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親愛なる我が黎明へ 其の七


「超熱魔力炉心フル回転! 綺麗な宝石も高そうなインゴットもぜーんぶドロドロに溶けちゃったーっ!」


「一発何マーニなんでしょうねぇ………」


ガゴン、ギギゴ、ガション。


天守閣が縦に真っ二つとなって大きく開く。

その中心、煌々と燃え上がる灼熱を孕んだ鉄の箱……超熱魔力炉心に絡みついた漆黒の切り株が熱と魔力を吸い上げ、蠢き始める。

断ち切られ、かつてはその面の大きさをそのまま伸ばした雄々しき幹を持っていたはずだったのだろう切り株。それが金属の箱に這わせた根から光を吸い上げ、その断面の中心からぴょこりと小さな芽を出した。

瞬間、芽は茎となり茎は枝に、枝は幹となり……枝分かれと増強を繰り返しながら急激に成長を加速させ始める。

そうして異常な速度で”横に伸びる黒い大樹”はタコかイカもかくやな動きで成長を続け、その成長軌道にあった「異物」を取り込み始めた。


「”砲塔(カタパルト)”形成開始! ほほほ、石食い奇鋼樹(ブラック・カタルパ)ちゃあ~ん? この部屋の風水は最高だぜェ~?」


餡ジュによって室内に配置された家具が、「無機物、鉱物、金属から魔力を吸い上げ成長する植物」のまっすぐな(・・・・・)成長をサポートし、最高の恩恵を受けた”砲塔”が天守閣をはみ出して外へと幹を伸ばしていく。

それはまさしく砲塔。変形天守閣より敵へと向けられた決戦兵器………


「スカルアヅチ・ファイナルキャノン、形成完了!!いて座(サジタリウス)の如くぶっ放しちゃいなよ笑み(エミ)リー!」


「いて座が狙ってるのはさそり座(スコーピウス)ですけどね………」


炉心は天守閣の中央に置かれていた。だがよく見れば、天守閣の床一面には床板に溝を刻む形で一面に魔法陣が刻まれていた。炉心を中央に、家具を中継に、その全てが繋がる先の「円」に笑みリアが立っている。そこは操縦席だ。

笑みリアが”砲塔”と同じ材質の杖をゆっくりと動かせば、炉心を取り込んだ石食い奇鋼樹(ブラック・カタルパ)がゆっくりと転回を始める。狙う先は………樹海の木々すらをも超えて、鎌首をもたげる巨大な龍蛇。


『こちらサンラク、笑みリア氏……』


その時、笑みリアの耳に装着されたインカムから声が響く。それは彼女たちが造り上げた決戦兵器に投資したスポンサーであり、此度の戦いにおける実質的主導者であり…………こういう(・・・・)戦いに、誰よりも精通した人物の声だ。

かつては敵対もした。笑みリアのシャンフロにおける全てと言ってもいいスカルアヅチにあまりにも無粋すぎる対抗をした因縁の相手でもある。

だが、私生活においては「スポンサー」という概念とは縁遠い笑みリアが「金だけ出して口出しはほとんどしない支援者って物凄くありがたいんだな……」と感心するほどに都合の良いパトロンとして肩を並べたならば、その言葉に応えるのもやぶさかではない。


『派手に頼む』


「ええ喜んで……」


操縦桿たる端末杖を掲げ、そして床へと叩きつける。瞬間、杖が床に触れた場所から放たれた光が魔法陣の溝を輝きと共に伝播していく。刻まれた魔法陣が中継となる風水家具を通り、さらにその勢いを増して魔法陣の中心……超熱魔力炉心へと到達。


石食い奇鋼樹(ブラック・カタルパ)の「最初の根」を削って作られた杖、その所有者の意志は魔法陣から「次いだ根」達へと伝わり、幹を通り大樹全体に伝播していく。命令はシンプルに、そして強力に。


───体内の異物を全力で(・・・)排出せよ。


石食い奇鋼樹(ブラック・カタルパ)は巨岩の下より地殻に根を張って育つ奇天烈な生態の植物である。その過程で目の上のたんこぶならぬ、芽の上の岩を吐き出す際………莫大な量の魔力を使い、一気に上へと吹き飛ばす、という性質を備えている。

それはまさしく大砲の如し。であるならばその排出の方向を変え、自然界ではありえない程の魔力を与えてやれば………それは「如く」ではなく、大砲そのものとなる。


炉心に放り込んだ「燃料」の質と量に応じて砲身を伸ばし、その長さに比例した威力で成長時に取り込んだ異物を射出する天然有機決戦用最終巨砲。その名は………


笑み(エミ)リーここで決め台詞だーっ!!」


「スカルアヅチ・ファイナルキャノン、点火(イグニッション)!!」


巨大な漆黒の大樹が内包した異物………新大陸調査船用の巨大な鋼鉄錨(アンカー)を勢いよく吐き出した。











「決め台詞、どうでした?」


「ばっちりだぜ笑み(エミ)リー………ロマン、って感じだね」




「開戦のゴングを忘れたからな……テメーの頭蓋骨で代用だぜ!!」


暗闇の夜空を引き裂くように超高速で飛来した光の塊。よく見れば、矢印のような()を光で包み込んだ彗星の如き光は一直線そのままに……龍蛇の頭に激突した。

ズガギャア!! ととんでもない音を立てて金属塊が頭に命中したことで、龍蛇の頭がとんでもない勢いで後ろへとへし曲がる。


「ひゃっほうブルズアイ!」


「ちょ、サンラクゥーっ! あれ大砲だろ!? 僕を置いて誰を射手にしたんだーっ!!」


「うるせー! 設計者が兼任だよヤシロバード!!」


「くっそ設計段階から立候補すべきだった……!」


射撃になると早口でうるさくなるアホが悔しがりながらも銃を構える。それに続いて他のプレイヤー達も。

言わずとも、だ。この場にいる誰もが、倒れ行く大蛇の姿が………戦いの始まりに放たれた強烈な先制パンチによるものであることを悟ったのだ。


「どうよサバイバアル」


「最高の号砲じゃねえかオイ!」


「奮発したからなぁ!」


全員が武器を構え、迫る毒乙女へと肩を並べる。

旗振り役は啖呵を切った。口火は派手に切った。であれば次は………誰が先陣を切るか? 決まってる、そういう命知らずのバカは握り拳だけで巨大な豚やら猿やらに喧嘩を売れるようなバカが適任なのさ。


「ブチ殺せェェェェェーーーーーーっ!!」


この上なく野蛮な雄たけびと共に、サバイバアルが銛を投擲。先程のスカルアヅチ・ファイナルキャノン(製造費、燃料費俺出資)程ではないにせよ、人が人を害するには十分すぎる穂先が毒乙女の一体に激突。

それを合図にプレイヤー達は走り出したサバイバアルを追うように一斉に毒乙女へと襲い掛る!!


「うおおおおお王国内ゲバイベントはこういうのを求めてたんだよ俺はァーっ!!」


「あはははは! お祭りみたいで盛り上がって来たねー!」


「うおおおお! あれも蛇デッキ関連かァーっ!?」


たった一つの意志の下に同じ方向を向いていれば、末端の動機なんてなんでもいい。あの時は不利すぎる人数差だったが…………今回は違う。右も左もプレイヤー! しかも選りすぐりのシャンフロ上級者!!


「さあ………ぶちかまそうぜ」


ここからは忙しくなるぞぉ………………主に俺が、ものすごく。

・変形天守閣決戦兵器スカルアヅチ・ファイナルキャノン

ものすごーーーーーく噛み砕いて説明すると、木にくしゃみ(・・・・)をさせて砲弾を飛ばしている。

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