勘もあったけど、まぁ決め手は……」
ペンシルゴンが示した先、状況をうまく飲み込めてないないのか、あわあわした様子で俺とペンシルゴン達を交互に見回すエムル。
「サ、サンラクサンのお知り合いだから案内したの、不味かったですわ……?」
「あー……エムル、覚えておけ……こいつらは場合により簡単に敵に回るから基本的に潜在敵として警戒しなきゃならないんだ」
「ははは、俺と君との仲じゃないかスケープゴート」
「そうだよ、私にとっては二人とも大切な駒……もとい友達なんだからさ!」
聞いたかエムル、この外道共の運用方法は基本的に使い捨てだ。持ち手の部分も刃になってる剣みたいなもんだ、剃刀よりもキレてんなこいつら。
「まぁ茶番はともかくこの下にリアクター修復に必要な条件を満たすためのアイテムがある確率が高いのでとりあえずバンジージャンプしてくれオイカッツォ」
「よし、じゃあ飛び降りようかカッツォ君」
「ああしまった俺がタゲられた!」
戦場ではヘイト管理を怠った奴から死ぬ、俺たちの会話はいつだってキラーパス。
「まぁいいけどさぁ……」
それはそれ、これはこれ。俺がここにいる理由を聞いたオイカッツォは縄を瓦礫にくくりつけると、軽い動きでエレベータードアの奥に広がる穴へと飛び降りた。
シュルシュルと縄を伝う音も遠ざかり、それから暫くして慌てて登って来るオイカッツォ。
「なんかいた?」
「ウェザエモンっぽい感じのスマートなロボが」
沈黙。
「いやいや、流石にあれクラスは無いだろう。あいつ単体で三十分は確定で時間拘束してくるんだぞ?」
「多分ウェザエモンほどじゃあないだろうけど、明らかに高機動型! ってアピール激しい感じのゴーレムが扉を守ってた」
所謂門番的なモンスターはさっきのマトリョーシカではなく、そっちだったようだ。
オイカッツォの話から地下空間の間取りと門番の位置を聞き、どう攻略すべきかを考える。
「ていうかそこの黒兎と長靴をはいた猫は一体?」
「よくぞ聞いた! 我こそは剣せ」
「オイカッツォ君が喉から手を伸ばしてゼスチャーサインしても手に入らないユニーク由来の鍛治師と剣聖」
その時俺が浮かべていた表情と、オイカッツォが浮かべた表情はペンシルゴンが爆笑するようなものであったと言っておく。
「とりあえず下に降りてその高機動ロボとやらを叩かないことには何も始まらないわけだし、行くか」
一度パーティ解消するのも面倒なので、俺を筆頭とした動物パーティに二人を加える形で三人と三匹の混合パーティが完成する。
「NPCを加えたパーティは結構見るけど、半数がアニマルなパーティは初経験だなぁ」
「いいなーユニークいいなー」
「自然な流れで俺を穴に突き落とそうとするのはやめろ」
縄を伝って降りること十数秒、普通に飛び降りていたらまず間違いなく死んでいた地下空間の床に降り立った俺(アニマルリアクティブアーマー装備)は、地下空間でありながら明度が確保されていることに驚く。
「凄いな、この施設まだ
「なんか一気にSFじみてきたねぇ」
「パワードアーマーやら変形ロボやら手に入れておいて何を今更」
続いてペンシルゴンが、オイカッツォが地下空間へと降りてくる。
電気、ではないだろう。何を動力源としているかは不明だが、神代ではない現代の文明では到底再現できないだろう電灯に等しい光量で照らされた直線廊下。
そしてその最果て、明らかに何らかの施設と廊下とを隔てる扉の前に、それはいた。
「直線フィールドはいつの世もクソフィールドの名誉を与えられるんだよなぁ……アラミース、あそこまで届くか?」
「威力を絞れば届くだろう、だが一撃で仕留めるのは不可能であろう」
「いや、当たれば十分だ。俺達で時間を稼ぐからその隙に距離を詰めて袋叩きにしよう」
いつ動き出すか分からないので手っ取り早く作戦を相談し、即興の連携を組み上げる。
そしてアラミースがあの発生から着弾までがやたら速い斬撃波を放つ瞬間、頭にエムルを乗せてバフをガン盛りした俺が同時に飛び出した。
「ははは! ゴーゴーゴー!」
「ぴゃぁぁぁぁあ!!」
急速に接近する
上二腕が前へと掲げられ、エネルギーシールドが展開される。アラミースの言った通り射程のために威力が削られた斬撃波は障壁にぶつかり打ち消される。
だがそれは囮、斬撃波を盾に射程範囲に飛び込んだ俺が致命刃術【水鏡の月】参式機動、背面を斬り付けられた四つ腕ゴーレムは年月を感じさせない迅速な動きで後ろを振り向く。
「エムル」
「はいなっ」
このタイミングでエムルが分離、四つ腕ゴーレムの真正面にエムルを残しつつ俺は壁へと走る。
この手の狭い直線ステージは何度も経験している。明らかにエリアの広さ以上の太さのレーザーで通路が埋まったり、こっちは狭さに苦しんでいるのに敵は普通にポリゴン貫通して尻尾で薙ぎ払ってきたり、ただ単純に敵の図体で道を塞がれて挟み撃ちにされたり………………あ、なんか腹が立ってきた。
「壁走りは必須技能!」
六艘跳び起動。壁へと跳躍し、足が壁についた瞬間にリコシェット・ステップ起動。
このスキルの真価たる「スキルレベルが上がるほどに跳弾するように壁や天井を蹴ることができる」という効果は未だ発揮しきれていないが、後ろに回る分ならば一回の
壁を踏みつけ跳んだタイミングに合わせてエムルが四つ腕ゴーレムに攻撃を仕掛ける。【水鏡の月】によってヘイトがニュートラルな状態になっていた四つ腕ゴーレムはエムルへとターゲットを……
「うおっ!?」
俺が背後へと回った瞬間、四本の腕が一斉に俺をターゲットに手のひらを突きつける。成る程、扉に近づくやつを最優先で排除ということか!
四つ腕ゴーレムの人間の倍ある手のひら、何らかの小型リアクターが埋め込まれたそこからレーザーが放たれる。
幸いどれもこれもが俺のいる場所を素直に狙うものであったので回避自体は容易い。これが回避先に置くように照射するようなタイプであったらダメージは避けられなかった。
「とはいえ……俺一人と他五人、どっちを優先すべきかな?」
「乾坤一擲!」
空を裂き、ペンシルゴンのスタミナ全てを食って放たれた黄金の槍がエムルの頭上を越えて四つ腕ゴーレムの腹へと突き刺さる。
「黄、緑、二重混合【拳気「若草衝」】……ポイントストライカー!」
さらに若草色のエフェクトを纏う拳を構え、オイカッツォが槍の石突きへと肉薄する。左のジャブでマーキングし、右の一撃を叩き込む。手間がかかるということは即ちそれに見合う火力を出せるということ。
四つ腕ゴーレムは眼前の脅威たるオイカッツォに腕を向けようとするが……
「さーてどんな仕組みの扉なのかなー……二兎を追う者は一兎をも得ずって知ってるか?」
扉を守ることが存在理由である四つ腕ゴーレムは扉にぺたりと手で触れた俺に再びヘイトを向ける。
そしてオイカッツォの拳が石突きへと激突、衝撃によって四つ腕ゴーレムは扉の方へと押し出されてくる。
「退きや、そこの男女」
「ありゃ、性別バレしてるや」
「タイタン……ブラスト!」
ダメ押しでさらに叩き込まれるハンマーの衝撃、四つ腕ゴーレムの頑丈な身体をついに貫通した黄金の穂先は、背の装甲を食い破りそのまま真っ直ぐ背後にいる俺へと……いや待て
「あっぶねぇえ!」
「む、すまんの鳥の人」
「貫かれてたら焼き鳥って笑ってやろうと思ったのに」
「こんな金属質なネギが刺さったネギマなんて食えるか!」
「ぶふぅ!ぷ、くくく……金属ネギマ……ふふふっ」
まさかのペンシルゴンに流れ弾がクリーンヒット、顔を背けて笑いを堪えるペンシルゴンを半目で睨みつつ、俺はショートし始めたゴーレムの膝裏を蹴り飛ばす。
踏ん張った状態ならともかく、腹を貫かれた今の状態では正常な判断も望めないらしい。容易く前へと傾いた四つ腕ゴーレムは膝をついて火花を散らす。
そして、丁度良い高さにまで頭が下がったことで、今度は威力が削がれることなく放たれたアラミースの一撃が四つ腕ゴーレムの顔面へと命中。
アイスピックで氷を砕くように、極限まで研ぎ澄まされた一撃が四つ腕ゴーレムの全身にヒビを入れる。
「そう我こそは剣聖!
「あ、それはスキップで」
「えぇえ!?」
長いんだよいちいち。